第258話「よく分かる現代殺法」


『では、次の―――はい。予定を変更して、此処で臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします。5時34分頃、東京霞が―――はい。国会議事堂内で爆発音のようなものが聞こえたと消防庁に連絡があり、え~情報が錯綜しているようです。現在、内閣府が緊急の会見を総理官邸で行うという情報が、え? あ、は、はい。続いて臨時ニュースをお伝えします。現在、確認されている限り、ロシア、中国、イギリス、フランス、イタリア、アメリカなどを含めた92カ国で議事堂などの建造物が爆破された模様です。繰り返し、お伝えし―――』


 警官隊が錯綜する霞が関にあるビルの一角。


 宵闇が街の灯りに照らし出された景色を見つめながら、相方が戻ってくるを待つ。


 現在、国会議事堂爆破を終え、警官隊を見えざる巨漢が死人を出さないようご丁寧に衝撃で肺の空気を全部吐き出させる程度のデコピンでブチ倒している最中だ。


 見えざる何かが警官隊と交戦!!


 正しくSF映画であるが、生憎とやっているのはエイリアンではなく。


 エイリアンも裸足で逃げ出す完全武装の人類終末期に投入された戦争の決戦兵器類の一つ。


 その肉体は人類が持つ生身の歩兵という意味でなら最終的な到達点に位置するだろう存在だ。


 そんなのがチートコードで生み出した近未来バリバリの透明化する外套に超重量のフル防御装備をセットでノシッと闊歩していては超能力者でも出て来ない限り、勝ち目は無いだろう。


 生憎と委員会は未だ準備中だし、財団は日本支部が出張って来るより先に報道のカメラだらけにしたので、大掛かりな記憶操作の準備が出来るまで霞が関までエージェントを派遣して来れない。


 そもそもテロなのか事故なのかも分からないのだ。


 光学迷彩と言えば、輪郭が見えたりするもの、というのはこの時代の常識であって、常人の目に違和感を見付けられるような全天候量子ステルスではない。


 感圧式のセンサーなんぞ、現代の大半の施設には無いし、戦場と化した場所にそんなのを敷設していたのは未来の大戦期であるからこそだった。


 という事で見えない何かが猛威を振るう時点で警察に出来る事は何もない。


 精々が何かがいると思われる場所に効きもしない豆鉄砲を撃つばかり。


 それとて一応は避けるように言っているせいで銃口がベリヤーエフを捉える事は無い。


 世界大戦に参戦出来るメインプレイヤー。


 大国と規模的に十分戦える中小国の大半の政治中枢の一部を爆破した事を皮切りに世界各地の公表されている軍事施設内の武器弾薬がザラザラと今頃土塊に変換されているところだ。


 この世界に来た当初から神の水をあちこちに大気層を使って拡散。


 一部の施設へピンポイントで浸透させ、制御下に置いてある。


 それと同時に重火器、銃弾の製造元の機器も砂となった

 明日、戦争が起こるとしたら、武器弾薬が世界中で不足。

 正しく今重火器に装填されているモノ以外は使えず。

 こん棒で殴り合う事になるだろう。


 50人のメイン盾な警官隊が見えない何かのデコピンをその盾や胴体に食らっては吹き飛び、混乱の中で何も出来ずに気絶していく。


 それは正しく見えざる怪物。

 おお、これぞ現代の怪異、と言ったところだろう。


 爆破した議事堂は玉ねぎ?の部分がボッキリと玄関先に落ちている。


 防衛省からの応援として首都圏配備のMBTが回されてきたらしく。


 戦車こそ出て来なかったが、警官隊が戦う地域を封鎖する形で自衛隊員が次々に民間人を避難させつつ、検問を敷いていく。


 各地ではテロだ何だと騒がれているが、日本のみ公権力の執行機関が何かと戦闘をしているという情報が次々に発信され、現在スマホだのカメラだの国会近くにいた一般人や報道陣が息を顰める建物から、機動隊のやられ様がライブ配信中。


 掲示板ではスレは乱立。


 1000を超えてガンガン新規が立ち、これはエイリアンの仕業ですねと大盛り上がりで一部では『終に人類の終末が来てしまったか。寝よう』と世間のお祭り騒ぎにうんざりした様子で床に付く者もあるようだ。


