第7話 魔法の準備、整いました!

「さて、よろしいですかな?」

「いつでも大丈夫です」

「準備出来てます」


 俺達は礼拝堂を離れ、礼拝堂の隣にある儀式部屋に移動していた。

 辺りはやや薄暗く、俺と奏は向かい合わせになっている。

儀式は二人同時に出来るものらしく、足元にはそれぞれ直径約二メートル程の魔法陣と思われる物が描かれている上、水路が張り巡らされている。

 そのため、俺達は靴を脱ぎ、裸足で魔法陣の上に立っていた。

 魔法陣の中心からは柱のようなものが腰辺りまで伸び、その柱の上には、うっすらと鈍色に光る鉱石のようなものが設置されている。

 この鉱石のようなものがアダマンタイトなんだろう。


「では手を柱の上においてください」


 ヘクター大司教が、魔法陣の外からそう支持を出したので、俺と奏はその指示に従う。

 ミアも魔法陣の外で見守っているが、心配している様子はない。


「では始めましょう」


 そう言うと、ヘクター大司教が呪文のようなものを唱え始める。

 その呪文に応じてか、足元の魔法陣が光り始めた。

 そして、その光が徐々に柱を渡ってきて、その光が手元へと到達すると、えもいわれないような感覚が体中を駆け巡った。

 どう説明したらいいかよく分からないこの感覚に、抜けるような違和感の意味がよく分かった。

 その感覚が数秒ほど続き、その感覚が収まるのと同時に、魔法陣も光を失った。


「お疲れさまでした。これにて魔通の儀は終了です」

「これで魔法が使えるようになったのですね……!」

「力がわいてくるような感覚は感じられないな」


 目を輝かせる奏を横目に見つつ、靴を履きながら変化点を探すが、儀式を受ける前と後で何の変化もないような気がする。


「魔通の儀を終えてすぐは感じる事は出来ないでしょう。もう少し経てば、身体に透き通るような感覚を覚えるはずです。そうなれば、完全に魔素が身体に馴染んだと言えるでしょう」

「すぐに使えるというわけではないのですね……」


 あからさまに肩を落とす奏を、微笑ましげにヘクター大司教が眺める。

 奏はすぐに使えない事に対して落胆しているが、俺達は何の問題もなく魔通の儀を終えたのだ。

 魔法を使えるようになるまで、そう時間はかからないだろう。


「では最後に適性を確認しましょう。礼拝堂の方に戻ります」


 そう言われ、俺と奏とミアの三人はヘクター大司教の後をついていく。

 礼拝堂の前方に着くと、ヘクター大司教は水晶玉のようなものを机の上に置いた。


「こちらの水晶に手をかざしてみてください。ここに手をかざすと、魔法適正により水晶の光りの色が変化する仕組みとなっています」


 どうやら、この手の平サイズの水晶玉で適正が分かるらしい。

 その説明を聞いて、奏が興奮したように声を上げる。


「凄いですね!私からやってみてもいいですか?」

「構わんよ」


 俺がそう言うと、奏がおそるおそる、といったように水晶に手をかざした。

 すると、水晶が淡く光り出し、黒、青、白と色を変化させていく。

 そして、だんだんと色の変化のスパンが長くなっていき、最終的に白色の光を放ちつつけるようになった。


「……ほう、まさか回復適正をお持ちになるとは。いやはや驚きました」


 ヘクター大司教は、白色に固定された水晶を見てそう呟いていた。

 魔法による適正は、確か攻撃適正が九割九分を占めると言っていたはずだ。

 という事は、奏はわずか一割の適性を持っていたという事になる。

 容姿にも恵まれ、才能まで与えられるとは、我が妹ながら恐ろしい。


「やりました兄さん!救済者プリーストですよ!救済者!一分未満のレア適正です!これでダメージを受けてもへっちゃらです!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるように喜ぶ奏。

 普段がクールなので、こう喜びを表現する事はあまりないのだが、ここまで喜ぶとい言う事は相当うれしいようだ。


「よかったな奏」


 奏のはしゃぐ姿を見て微笑ましくなり、俺は奏の頭を撫でていた。


「す、すいません。はしゃぎすぎました……」


 奏は、はしゃぎ過ぎていた事に気付いて恥ずかしくなったのか、顔を赤くして小さくなってしまった。

 奏のはしゃぐ姿なんてなかなか見られないから、もう少し見ていたかった。


「奏様がはしゃぐのも無理はないでしょう。回復適正は絶対数が少なく、皆が憧れる適正です。西條家に回復適正が現れた事を誇りに思います」

「あ、ありがとうございます」


 ミアのフォローに対し、奏はさらに顔を真っ赤にする。

 このままいくと、奏が茹で上がってしまいそうだ。


「じゃあ俺もやるか」


 俺も水晶の前へと移動し、ゆっくりと手をかざす。

 手をかざすと水晶が光り、黒と青と白をローテーションするように変色していく。

 だんだんと色の変化のスパンが長くなっていくが、俺は奏と違い、青い光で安定した。


「青……補助適正サポートですね。これから苦労する事も多いかと思いますが、頑張ってください」

「え?なぜ補助適正だと苦労するんですか?」


 ヘクター大司教の言葉に、俺は疑問が浮かぶ。

 補助適正という事は、恐らく支援系の魔法が使えるのだろう。

 バフ・デバフは、戦闘を左右する大きな要因になる。

 まだ一度も魔物と出会っていないため分からないが、魔物と戦うような事があれば、十分に必要な戦力になりうると思うのだが。

 そんなことを考えていると、ミアが補足するように説明してくれた。


「渉様。申し上げ辛いのですが、補助適正は多くの者から嫌われる適正です。補助魔法は扱いが難しいものが多く、その割には役に立たないと言われています。世間では不遇の適正であり、補助適正というだけで馬鹿にされるのです」

「補助魔法が役に立たない……?」

「補助魔法って結構重要ですよね……?」


 奏も俺と同じ事を考えているのだろう、補助魔法に対する認識が根本的に間違っているのか、俺達兄妹は揃って疑問符が浮かぶ。

 しかし、この世界の補助魔法がどんなものか分からない以上、ここでどうこう言うのは間違っているかもしれない。


「まあ珍しい適性を手に入れたんだ。とりあえずそれで良しとしよう」

「そうですね。二人揃ってレア適正です!」


 何はともあれ、これで魔法が使えるようになったのだ。

 今はその事を喜ぼう。


「では、これにて全て終了となります。お疲れさまでした」

「ありがとうございました」

「またお世話になるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

「教会はいつでも門戸を開いております。いつでもお頼り下さい。汝等に、アテナ様のご加護があらんことを」


 こうして、俺達の魔通の儀は終了した。

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