第297話「真説~辿り着く者3~」


 青年大隊の任務は首都の防備であった。

 まったく以て、誰から防備するのか。

 テロリストは駆逐されていたし、国家は統合されていた。


 今や大宇宙開発時代と毎日のように政府広報からは見切れない程の人類の宇宙開発現場での発展情報が出されていたし、軍人は正しく未知の地球外生命体でも来ない限りは現場の護衛や防護を行う人以上の意味合いは無かった。


 けれども、だからと言って備えを怠る事も無い。

 私は青年大隊内では長髪の技術屋と呼ばれていた。


 理由は情報端末の修理や装具備品の修理の度に便利使いされていたからだ。


 この頃になると私の容姿はもう日本人的に整っていた為、よく大隊の異性からチヤホヤされるようになった。


 けれども、私はお付き合い下さいという告白に対しては全て大人になってからまだその気持ちがあるならば、とお断りした。


 無論、同期の同性からは揶揄われた。


 でも、私にとって両親の期待に応える事は人生を掛けるべきものになっていたものだから、そういった恋愛に現を抜かしている時間があるなら、少しでも新技術や知識の習得に時間を当てたかった。


 大隊での日々は正しく平和そのものだったと言える。

 配属から半年で出動回数0件。


 教練と訓練と自己学習の時間だけは物凄くあったので、その点だけで見ても私にとっては恵まれた環境だっただろう。


 何も無い平穏な日々が一番と思いつつ、私は両親に1週間に1回は会いに行ける環境を享受し、大隊での泥臭い地を這う訓練の傍ら専門書の山に埋もれた。


 この状況が変わったのは配属から9か月目の事。

 それは初めての出動だった。

 首都で治安維持活動である。

 対象は委員会管理地域からの移民鎮圧。

 近頃は殆ど無かったのにどうして?

 そう疑問符を浮かべた私が同期と現場に駆け付けると。

 既に全ては終わっていた。

 警察による威嚇射撃の後に捕縛して鎮圧。

 速やかな展開で迅速に駆け付けた私達よりも警察の方が速かった。


 連行されていく移民達は口々にまるで心理誘導されたかのように口々に『あの方が復活する』とブツブツ呟いていた。


 私が疑問に思ったのも束の間の話。


 その出動後に基地へ戻った私達が知ったのは軍ネットワークが教える旧南米大陸ハーフムーン付近からの大量のナニカの出現だった。


 ネットワークが捉えた映像には歯車のようなもので出来た小さな小動物……今では絶滅して久しい形のものが沢山いた。


 それが海から溢れるようにして陸地を形成し、其処から更に少しずつ拡散して海域に広がっていく。


 そうして、そのナニカは接触した船などを攻撃し始めていた。


 私はハッとして会社に電話を掛け、両親が……大きな仕事の為にあの海域にいる事を知った。


 私は速攻で両親に連絡を取り、即時その現場から輸送機で逃げるよう伝達し、軍のネットワーク内の優先仕様で現場付近の航空機の電子チケットを取り、両親に送付し、リアルタイムで誘導して何とか数時間後にはその区域から逃がす事が出来た。


 しかし、両親は良かったが、会社の人達の何人かは混乱の中で情報も確認出来ず。


 私は両親だけを逃がした自分に何処か後ろめたさを感じながらも、大きく安堵する事になった。


 それから数日後。

 両親が首都に戻った事を確認した後の事だ。


 その海域に現れたナニカに対して統一政体として人類軍が結成される運びとなった。


 事実上はもう出来上がっていたが、合同で仕事をする程に大規模な案件が無かった為、事実上はその時点でようやく動き出したと言える。


 私達は再編に伴って帝国連合の人類軍となり、青年大隊である以上は投入される可能性もあったが、参謀職なのが幸いして首都の後方で戦術、戦略立案を行う参謀本部直下の下位ユニットとして機能させられる事になった。