 防衛省が霞が関一体を封鎖し、民間人を避難させ終わるまで凡そ3時間は掛かる。


 政治家は首相以下大臣クラスが全て党本部から官邸地下のシェルターへと向かっており、地元へと帰っていた者は東京に向かうか、留まるかでてんやわんや。


 ネットに負けじと放送局がヘリを飛ばす許可を求めるも、一向に降りず。


 殆どの局が閉鎖されつつある霞が関にカメラマンを派遣するに留まる。


 お茶の間は正しく何が起こったか。

 天変地異か、それとも世界同時多発テロかと興味津々。


 さて、ネットのリアルタイム映像の番組はそろそろ一億再生のところも出て来ている。


 ここ等で切り上げようと上空に合図を出した。

 未来兵器と分類していいのかどうか。


 無線封鎖で戦わねばならなかった大戦期の兵士達の愛用品を空に向けて放つ。


 信号弾だ。

 手に持つのはその射出用のゴツイ拳銃。

 ただし、普通の信号弾ではない。


 東京中、何処からでも見えるだろう半径9400mに咲く大輪がた~まや~と感嘆符が付く位に大きく広がった。


 幻想的な花々が、此処数年花火大会で披露されてきた傑作が、盗用ダメ絶対とは思いつつも、合図としてベリヤーエフに撤退を伝える。


 ホログラムを用いた原始的な戦術指揮。


 それ用の視覚情報による攪乱と視認性ドラッグが見た者を適度な興奮状態へと陥らせていく。


 無論、これで死者が出るという事は無い。

 精々が引き付けられ、思わず空の先に見入ってしまう程度だ。

 ビル屋上に至るまで約10分。


 逃走経路そのものはこちらでしっかり管理している為、誰にも出会わず時間に遅れる心配も無いだろう。


「ま、まずは此処から始めよう」

「何を始めるのかしら?」

「………」


 思わず後ろを見た。

 ビルの屋上の扉には鍵が掛けられていたはずだ。

 ついでに周辺には監視網も敷いている。


 破壊されたり、ハッキングされたりしているならば、すぐにでも分かるのだが……そんな様子も無かった。


 後ろの人物の行路を熱源感知から推定してみる。


「………ビルのダクト内部から? いや、違うな。突然現れたって事は……空間跳躍? もしくは物理現象を顕さない技術って事だ。ファンタジーかSFか。何処のどちら様だ?」


 振り返れば、何かを手に持った女がこちらに歩いてくる。


 下からの街の灯りに照らし出されたのは恐らく十代くらいの少女。


 と呼ぶには聊か目付きが鋭い相手だった。


 暖色系の赤み掛かった膝丈まであるロングコートに厚手の底が低いブーツとスニーカーの中間のような靴。


 それと内部に見えるのは何処かの女子高の制服に見えた。


「生憎とどちらでもないわ」


 その顔がハッキリと見えた時点で驚く。


「………お前、名前は?」

「フラム。フラム・ボルマン」

「………も、もう一回」

「フラム・ボルマン」


 相手の外見を脳裏で羅列してみる。

 美少女だ。

 物凄く美少女だ。

 それも物凄く好みだ。

 というか、見慣れたナッチー美少女と瓜二つだ。


 それ以前の問題として外見的に何ら差異が無い、ようなレベルで実際に骨格から年齢から身長から……髪や瞳の色まで……殆ど同じだ。


「何かこれからやりたいようだけど、止めるわ」


 自称フラムが何処か感情の読めない……意志だけは冷たく伝わって来るような瞳でこちらを見た。


(あのギュレ野郎。何かこの世界に細工したか? いや、待て。落ち着け。此処は普通に対処だ)


