第40話 いつでも行けます!

「今回のフェルティナ様の護衛の件だが、初めて依頼を受ける者がいるから説明したいと思う」

「頼む」


 俺達のパーティーは、オスマンとタティヤーナに護衛に関しての流れを聞くことになった。


 何せ初めての護衛依頼なのだ。

 魔物を討伐するだけと言っても、連携やらなんやらも必要となる。

 その辺りも含め、しっかりと聞いておかなければならない。


「俺達が行うのは、王女様の半径300m程にいる魔物の討伐だ。親衛隊が動く必要を極力なくし、王女の護衛に集中させるために、魔物払いである俺達は動かなければいけない」


 オスマンは地面にがりがりと絵を描いていく。

 王女と書かれた大きな点を中心に、小さく円を描いて親衛隊、大きく円を描いて魔物払いと、どの範囲がそれぞれの役割であるかを表していく。


「王女の乗る馬車は当然、日中は目的地であるエレフセリアへと動き続ける。そのため、俺達は移動しながら魔物を狩る事になる。体力が必要となるが、お前たちは大丈夫か?」

「問題ない。ここ一か月で相当体力はついたからな。俺は一日ぐらいなら寝ずに動き詰めでもなんとかなる」


 奏の回復魔法のおかげで、この大陸に来る前より断然体力がついた。

 いくら森の中を駆け回ろうと、今なら余裕で耐えられる。


 それに奏の回復魔法もあるし、どちらかと言えば精神力の方が必要となりそうだ。


「寝ずに強行して魔物を打ち漏らしたら評価に響く。王女の後続に馬車を走らせるから、休憩や寝る時の事は安心しろ。そうだな、寝る話も出たし、それぞれが魔物払いをする時間帯についても説明しておくか」

「やっぱり夜も魔物払いをするのか」

「当然だ。夜に王女が襲われて死にましたではシャレにならん。昼の方は体力的な負担は大きいが、夜は精神的な負担が大きい。何せ一匹でも打ち漏らすと大事になるからだ。昼はいつでも逃げられるが、夜はそうはいかない。繋いである馬を離したりするのにも時間がかかるからな」

「昼は私たちのタルナーダが魔物払い、夜はオスマンのフォルテスが担当するのよ~」


 どのようなシフトなのか、タティヤーナが口にする。

 どうやら、俺達が来る前にどう行動するかは決まっていたらしい。


「竜人は夜目が利くのですか?」

「人間やエルフよりはな。獣人も夜目が利くのもいるそうだが、災厄の黒猫ブラックディザスターも夜目は利くのか?」

「私は夜も見える。それと、リアって呼んでほしい」

「すまない、次からはリアと呼ばせてもらおう。夜目が利くのなら是非夜に活動してもらいたいものだが、三人一緒の方がいいだろう。人数も少ないこともあるし、お前達には昼の遊撃部隊として動いてもらいたい」

「遊撃部隊?」


 それは暗に、俺達に自由に動いていいと言っているのだろうか。

 そうしてくれるならありがたいとは思うが。


「私たちはある程度の陣を保って進んでいくけれど、移動しながら魔物と相対していると、どうしても遅れちゃうところが出てくるのよ~。貴方たちにはそういった時に、その穴埋めとして動いてもらいたいの~」

「なるほど。だから遊撃部隊か」

「そうだ。お前らは基本的に後方で待機することになる。そして必要な時に動いてもらう事になるだろう」

「それは俗にいう戦力外通告では……?」


 奏がそんなことを口にする。

 後方で待機という事は、指令があるまで動かないという事である。

 連携の邪魔になるというのは分かるが、少しあからさまではないか?