 そのナニカの破壊活動、攻撃活動は数日後には海域全域にまで及んでおり、周辺にはもう希少になっていた軍艦が掻き集められて封鎖されていた。


 何度か攻撃が行われたものの。

 その殆どが効果も無く。


 相手を全滅させても全滅させても無限に湧いてくるナニカは絶えず。


 結局は遠巻きに見ている事しか出来なかった。


 最初こそすぐに片が付くと思っていた者が多かっただけに衝撃は大きかったかもしれない。


 結果として、人類軍は地球上に存在する全ての軍艦を用いた封鎖を継続しつつ、ナニカの研究解析に映る事となった。


 そして、そのナニカの生態研究によって驚くべき事が判明したのはそれから1か月後の事。


 ソレはあらゆる物質を取り込む性質を持ち、それを融合して取り込み。


 エネルギーを取り込んだものから抽出し、全体で再分配し、移動しながら絶えず大きくなる性質を秘めていた。


 参謀本部直下にある私達に知らされた事実は正しくソレが極めて恐ろしい性質を持つ存在である事を知らせてくれたのだ。


 こうして2か月目の封鎖が継続されている最中にその事件は起こった。


 太平洋上に浮かんでいた最も南米沖に近い洋上都市が小型のナニカの大群に襲われ、同化されて巨大なナニカになったのだ。


 ネットワーク上の上位権限で見られる映像は正しく地獄だった。


 ナニカによって融合されていく人間の姿は……ゆっくりと肉体を同化されていく姿はもはやアミューズメント・データのようなものにしか見えなかった。


 人類軍参謀本部は直ちにコレの撃滅を決定。


 洋上都市1つを失うとしても、人類の現在の居住可能地域が敵として襲ってくるとすれば、犠牲も已む無し。


 大戦期の兵器群。

 更に熱核弾頭による飽和攻撃が即時決定。


 その洋上都市は2日後にその巨大な一千万市民という人口と共に消え去った。


 これを機に海中に小型の敵―――ギアーと名付けられたソレを防ぎ止める巨大な壁の建造が量子転写技術によって開始され、太平洋は7000kmにも及ぶ巨大な壁によって分断。


 更に洋上都市周辺もまた閉鎖型の隔壁を何重にも周囲に持つ事によって融合を防ぎ止める要塞と化す事が決定した。


 当時、まだ量子転写技術による物質の再構成は同じ物を転写する事で精一杯だった事もあり、複雑な兵器などを量産するよりはとにかく大量の壁で相手を防ぎ止め、時間稼ぎをしている合間に人類を宇宙に上げる方が合理的だと政府は判断したのだ。


 つまり、地球を捨てる事が本当の意味で決定した。

 こうして、時代は正しく生存競争の時代に逆戻りとなった。

 委員会と戦い続けた日々と同じだ。


 私達青年大隊は対ギアー戦の戦術、戦略立案を行う部署に編成する為に解散。


 ただ、私は野戦技術将校の素質在りとして、最前線の封鎖海域の後方でギアーの研究を行う司令部付きの技術将校の一人となった。


 将校と言っても未だに私は青年大隊出身の子供に過ぎず。


 急場を凌ぐ為に設営された洋上プラントの中で年上の技術将校達のデータ処理を手伝ったり、残務処理をしたり、お茶を入れたりするくらいであった。


 此処での2年間は正しく両親の気を揉ませたが、それでも比較的安全な後方勤務だった事で少しは安心させられたと思う。


 私はとにかくギアー相手の研究のみならず。

 様々な技術知識の体得に務めた。


 最終的には当時未だ軍事機密の類であった量子転写技術を学ぶ立場になった事で自分の実績が認められてきている事も実感した。


 当時、私が発案した対ギアー用の隔離壁は相手が融合してくる事を想定して、複数枚のミルフィーユ(太古の焼き菓子)のような構造で薄い層を何枚も直接接触無しに隣接させる事で小型に取り憑かれても、その部分を剥がして対処する事で安全を確保する最新の防護装甲としても採用された。


 過去のデータを見ていた私の発想によって生まれたものが人類に資する事になったのは私にとって極めて驚きであった。


 核戦争が常態化した時代には分厚い装甲こそが正義だと信奉されていた為、私のような発想は逆に新鮮だったのだと今ならば理解出来る。


 こうして、私は2年間の前線勤務を終えて再び首都へ戻される事になった。


 装甲の一件で私の力が認められ、晴れて人類軍となった帝国軍の参謀本部に戻ったのだ。


 そして、また私は懐かしき場所に向かう事になる。


 そう、ナガイ技術中佐(その当時は大佐になっていた。また、どうやら大佐になられるのと同時期にご離婚されていたらしく、旧姓のミヤタと正式には名乗っておられた)の下に協力要員として再派遣されたのだ。


 大佐は私を技研に迎えるに辺り、対ギアー対策のアドバイザーとして招聘し、また宇宙艦種の製造に使われていた量子転写技術の数少ない知識習得者として、技術の発展開発を命じた。


 私はこのような状況で事実上は技研の人間として働く事になったのだ。

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