 DNAを解析してみたが、簡易の遺伝子検査用のシーケンサ回路が嘘を吐いていなければ、目の前の相手は―――フラム・オールイーストの遠いに相違無かった。


 声だけはあのお嫁様より少し幼いかもしれない。


「じゃあ、そのフラムさんに質問だ。その手に持ってるの何だ?」

「……見て分からないのかしら」


 ナイフにしてはゴツイ。


 鈍色の波紋は奇妙な程にうねっていてそれが刀工辺りが鍛造している代物なのだろうと見当が付いた。


 握りに指を護る円錐形のガードが付いている。

 そして、相手の身体の傾きから重いのが見ていて分かった。

 アーカイヴの情報から隕鉄と断定。


 だが、それよりもマジで驚くのが、あのギュレ野郎と戦うまでに集積したあらゆる物質に該当しない未知の元素……いや、金属元素が使われている事か。


 即座にコピーした資材を100m先の虚空に造った球体内部で評価を開始する。


 ザッとナイフがこちらを害そうと軽やかに突っ込まれた。


 紙一重はマズイかもしれないと紙2000枚くらい挟まりそうな大げなステップで真横に回避。


 しかし、相手はめげもせず。


 発汗一つないままに舞台で舞っているかの如き軽やかさで跳躍しつつ、こちらに前方上空から切り込んで来る。


 それを更に背後へ距離を取りながらバックステップで回避。

 だが、回避して分かるのは相手の力量だ。

 こちらを冷静に追い詰めようという意志が感じられる。

 ついでに戦い慣れしている。

 その上で言うならば、何故か物凄く驚いている。


「あなた、見えるの?」

「何がだ?」


 そう訊ねたところで試料で造った評価用の細い隕鉄の糸鋸が……束ねて分子単位で織り込みを掛け、クッソ強化したCNTを易々と切り裂いた。


 ゲッソリする事この上無い。

 評価システム上でのその隕鉄の性質はこうだ。

 こりゃぁ、ぶっちゃけ金属細胞の類ですわぁ~。


「……その余裕、裂いてみたくなったわ」


 薄く薄く笑んだ少女が走り出し、その高所特有の風に煽られながら、木の葉のように……その嫁と同じ長髪を靡かせ、ヤバい刃を水に押し込むような軽さで空気を割る。


 解析中のシステムは正直だ。

 ナイフの刃先に真空が出来ている。

 分子の振動が制御されている。

 ついでに理屈は……何だか空間がねじ曲がっている。

 否、スポイルしている……ようなデータがちらほら。


 恐らくだが、電子的なエネルギーを隕鉄に注ぐと反応してほんの僅かな周囲の空間に対し、時空間の歪みのようなものを齎しているのだ。


 更に見掛け上の質量が急激に増大している。

 簡単に言うと隕鉄そのものが加速している。

 運動エネルギーを生成しているようだ。


 金属細胞そのものがエンジンのように周辺から空間のスポイルで引き込んだ物質を微量に崩壊させながらエネルギーを抽出し、自身そのものの進行方向とは反対側に次々放出しているのだろう。


 空気を弾き飛ばしながら進んでいるせいで人体が振っていながら、その切っ先の速度はオカシな値だ。


 だが、それでも空気が無いから断熱圧縮で焼き付く事も無い。


 人間の肉体には違いないのだが、その効率的な動作は力学的に無駄が無く。


 内蔵から筋肉の先まで意志が通っているかのように美しく。


 その一撃は極めて静謐で己という事象の全てを人為的に積み上げてこそ引き出し得る代物だった……まぁ、システムが判断した情報を自分なりに噛砕くとこういう事だ。


 筋繊維の一本から綿密に計上された動作で無ければ為し得ない動きと超常現象込々の隕鉄の武器がガッチリと噛み合った結果は……実際、何を殺す為に編まれた技なのかと思わざるを得ない。