「奏、違う。遊撃部隊は一番疲れるところ。周りに振り回されて行って戻るを繰り返すから、強い人を置く」


 リアが遊撃部隊についてそう説明する。


 どうやら俺と奏が思っているものと違い、結構重要なポジションらしい。

 行ったり来たりを繰り返すという事は、魔物と相対するとそれだけ陣形が崩れてしまうという事だ。

 戦闘を行いながら移動するというのだから、それは当然なのかもしれない。


「リアちゃんの言う通りよ~。戦いながら進むだけなのとは違って、考えて動かないといけないから一番大変なの~。ちなみに、私も遊撃部隊の一人として動くことになるわ~。だから、貴方達には期待しているのよ~?」

「初めての護衛でそんな重要なところを任せられるのも不安ですね……」


 何分、勝手が全く分からないのだ。

 期待してくれているのは嬉しいが、そんな重要なところを務められるのかという不安もある。

 だが、任される以上、やらなければいけない事だろう。


「大丈夫だ。適当なターニャが出来るのだから、お前達が出来ないわけがない。むしろ俺としてはターニャの方が心配だ」

「ちょっとそれは言い過ぎじゃない?これでもパーティーのリーダーなのよ~、私?」

「だからだ。緩い、適当、気が抜ける。こんなのがパーティーのリーダーだと思うと、メンバーが不憫で仕方ない」

「酷いわ~。これでも皆私の事を慕ってくれているんだから~」

「その乳にほれ込んでいるだけではないか?」

「このおっぱいも私の一部だからいいのよ~」


 腕を組み、自らの胸を強調するタティヤーナ。

 正直、目のやり場に困るからやめて貰いたい。


「お二人は仲がよろしいんですね。慣れた様子ですし、護衛依頼は何度か受けているんですか?」

「こんなのと仲良くても嬉しくないが……そうだな。俺達が護衛依頼を受けるのはこれで二桁になる。その内タルナーダと共に行動したのは七回か。そう考えると、長い付き合いになるな」

「そうね~。私の事いやいや言いながら同じ任務を受けるんだから、貴方も物好きよね~」

「俺は王族からの依頼である事と報酬がいいから請け負っているだけだ。好き好んでお前と共に受けているわけではない」

「そんな事言って~。好きなんでしょ?おっぱい」

「……その無駄な脂肪、削ぎ落としてやろうか」


 寄せ上げるタティヤーナに対し、酷く冷たい目で睨みつけるオスマン。

 そんなオスマンに恐怖したのか、タティヤーナは奏の後ろにそそくさと隠れ逃げる。


 オスマンは結構まじめにタティヤーナの事をよく思っていないらしい。

 だがちゃんと相手をしてあげているところを見ると、見た目に反し優しいところがあるのかもしれないな。


 そんなことを思っていると、橋の方から誰かがこちらに駆け寄ってきた。


「オスマン様!タティヤーナ様!そろそろフェルティナ様がこちらを通過するそうです!急いで出発の準備を!」


 どうやら伝令だったらしく、フェルティナが来るとの旨を二人に伝えた。


「ちょうどいい頃合いだったな。では出立の準備をしよう」


 そう言うとオスマンは輪から外れ、集まっている冒険者たちに大声で伝える。


「全員聞いたな!もうすぐフェルティナ様がここを通られる!タルナーダの先行部隊は今すぐ出発し、王女様に降りかかる危険を排除しろ!それ以外の者は一度ここで待機し、王女様が過ぎるのを待って出発する!絶対に魔物を見逃すな!見逃したら報酬として自らの身に降り注ぐと知れ!完璧に仕事をこなせば報酬は増える!皆、死ぬ気で王女を守り抜け!」


 オスマンの鼓舞に対し、冒険者が呼号した。


 その迫力に俺は気圧されてしまい何も言えなかったが、皆が皆あわただしく動き始め、護衛依頼が始まるのだと感じ始める。


 ここまで長かったが、この日のために俺達はさらに力をつけてきたのだ。

 絶対に失敗のできない任務である。


「お前たちも準備しておけ。そういえば荷物も何も見当たらないが、積み込むものはないのか?馬と荷台だけは用意してあるが……」

「荷物の方は問題ない。馬を用意してくれているだけでば十分だ」


 荷物はミアも覚える事の出来た次元収納ディメンション・ボックスに詰め込んであるからな。


「そうか、まあいい。それなら仕事をしないターニャの相手をしていてくれ。邪魔をされてはかなわん」

「仕事をしないんじゃなくて、適材適所って言うのよ~?」


 どうやらタティヤーナは準備することがないらしい。


 本当にそれでいいのかと思いつつ、俺達は少しの間、タティヤーナと親交を深めるのだった。

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