第250話「魔王と愉快なお嫁達(団結遍)」


 随分と遠回りしたようにも思えた月面下世界での活動。

 これが大詰めに差し掛かっている。


 そう思えるのは……事態の収束がチートな予測能力など無くても肌で感じられるようになってきたからだ。


 嫁は全員取り戻した。

 地球へ帰還する為の足も確保した。


 しかし、未だ進行している戦争の大半と後ろで起こっている者達の暗闘が終わってはいない。


 恒久界と地球。


 そのどちらをも初期化しようという主神ギュレン・ユークリッドの企みは進行中。


 一段落付いたとはいえ、宇宙に逃れてSFな国家を築いていたUSA分派との戦争も継続中。


 そして、その両者をも呑み込む可能性のあるオブジェクトを有する人類憎悪の塊たる蜥蜴人間型のオブジェクトの首領と唯一神側である神殿の代理戦争。


 地球側の話は一応、ヒルコを伝って流れてきているが、あちらは最終兵器の余波で天変地異のオンパレードに大規模な津波対策で大陸中が右往左往。


 色々と用意をしてきたおかげで犠牲者は最小限度に近いと見積もられてはいたが、あちらはあちらでまだ見ぬUSAとの間に見えざる禍根が残った。


 ついでにその危機的状況を利用してのポ連の進行開始。


 いや、まったく何をどうすれば全部解決するのかと絡まった糸か知恵の輪を解く気分。


 けれども、一番大切なものは少なからず手の内に収まった。

 それだけでも良しとするしかないだろう。


 問題を単純化するならば、明確に敵対する存在や交渉相手の居場所と詳しい内情を手に入れて、何もするなと黙らせるのが手っ取り早いだろう。


 今までは政治だ軍事だ経済だとグダグダ周辺環境の整備をしていたに過ぎない。


 此処からが詰めの大一番。

 銃後の護りとやらが固まったならば、後は自分が動くだけだ。

 そう、動くだけ……なのだが……。


「まおう~あそんで~」


 猫耳幼女が長い尻尾を揺ら揺らさせつつ、遊んで遊んでと将棋盤やチェス盤や囲碁盤を前にニコニコしていた。


 魔王、暇になる(一時的)!!


 の報を逸早く予測してやってきた幼女が何故に魔王の寝室などにいるかと言えば、嫁の家族会議がちょっと延期になったからだ。


 理由は単純明快。

 家族会議に出られる女性が増えたよヤッタね!!

 という話がフラム達に伝わったからである。


 これからよろしくと皇女殿下と秘書が同時にニコニコ幸せそうな顔でやってくれば、嫁ーズもまた対応を検討せねばなるまい。


 現在、嫁会議(家族会議の上位互換)が開かれており、嫁としてのスペックが何だか諸々試されているらしい。


 つまり、『お前またかぁああ!!?』とブチ切れそうな一部のお嫁さん達によるフラウとガルンへの嫁スペック検定である。


 そんなのしてなかっただろという夫(ヒエラルキー最下層)の小さな声は当然のように無視された。


 やっぱり、嫁なら嫁らしく夫の為に役立つ技能が必要だよねという至極全うだが、一部の嫁的に基本水準の家事炊事すらまともに出来るのか怪しいところを棚に上げての粗探しである。


 実質、ちょっと僻みが入ってる気もしたが、これから長いお付き合いになる予定の相手の情報は手に入れておきたいという天然系聖女様以外の見解一致で月面下のお嫁さん二人はドナドナとこの間アップルパイを造った厨房に連れて行かれた。


 これは面白そうだと大使館内で缶詰になっていた魔王応援隊やエコーズ、近衛三人娘を筆頭とする女性陣が一瞬でイベント化。


 何やら大使館横の広大なキッチンスペースではやたらと盛り上がった声が聞こえて来る。


 このような夫がハブられた間隙を縫うようにしてやってきた唯一の訪問者がユニであったわけだ。


 予測の仕事も終わったらしく。


 ヒルコに遊ぶものが欲しいとねだったらしい幼女らしい幼女は頭のスペックだけはやたらと高いようですぐ出されたゲームを理解したようである。


 前世界が滅んでもうそれなりに永い時間が過ぎ去った現在。

 こんな盤上遊戯が情報のみでも残っていたとは思わず。

 呆れるより先に関心した。


 ヒルコのドローンが石材と木材から作成したらしい盤上遊戯セットを持ち込んだ護衛二人は現在室外で待機中。


 ヒルコから渡されたらしい情報端末で遊戯のルールを再確認していたユニはハイッとこちらにも端末を見せてルールを覚えるよう促し……さて、こっちも全部覚え切ったというところで先行で盤上へ次々と一手目を指していく。