 それとおまけくらいの能力だが、相手の予測能力はぶっちゃけ、自分のいつも使えるものの40000分の1くらいある。


 原子一つ分からのエミュレートを脳裏で可能とするこの身体。


 ユニ程では無いにしても、あらゆる事象を大まかに経験則から積み上げて予測するタイプでありながら、かなり精度が高かった。


 軌道予測を6回程変更した予測合戦で打ち止めになったが、通常の相手ならば、数手先を読まれて戦術を組まれたら殆どお手上げだろう。


「―――ッ」


 相手が軽く驚くのも無理は無い。


 普通の人間だったら、こんな通り魔少女の刃、絶対に避け切れない。


 恐らく、現在のセラミック系の装甲くらい両断出来る威力。

 戦車くらいの厚みが無いと内部まで刃先は届くだろう。


「へぇ……見えるのね」

「何がだ?」


「普通の人間は物事を考えて行動する。だから、普通はこの刃が避けれたりはしない。大抵遅れる。でも、あなたは未来を見て行動してる」


「生憎と修羅場だけは潜らされたからな」


「……嘘を言っているわけじゃない。でも、本当の事を言ってるわけでもない」


 少女、フラムは冷静だ。

 そして、冷静故に頑固だ。


「お喋りに興じてくれてるのは嬉しいんだが、そろそろその物騒なものを仕舞ってくれないか?」


「仕舞えないわ。だって、此処はわたしの街だもの」

「ええと。オレは死人も出してないはずなんですが」

「それは問題じゃない。違うかしら」


 確かにその通りだ。


 街がどうのこうのと言うならば、それこそ日本どころか世界中を色々と弄繰り回そうとしている自分は確実に此処以外を変えていく。


 それはやがて此処にも変わる事を強制するだろう。


「……オレがしようとしてる事は大げさだが、通り魔の餌食になる程悪い事には思えないな。いや、本当に……」


 こちらを値踏みする瞳はそうとは思えない程に真っ直ぐで美しい。

 だが、フッとその視線が途切れた。


「戦う気も無いのにどうして戦う姿しか見えないのかしら……あなた、本気で生きてる?」


 溜息が吐かれる。


「―――何か物凄く今罵倒されたのは分かる」

「そう、それが分かってるなら……続行で構わない!!」

「オイ。オレはお前と戦う気なんてこれっぽ―――」


 顔を横に傾ける。


 だが、直撃もしていなければ、刃が物理的に影響を及ぼす範囲でもないのにこっちの肉体が吹き飛んだ。


(コイツ……更に早い? それにまた物理事象じゃないのかよ)


 通常、人間というのは分解脳的に、要は人間が行動する為に必要な判断を行うのに、0.25秒くらい毎に連続していない空白を意識に抱えるものらしいのだが、矢継ぎ早に人体がバラバラになりそうな鋭い超近接でのが立て続けに0.1秒で3回。


 人体的にはギリギリ見積もれば、繰り出せるかもしれないが、繰り出したからと言って、そんなものを使う相手がいないと世間的には考えられる。


 まぁ、どうせ世間的に考えられない世界とやらが財団とかと同じように転がっているのかもしれないが、それにしても相手は地味ながらも超能力と言って言いような戦闘力に違いない。


 声で伝えようとするより先に相手が一連の9連撃を終えて肉体の限界時の反撃を畏れてか後方へと跳躍した。


 心臓の脈拍は元より、動脈に流れる血液量からしても汗くらい掻いていそうなものなのだが、どうやら酸素の消費量もそう多くないらしい。


 細胞単位で統制が取れている、と言うべきか。


 無駄な動きが無いせいで無理な運動をしていても、必要とされるエネルギーが少ないのだ。


 それこそ人間1人辺りのグリコーゲン貯蔵量を考えたら、今のが後10回くらい繰り出されなければ、あっちは息切れ、眩暈も起こしそうにない。


「ちょっと興味があるんだが、今吹き飛ばしたのどういう技術なんだ?」


「………心底に戦う気が無い。敵意も害意も無い……でも、やっている事はテロリスト。それどころか殺される可能性のある攻撃を受けてすら余裕……か」


 相手は物凄く呆れたような、渋いとも言えそうな顔で半眼になる。


「いや、こっちの話聞けよ。最初から戦うとか言ってないしオレ」

「やる気が削がれる事この上無いわね。あなた」

「やる気出してもらっちゃ困るんだよ。オレはまだ死にたくない」

「なら、どうしてこんな事してるのか。気にはなるわ」

「いや、この世界が滅びる前にちょっと手助けをと思って」


 こちらの言葉に今までの何処か冷たく思えた反応が……嘘のように……驚いた顔で目が見開かれた。


「……嘘も付いてない。慢心もしてない。妄想とも思ってない? 本当にそう思ってるだけ? 狂人だって少しは自分の事に自覚があるって言うのにッ」


 視線がこちらに険しく降り注ぐ。


「お前の言ってる狂人がどういう連中か知らないが、本当の狂人はきっと普通が高じ過ぎた連中の事だぞ? それと狂人の定義は狂人にしか出来ない事だとオレは思う。自覚がある狂人なんてのは狂人のフリが上手いってだけだ。それに呑まれてるからって常人が常人以上になったりはしない」


