第38話 またまた閑話なのです

 久々の外出。

 俺と奏は、二週間ぶりに屋敷の外へと足を踏み出していた。


 神奈とミアも同行しており、4人揃って出かけるのは初めての事だ。

 ちなみに、俺と奏はジャージ姿で、神奈は白衣に私服、ミアはいつも通りのメイド服である。


「俺と奏は冒険者ギルドに行くが、二人もそれでいいのか?」


 二人に問いかけると、それぞれ違う答えが返って来る。


「私は構わんぞ」

「私は今夜の食材を買いに出ただけですので、すぐに分かれる事になります。私の用があるのは貴族街のお店ですので」


 どうやら、神奈はこのままついてくるようだが、ミアは買い物に行くらしい。


「んー、食材っていうのは今夜のだけですか?」


 何か思う所があるのか、奏がミアにそう問いかけ、ミアもそれに答える。


「はい。明日の朝昼の分はありますので、今日は今夜の分だけですね」

「では、今夜は外食という事にしませんか?そうすればミアも楽できますし、皆で色々と見て回る事が出来ます」

「私は構いませんが……」


 ミアがちらりとこちらの方を見る。

 どうやら、俺に確認を求めているらしい。


 正直な話、ミアがいてくれれば安心できるというのはある。

 店なんかも良く分からないし、ミアがいてくれればそういった所でも頼りになるだろう。

 そして何より、ミアを働かせてばかりで申し訳ないと思っていたのだ。

 俺たちが一緒で休めるかどうか分からないが、息抜きになってくれればと思い、俺は奏の意見に賛同する。


「よし、なら今日の晩は外食にしよう。ギルドで少し時間は取るが、付き合って貰うぞ」

「かしこまりました」


 ミアがお辞儀をしながら笑みを浮かべる。

 一緒に行く事自体は嫌ではないようで安心した。


「じゃあ行こうか」


 そうして、俺達は、冒険者ギルドへと向かった。




「待たせたな」


 ギルドに着き、ギルドマスターと会談する事半時間。

 用事を済ませた俺は、外で待っていた三人と合流していた。


「思ったより早かったですね」


 俺の言葉に反応した奏が、俺に近寄りながらそういった。


「まあ殆ど確認にいっただけだからな。これで準備も整った。後は明日を待つだけだ」

「あまり無茶はなさらないでくださいませ」


 ミアがそんな心配してくるが、残念ながら無茶をする事になるだろう。

 死ぬ事はないとギルドマスターからは言われたが、どう転ぶかは分からないのだから。


「それで、神奈は一体何をしているんだ?」


 俺は、離れた所で街灯をマジマジと観察している神奈を見て、奏達に問いかける。


「時代考証をしているみたいですよ。天動説がどうとか銃はどうとか。今は街路灯から時代考証しているみたいですね」

「科学者として気になる所なのか」


 俺はそれを聞き、神奈の元へと歩み寄った。


「お、渉。終わったのか」

「無事に終わったよ。そっちはどうだ、この街がどれぐらいの時代の物かわかったのか?」

「全然だ。この街は世界の歴史から見ると、どうにもちぐはぐだな。ガス灯が出来たのは確か1800年頃だが、主流であるという火縄マッチロック式マスケット銃は約1500年頃の発明だ。それに加え、その頃には整備されていなかったはずの上下水道も完備されていたりもするし、時代に統一感が無いんだよ」


 神奈がため息をつきながら街灯にもたれかかった。

 科学者としては、どうにも認められない部分があるのだろうな。


「まああまり深く考えない方がいいだろう。訳も分からず出現した土地な上、魔法なんてものがある世界だ。まともな科学発展していないんじゃないか?」

「まぁそうだろうな……」


 納得しきれないのか、しかめっ面を崩さない神奈。

 俺はそんな神奈を見て、その小さな体を持ち上げ、肩車した。


「うぉっ!?いきなり何をするんだお前は!」


 突然肩車され、抗議の声を上げる神奈。

 しかし、暴れると倒れると分かっているのか、俺の頭に両手を置いてバランスを取っている。


「そんな低い世界で物を見ているからそんな顔をするんだ。目線を変えて見れば、何か違うものが見えるかもしれないぞ?」


 肩にかかるものはそう重いものではない。


 神奈はこれだけちっこい身体で、色々なものを見てきたのだろう。

 神奈がどんな世界を見ているか分からないが、たまには視点を変えてみるのもありなんじゃないだろうか。


「まぁ気分の悪いものじゃないな。これだけ高いと、遠くまで見渡せる」


 今の神奈は、俺でも見る事の出来ない景色を見ているのだろう。

 その目にどう映っているかはやはり分からないが、その声には、何か晴れやかな物を感じたような気がする。


「あー!神奈さん何してるんですか!羨ましいです!」


 奏が俺のやっている事に気が付き、そんなことを口にする。


 というか奏、その年にもなって肩車が羨ましいのか……。


「奏様、あれが羨ましいのですか……」


 俺と同じ感想を抱いたミアが、呆れながら乾いた笑いを浮かべていた。


「我が妹ながらお恥ずかしい……」

「さぁ、散策に行くぞ。ほら渉、私の代わりにさっさと歩くんだ!」


 神奈に急かされ、仕方なく俺は歩みを進める。


 奏の羨望をその背に受けながら、俺達は散策を開始した。

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