第8話 まずは流れを掴みましょう
魔通の儀を体験した次の日。
俺と奏、ミアの三人は、魔法を使ってみるために、自宅の庭先に出ていた。
何故翌日になったのかというと、魔通の儀を行った日は魔素が身体に馴染んでいないため、魔法の制御が非常に難しく、暴走する可能性が高いらしい。
一日経てば魔素も安定し、比較的安全に行使できるというので、魔法を練習するのが翌日になったのだ。
「魔法を行使するためには、魔素の流れを把握する必要があります。正しく魔素の流れを把握せずに魔法の行使をしようとすると、下手をすれば命にかかわるような魔力暴走を引き起こす可能性がありますので、お二人にはしっかりと魔素の流れを把握した上で、魔法をお使いいただきたく思います」
講師として教鞭を振るっているのは、この屋敷のメイドであるミアだ。
この大陸において俺達はミア以外に頼れる人がいないため、当然と言えば当然だ。
ただ、この大陸に移住してきて、頼れるのがミア一人しかいないというのは問題かもしれない。
ミアもずっと俺達につきっきりというのも難しいだろうし、他に信頼できる人間がいたら、この大陸での生活も楽しくなるだろう。
「魔通の儀を終えて一日が経っていますので、魔素も身体に馴染んだ事でしょう。魔素が馴染んだ今なら、昨日は感じられなかった感覚を感じ取ることが出来るかもしれません。心を落ち着かせ、魔素の流れに集中してみてください。身体の中を水が流れているようなイメージを得る事が出来れば、魔法を行使するための第一段階はクリアです」
「過去に練習をしていた兄さんなら直ぐに出来そうですね」
「やめろ奏、傷口を抉ろうとするな」
さわやかな笑顔で黒歴史を晒してくる奏に、俺は早口に発言を制止するよう求める。
ミアが不思議そうな顔をしているが、この事に関して俺が語る事は何もないだろう。
俺は余計なことを考えないように、ミアの言葉の通り、魔素の流れを感じ取るために集中する。
身体の中を水が流れているような感覚という事は、身体の中に流れる血液に似ているように思う。
血液の流れを感じる事はできないが、魔素は流れを感じ取れるという。
なので、血液に乗って魔素も流れているのではないかと仮定して、魔素の流れを感じ取ってみる。
具体的なイメージがあれば、早く感じ取ることもできるだろう。
そう思い、血液に魔素が乗るイメージで集中していると、突然、すっと透き通るような感覚が身体中を駆け回った。
冷たいように感じるのだが、不思議と寒気は覚えず、不快感も全くない。
これが魔素の流れのようだが、凄く心地のいいものだった。
「ミア、魔素の流れを感じ取れたぞ。透き通るようで気持ちいいものなんだな」
「兄さん、もう感じ取れたのですか?」
「ああ、思ってたより簡単だった」
「むー、流石、昔他人の目を気にせず練習をしていただけあります」
「昔練習していた練習法とは全然違う!過去の事を持ちださないでくれ!」
俺が昔練習していたのは身体の中心に気を集める練習法であって、今回の練習法は初めて使用するから関係ない。
と、的外れな反論をしてしまったが、奏は早々に習得してしまった俺に対し嫌味を言いたかっただけのようで、唸りながら魔素の流れを掴む作業に戻っていった。
「あの、もう流れを掴めたのですか?」
ミアが驚いたようにそう問いかけてくる。
「今までにない感覚だから間違いないと思う」
「魔素の流れを感じる事が出来るまで、大体一週間ほどかかると言われています。私でも早い方だったのですが、それでも三日ほどかかりました。これだけ早く感じ取ることが出来たという話は聞いた事がありません」
「おお……そんなにかかるものなのか……」
何もない所からいきなり魔素の流れを感じろというのは、思っていたより難しいものだったらしい。
直ぐに出来てしまったためあまり難しかったという感じはしなかったが、具体的にイメージしたのがよかったのかもしれない。
奏に教えて確かめてみよう。
「奏、ちょっといいか」
「なんでしょう?」
「魔素の流れなんだが、血液に乗って魔素が流れていく感じで想像してみるといいかもしれない。俺はそれですぐに感じ取れた」
「血液に乗る感じ……分かりました。やってみます」
そう言うと、奏は再び集中し始めた。
もしこれで奏がすぐに魔素の流れを感じ取ることが出来れば、イメージをするという事が重要だという事になりそうだ。
そうすれば、魔法というものを覚える際にも必須になってくるだろう。
「渉様。血液に乗る、というのはどういう事ですか?」
俺の言ってる事が分からなかったのか、ミアがそう質問してくる。
「そうだな……血液は心臓から送られて全身を廻るだろう?その血液の流れに、魔素が含まれていると仮定してみたんだ。そうしたら、思った以上にすんなり魔素の流れを掴む事が出来たから、血液に乗る、って表現したんだ」
血液は流れるものだから、乗る、という表現は分かり辛かったかもしれないな。
「血液は肝臓から送られるのではないのですか?」
「……ん?血液は心臓から送られるんだぞ?」
「?」
「?」
双方の認識が合っていないようで、俺とミアの間で首を傾げ合うという謎の行動をしあう。
俺の認識が間違っていなければ、血液は骨髄で作られ、心臓がポンプの役割をし身体中に血液を行き渡らせているはずだ。
少なくとも、肝臓がポンプの役割をしているという事はまずない。
俺がミアに対して、認識の間違いを正そうとすると、それを遮るかのように奏が大きな声を上げてそれを遮った。
「出来ました、出来ましたよ兄さん!身体の中を水が流れるような感覚……すごく新鮮です!兄さんのアドバイスのおかげです。ありがとうございます!」
「おお、おめでとう奏。これで前段階はクリアだな」
奏に手を取られながら、俺は祝福の言葉を送る。
これで二人共、魔素の流れを感じ取ることが出来た。
イメージをしっかりと持つ事が、魔法を習得する一番の鍵になりそうだ。
「まさかお二人が、一日目で魔素の流れを感じ取ることが出来るだなんて……」
ミアは驚きを隠せないのか、口に手を当てて目を見開いている。
一週間近くかかると思われていた事が、こんな短時間で終わってしまったのだ。
俺には分からない感覚だが、ミアにとっては衝撃的だったのだろう。
なにはともあれ、これで魔法を使う為の前段階は終わったと言っていいだろう。
どんな魔法が使えるようになるのか楽しみだ。
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