「ご高説ね。でも、それを定義するあなたは狂人でなくて何なの?」


「オレはオレだ。まぁ、ちょっと……いや、自分でも考えるとかなりヤバい部分はあると思うが」


「……本当に調子が狂う人ね。あなた……」


 ナイフを握った腕が下ろされる。


「話を聞きましょうか」

「残念だが、オレの連れが待ってる。此処でお別れだな」

「っ」


 そう言われて初めて少女が己の後ろに立っている何かに気付いてか。


 咄嗟に後ろ手でナイフを振り抜こうとし―――。


「オイ。折ったりするなよ。ちょっと会話してただけだ」


 肘を掴まれて吊り上げられ、ポイッと数m先に投げられた。


 俊敏な猫のように片手と両足が着地した少女が、こちらを見てからビル端に走り出し、手すりを超えて、下にダイブしていく。


 大気を屈折させてレンズ越しに追ってみたし、同時に周辺大気を追走させて観測し続けたのだが、途中で本当に何の物理的な予兆もなくその物質としての人体が掻き消えた。


(やっぱり、魔術か……)


 こっちにやってくる一仕事終えたばかりのベリヤーエフが迷彩を切って、チラリとビルの先を見やる。


「……こんなところでさっそく逢引きとはさすが千年に一度の恋を成就させた人物だ」


「残念だが、本人じゃない」

「過去、という事は祖先か?」


 ちゃんと分かっているらしい。

 相手を間違えてもいないようだ。


「ああ。だが、これも本当はおかしいはずなんだよな。顔は全部同じなんだから……いや、あのシステムが遺伝情報を元にして顔を造ってたって言うなら納得だが……」


「……まぁ、いい。帰還するか?」


「いや、お前だけ先に帰って新しい仕事だ。オレはお休み前にやる事が出来た」


「女を相手にしている暇があったら、少しは働いて欲しいものだが」


「お互い様だろ。無人になったコンビニで一万円札置いてカップラーメン山盛り持って帰って来た奴の言う事かよ」


「駄賃だ」


 シレッと現代に馴染み始めた巨漢が片腕の複数のビニール袋を後ろ手にして目を逸らした。


 まるで母親にエロ本を買ったのを見咎められた子供みたいである。


「オレはお前の保護者か? いいから、次の仕事だ。それが終わったら明日の朝まで休憩。何かあったら、すぐに戻る。いいな?」


「了解……」


 完全武装のフリフリ魔法少女型パツパツタイツのメット装備巨漢がコンビニ袋を満載してビルの中に戻っていく。


 溜息一つ。

 200km程まで拡大した電子支配の最中。

 先程まで襲って来ていた少女を東京の端。

 自然豊かな田舎の歩道に見付ける。


 コンビニにあるカメラの映像で僅かに服の端が映る程度だったが、こっちの解析用ソフトが人物を間違う事は無いだろう。


 上空に呼び寄せておいた大気層に窒素の糸で釣られながら、高速で夜空を突き抜ける。


 紅のパトランプが乱舞する街を後にして、向かうは緑深き山里。


 まぁ、あんまりこういう事はしたくないのだが、見知らぬ技術を接収する、という目的にかこつけて押し掛けるのもいいだろう。


 途中まだ空いている大型店舗で菓子折りを買って、先行させたドローンで追跡させた道行きを辿る事にした。


 超能力だろうが、超技術だろうが、相手の行動パターンや心理的な分析が行えるなら、幾らでも予測は立てようがある。


 モデルの確立は必須だが、生憎と超越者連中相手にファンタジー全開魔王様していた自分にとって、ラノベにありがちな能力者なんぞ十把一絡げ。


 分かっているモノなんて怖くもなんともありはしない。


 やっぱり、怖いのは嫁達だけというのも、これはこれで狂人扱いされるべき事柄なのかもしれなかったが、仕方ない。


 子供の頃から親の語るモノの中で一番ヤヴァイと思ったのは勿体ないお化けでも無ければ、夜寝ないと自分を連れて行く幽霊さんでもなく。


【―――縁。早く起きないとご飯作っちゃうからね!!】


 母親の造る味音痴全開化学調味料山盛りな朝ご飯だけだったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る