第255話「合流するHENTAI」


『―――被疑者はピンク色の全身タイツにフリルの付いた衣服とスカートで女装。頭部には兜のようなヘルメットを被り、金属製の開閉するマスクらしきものを着用。それから腰に大型の刃物らしきものを携えていたとの報告有り。国道○○線沿いで1時間前に目撃情報。全車両は市街地に通じる私道、国道沿いの道を重点的に―――』


 警察無線を傍受しつつ、適当に地上を見下ろす。


 東京都心から直接、空を魔術コードで渡って時速300km程で移動したのも束の間。


 どうやら目的の人物は一度、警察のご厄介になりそうな状況で逃げ出し、現在は国道沿いの山林地帯でウロウロしているらしい。


 適当な米国の監視衛星を拝借して、温度で検索を掛けてみる。


 するとドンピシャ。

 その場所はそう遠くなく。

 数十秒で到達可能な範囲に入っていた。

 現在地は群馬県上空4000m地点。


 数百kg程度なら余裕で窒素の糸で大気そのものに吊り下げられるというのはやっぱりオカシイと思いながらも、周辺9km程の量子スピン制御下の大気をセミオートで使いながら、ジェット気流よろしく起こした風で一直線に山間部へと突っ込む。


 すると、こちらの事を僅かでも察せたらしく。

 相手と瞳が合った。


 突撃という程ではないにしても、普通の人体なら軽くバラバラに出来る速度で相手にどっかの日曜朝のヒーロー番組よろしくキックを決めてみる。


 すると、即座反応した不審者が両手をクロスさせてガードした。


 直撃した巨腕は衝撃に揺れて、その体は10m程後ろに脚の轍を付けて退いたが、あっちはやはりダメージらしいダメージも無さそうにこちらを睨み付ける。


「また会ったな。変態」

「……カシゲェニシ、か……この事態は貴様の差し金か?」


 シャキンとゴツイ顔を覆うメットの金属製マスクが左右に開く。


「ベリヤーエフ、だったか」

「フン。覚えていたか」

「お前、どうしてこんなところにいる?」


「それはこっちが訊きたい。此処は何処だ? 西でも東でもない……だが、大陸標準言語を話すという事は大陸の何処かなのだろう?」


 杉林の中。

 僅かに開けた枝が積もる野原。


 風こそ冷たくないが、それでも静かというには森のざわめきが気になる其処で……日本ならば何処にでもありそうな雑木林の一角で……異常そのものが目を細めた。


 世界を再建した者達。

 空飛ぶ麺類教団。

 世界に赤き荒らしを願う者達。

 鳴かぬ鳩会。


 そして、世界に正義を為そうという料理を手伝うHENTAIさんの集い。


 妖精円卓。


 うん、ナニカ物凄く間違っている気がするのだが、どうせ何かこいつらも秘密とか抱えてるんだろうなぁという予測にもならないお約束の気配に思わず溜息を吐くしかなかった。


 妖精円卓第三位ベリヤーエフ。


 ユーラシアの国家共同体が用いた大戦末期の歩兵の肉体を持つ旧世界者プリカッサー


 そのムサくてゴツイ身体をフリッフリでキラッキラな桜色の魔法少女っぽいモチーフの近未来妖精さんスーツで包んだ変態が筋肉パッツパツな様子で目の前にいた。


「此処は日本だ」


「何? それは古代の……旧帝国連合の地域か? いや、あそこは確かにパンの国に近かったが、あの官憲達……そのような姿はしていなかったはずだが……」


 何処か胡乱な様子で考え込む巨漢に思わず頭を抱えたくなる。


「残念だが、お前巻き込まれたぞ。思いっ切りな」

「何だと?」


「此処は一応は過去だ。それと帰る方法は今のところ不明だ。ついでにオレがいた時代でもある。後、お前の姿だと確実にこの世界の警察に何処だろうと逮捕され……いや、お前みたいなのがいても違和感ない場所まで連れてってやる」


「何を言って? それ以前にその力……以前より増しているな? まさか、新たな肉体を……」


「答えるつもりはない。助けてやるから、大人しく付いて来い。嫌だっていうなら、この国の警察や軍隊や特殊部隊と延々補給無しで戦う事になるぞ?」


「く……いいだろう。事態が今一呑み込めないが、あの女の追及を逃れて生きているというだけで歴戦の戦士とは認めるに値する」


「ああ、そうかい」


 巨漢を魔術コードで浮かばせる。


「うお?! な、何が!!? この紅の粒子!? まさか、貴様もと同じ力をッ!?」


「知ってるのか? ああ、そうだ。この間うっかり手に入れてな」


「ッ、いいだろう。貴様との力関係が決まった以上、こちらは大人しく従おう」


 何やら渋い顔になったベリヤーエフが僅かに溜息を吐いた。


「ま、そうだよな。普通に考えてこんなチートに敵わないのは誰でも分かるか」


「フン。だが、勘違いするな。こちらは屈したわけではない。あくまで貴様がこちらを保護するに限り、大人しくしていようというだけだ」


「あーそうかい。それで構わない。じゃあ、ちょっと手伝え。人手が丁度欲しいと思ってたところだったんだ」


「人手?」


 首を傾げる男にニヤリとしておく。


「好きだろ? 世界を救うとか。正義の執行とか。悪を滅ぼすとか」


「―――ッ」


 男がこちらの言葉に不意を突かれたような、鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情となった後。


「フ、貴様が悪でない事を祈れ。色男」


 そう太々しく笑むのだった。

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