ロリと誘拐犯
しばし道を歩いたあと、遥香が洋服を見たいということでたまに行くことのあるショッピングモールに3人で入ったところまでは良かったものの。
「これ、似合いそうじゃない?」
「えー、そうかなー?」
キャッキャウフフとばかりに穂花と遥香はお互いに似合うと思う服を選んでは、それを人形のごとく着せあっている。
「……」
おれ、帰っていいかな?
絶対必要ないよね。
おまけに周りからの視線が痛いんだよ。
ただ、突っ立ってその光景を見ているだけだし。ストーカーかと思われてそうだわ。
かといって、あの輪に入る勇気はないし……
はぁ、仕方ないか……
「ちょっと飲み物買ってくる」
2人に聞こえるくらいの声量でそう言ってから、おれは返事も聞かずに2人の元から足早に去っていった。
安易な手だが、使わせてもらった。
さて、適当に時間潰してから戻るか。
ついでに2人の分の飲み物も買っておこう。手持ち無沙汰で戻ってくるのもあれだしな。
そうして1つ下のフロアに降り、適当な喫茶店に目星をつける。
と、その店の入り口の前に1人の女の子が立っていた。
「……」
見た目的には7.8歳ってとこか。
白のワンピースを着ていて、つまらなさそうに床を見つめている。
買い物してる親御さんでも待ってるのかな。まぁ別に気にすることでもないか。
おれは一瞬だけ目を配ったが、すぐに目線を前に戻し、店の中へと入っていった。
◆
「……」
ああ、最悪だった。これなら、自販機で飲み物を買えば良かったとおれは店を出てから激しく後悔した。
というのも、店内はもはやリア充の巣窟と言ってもいい程にリア充で溢れかえっていた。
そこかしこで繰り広げられる甘ったるい展開に胸焼けがしそうだった。
大体、今時、2人で1つのドリンクを飲み合うとかおかしいだろ。しかも、ストローがハートマークって、おい。
そんなメニューを置いてるこの店もどうなんだと疑ってしまった。
「はぁ……」
おれは盛大にため息を吐いた後、近くのベンチに座り、ドリンクが固定されている紙の箱から自分の飲み物を取り出した。
そして、ストローに口を付ける。
「……」
すると、おれが店の入り口で見かけた女の子が惹かれたようにタタタと駆け寄ってきた。
そして、おれのドリンクを凝視。
「え、と……」
ストローから口を離し、少し固まってしまう。
なんですか、この子?
ずっとドリンク見て……もしかしてほしいのか?
「これ、おいしい?」
すると女の子が顔を上げてそんなことを聞いてきた。
うわ、この子、かわいいな。すごい顔が整ってる。将来はきっと美人に……っておれはロリコンじゃないぞ。これは世間一般的な意見だ。うん。
「あ、ああ、おいしい……ぞ。最近出た新作らしいし」
「ふーん……」
おれの返しに女の子は含みを持った返事をする。
これは絶対ほしいやつだよね。うん。
仕方ないな。ずっと見られながら飲むのも嫌だし。
「これ、飲む?」
「え!いいの!!?」
おれの言葉にぱぁぁと弾かんばかりの笑顔を浮かべる女の子。
やばい、なんだこの笑顔。もしかして女神?
軽くときめいたわ。こういうのからロリコンに目覚めたりするのかな。ほんの一瞬だが、理解できた気がする。できれば理解したくなかったけど。
って、しまった。これは2人のために買った飲み物だったのに。
はぁ、しょうがない。またあの店に買いに行くしかないか。激しく気が重いが……
しかし、それよりも成り行きでドリンクあげてしまったが、大丈夫か、これ……?
いや、大丈夫じゃないよね、ダメだよね。
お菓子で誘惑する誘拐犯のやり口かロリコン野郎の手口だぞ、これ。
いやいや、何言ってるんだ、大丈夫。そもそも誘拐するつもりなんてないし、おれはロリコンでもない。それより、誰と来たのか聞いてみるか。そっちの方が気になるし。
「ここには誰と来たんだ?」
「お母さんと来たよ。でもお洋服買いに行くって言ってどっかいっちゃったの」
足をブラブラさせながら、女の子は応えた。
「そっか」
ということは、この子は迷子ってことか。
親御さんも心配してるだろうし、とりあえず、ドリンク飲み終わったらサービスセンターに連れて行くか。
「あ、そういえばお母さんに知らない人から何かをもらっちゃダメだよって言われてたの忘れてた」
すると、女の子が唐突にそんなことを言い出しので、おれは口に含んだばかりのドリンクを危うく吹き出しそうになった。
「けほっ……だ、大丈夫。おれは京介って言うんだ。ほら、これでもう知らない人じゃないだろ?」
ってあれ、この流れ、完全に誘拐犯の口調パターンじゃん!違う違う!おれはやってないから!っておれは誰に向かって言い訳してんだよ。
「京介お兄ちゃん……ん、どこかで聞いたことある名前……」
しかし、意外な言葉が女の子の口から発せられた。ドリンクを両手で持ちながら、むむむと眉を寄せ、八の字を作って必死にどこで聞いたから思い出そうとしている。
まぁでも京介なんて名前、ごまんといるだろうし、両親の会話でたまたま聞いたとか、学校にいるとかそんなところだろう。
「あーいたいた!何よ、ドリンクなんて飲んでゆっくりしちゃってさー」
そんなことを考えていると見知った声が横から聞こえてきた。
「あー、悪い。ちょっと色々あってさ……」
言いながら声の聞こえた方に首を向ける。
そこには穂花と腕組みをした遥香がいた。
ちゃっかり購入したのであろう服屋の袋をそれぞれ手に持っていた。
「色々って何よ……」
遥香は文句を垂れながらおれが持っているドリンクと隣に座っている女の子のドリンクを交互に見比べる。そして。
「ま、まさかあんた、誘拐……!?いや、ロリ……!?」
信じられないと言った様子で遥香は目を見開き、口元を抑えた。
「違う違う!まずは説明させてくれ!!」
やっぱり、こういう展開になるのかよ!
ていうか身内にもこう思われるおれって一体……
それよりも思考パターンが一緒なのがびっくりだわ……
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