第314話「戦う者達」


 オイル協定諸国には現在、EEの一部の部隊が在中している。


 ごパン大連邦の成立と同時に教導隊としての役割を持って、各国の軍のてこ入れを図っている最中だからだ。


 要はパンの国のレギオンな軍隊の精鋭は今現在は何処も彼処も部隊を分散させて士官は殆ど陣頭指揮に立っているという事である。


 元々大陸東の最高練度な彼らの指導は厳しいが極めて合理的。


 そのノウハウを伝授された各地の軍が一体となって連邦軍の体で動けていたのは殆どEE達の手腕であり、さすがフラムの同僚と思わざるを得ない。


 ヴァルドロック・パプリカ。

 シーレス・フォン・グリニッジ。


 豆の国が崩壊する事になった一件ではパシフィカの側近として働いていた彼らは今や本国でも最大の権力者であり、EE達の後ろ盾だ。


 皇帝である男は今現在、現場で椅子に座って難民の受け入れの陣頭指揮をする者達に混ざっているという事で来ていなかったが、それにしても王城跡地横のキャンプ地で出会った二人からの鋭い殺気は正しくこれから殺されそうにも思えた。


「久しいですな。カシゲェニシ殿」


 巨体のオッサンが凄い笑顔でこちらと握手する。


「パシフィカなら無事。いや、ちゃんと救い出した後だ。今は月にいる。だから、そんな顔しなくてもいいぞ。オッサン」


「その月が消えたわけですが」


 シーレスが眼鏡の下から鋭い視線で睨んで来る。


「今は物理的に消されてるだけだ。状況が変わったら月も出現する。それまでに諸々やっておかなきゃならない。パシフィカも他の嫁も全員にちゃんと保険は掛けて来た。どんな事があってもこの星が滅ぶよりは後に死ねるから、その物騒な針は勘弁してくれ」


 シーレスがジットリした半眼で本当だろうなという顔をしつつ、懐から取り出そうとしたきっと筋弛緩剤塗りの長い針を仕舞った。


 キャンプ地の中央。


 今現在、大連邦のCPの1つとなっている其処の周囲には忙しく軍人達が報告しに入って来ている。


 城塞都市全てでその周囲には難民キャンプが広がっており、その大きさはパンの国にこそ及ばないものの、かなりの規模だ。


 それを全て何とかしている2人が同時に揃う事そのものが異常事態。

 テント周囲を見張る衛兵達も緊張している様子だった。


「輸送機の連中は此処で働かせてやってくれ。オレはこれから南部の天海の階箸に向かう」


「どういう事なのか説明を」


 シーレスが溜息を吐いた。


「南部でポ連の後ろにいた連中が暗躍してる。叩きに行くのに脚が必要だ。車両を貸してくれ」


「いいでしょう。それでそちらのお嬢さんは?」


 シーレスがテント内のコーヒーメーカーらしきものから黒々とした液体を入れてくれる。


 砂糖とミルクを適当に注いだソレは正しくカフェオレに違いなく。


「地震と津波の元凶となった兵器を使った国の外交大使だ」


 2人が大きく溜息を吐いた。


「言いたい事は幾らでもあるだろうが、今はコイツが頼りなんだ。取り敢えず、パシフィカの事は月が出現してからだ。ちゃんと連れて帰って来る。里帰りくらいさせてやりたいとは思ってたしな」


「その言葉を我々は信じる以外に無い。だが、だからこそ言っておきますぞ。婿殿……生きてパシフィカ様にお会いなされ」


「……オレそんなに死に急いでるように見えるか?」


「自分の身を挺してパンの国の首都を護り通し、肉体を失っても蘇った。蘇ってすら、貴殿はパシフィカ様達の下へ帰って来た……死んだという報を受け取った時のような……あんなパシフィカ様のお顔はもう見たくない。この老骨が言える事はそれだけです……」


 ヴァルドロックの瞳はただ真っ直ぐだった。


「殿下はお強く成られた。あの報が届いた時から……貴方の妻足らんと昔よりもしっかりなされました。それは高僧達も言っている事です。ですが、それが無理をしている事は明らか……個人としては婿としての貴方は50点です。パシフィカ様を死んでも護り通した事を50点とすれば、死んだ事の減点が50点と言ったところですか……」


 シーレスの言葉に最もだと頬を掻く以外無い。


「その点数覚えておく」


 来人的な話はこれくらいにして、と。


 2人にファースト・ブレッドで配られているだろう玉を渡して機能を解説しておく。


「それで食糧問題はある程度解決するだろう。もしかしたら、更なる天変地異が襲ってくるかもしれない。気を付けろよ」


「ふ、この一連の地震が始まって以来、気を抜けた日はありませんよ」


 シーレスが肩を竦め。


「左様。我々はただ民を護り通すのみ」


 ヴァルドロックが頷く。


「お義父とうさんにもよろしく言っておいてくれ」

「畏まりました」

「必ず伝えましょう」

「行くぞ。中佐殿」

「あ、は、はい!?」


 何か付いていけてない中佐が気遅れした様子で外に付いてくる。

 どうやらちゃんとカフェオレは飲み干したようだ。

 現在時刻は夕暮れ時。

 航空機で二時間と言っても数百km以上先だ。

 車両に乗って行けば、軽く1日は掛かるかもしれない。


 だが、航空機に乗っても撃墜される可能性がある以上、此処からは陸路を行くしかないだろう。


 そうこうしている内にキャンプ地の前の通路に軍用車らしきものが一台回されてくる。


 それから降りた兵士に労いの言葉を掛けた後、乗り込んで確認すれば、飛行船と同じくマイクロ波で電源はチャージ出来るらしい。


 一度の充電で1200kmは余裕との事で電力は満タン。


 バレルの一件で車両の運転技術は習得済みなので走らせるのは問題ない。


「乘れ。此処からはアクセルをべた踏みだ」


 中佐が物凄く渋々といった感じで助手席に乗ったのを確認し、己もまた乗った。


 軽く走らせて街並みの中を行き。

 疲れ切った様子の軍や避難民達を横目にして城砦都市から出る。

 荒野には道が敷かれていた。

 南部の天海の階箸から続いている物流の大動脈だ。

 片側二車線。


 今は南部に向かう道は空いており、逆に北部や各城塞都市に向かう道が混雑している様子。


 アクセルを踏む。


 サイドミラーには軍の憲兵達が直立不動で敬礼しているのが見えた。


 片手を窓から出してサムズアップしておく。

 こうして爆走する軍用車両は土埃を置き去りに荒野を去る。

 まだまだ目的地は見えて来そうに無かった。

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