「そう言えば、今何割になった?」


 パチリと二人で三盤を指しながらの会話である。


「いま、ごわり~~♪」


 何の割合かという話はせず。


 指して、指し返してを繰り返しながら、ユニはほこほこした様子で愉し気に打っている。


「さよか。それでようやく手が付けられる状態になったから訊ねるんだが、お前の家が魔王の血筋って話に付いて何だか。詳しいところは知ってるか?」


「ん~まおうのふたごが~ゆにのごせんぞさまだよー」

「それくらいか……ちなみにお前の家族とかに会えたりしないか?」

「いま、おしごとがいそがしいっていってた~」


「そうか。そりゃそうだよな……こっちの国は色々と内部でゴタゴタしてるって話だし。オレも月竜に関しては色々と頼んでるしな」


「なにたのんだのー?」


「ああ、いや、月竜がどれくらい芋虫連中に浸食されてたのかを外交ルートで問い合わせて貰ってるんだよ。結局、知ってる奴は知ってるかもしれないが、知らない奴はまったく知らないまま各国に襲撃を掛けてた可能性も高いしな。今はどこも自分のところで手一杯だから各国の世情が固まる前に関係国間での会議を用意させてる」


「へ~」


「どうせ聞いてないだろうから、付け加えるとオレとお前の結婚式が魔王を取り巻く現状がマルッと変わったにも関わらず進行してて、もう会場まで抑えられてて、ついでに何を考えてるのか二日後に開催される予定、だ」


「へ~」


 まるで耳にも入らぬ様子でパチパチと盤の上で駒の駆け引きが交錯していく。


「働き過ぎだろ。お前の国の官僚……あんな事があったら普通もっと延期するだろ。というか、一回頓挫したと思ってたんだが、何か水面下でお前のとこの家がやたらと推進して復活したとか何とか聞いてるんだが」


「へ~」


 幼女の視線は楽し気に盤上へ向いている。


 一人で三つのタスクをこなしながら打つという常人なら目でも回しそうな数秒考えながらの早打ち。


 それを的確にやってのける相手がまだほんの小さな相手だというのだから、驚きだろう。


 いや、ぶっちゃけ……暇潰しにAIと対戦していた事のあるこちらが数十手打つ前に勝負が付いた。


 形成は全て魔王不利。

 相手の未来を読む力が遺憾なく発揮された結果。


 定石なんて知らなくても、こっちの拙くはあるが、普通に使う戦術を打ち破る手がポンポン飛び出して来たのである。


「負けたな」

「かった~~♪」


 取り敢えず、一旦盤を更地にして情報端末で現在のお嫁様検定会の内容を覗いてみる事にする。


 監視カメラからの映像は何だかもう何をしているのかという様子であった。


 片付けられた倉庫内の端ではお嫁様全員がスタート位置に付いており、そのゴールにあるキッチンに向けての道には障害物レースの様相を呈したトラップが多数。


 食材の吊るされたパン喰い狂騒みたいなアーチや何が入っているか分からない箱には各種の魚などの生ものが入っており、更にクイズによくある二択の扉の先は泥沼か道かという知識系の定番まで……ホント何してるのかと思わず額に汗が浮かんだ。


「え~では、引き続き嫁力検定試験を行うのじゃ。次のお題はコレ。ちきちき魔王のお腹に愛を届ける障害物競争“くっきんぐ”……コレは魔王の胃袋を掴む為、早い者勝ちの食材を手に入れる為の体力、人生にありがちな罠を見抜く判断力、相手の為に生理的嫌悪を受けても食材を掴む気迫、正しい知識を持って料理する為の知力、それが足りなかった場合は汚れた身体を完璧に磨いて復帰する乙女力が必要とされる大変に高度な代物じゃ」


 ツッコミは不在だが、不在にしておこう。


 これから使う体力をわざわざ自分からボケに捧げる理由も無い。


「各自。では、改めて自己紹介じゃ。あ、そうそう此処では“あっぴーる”力も試されるぞよ。では、リュティッヒ、フラム、サナリ、パシフィカ、グランメ、アンジュ、クシャナ、フラウ、ガルンの順で」


 何故か、大量に汗を掻いた様子のお嫁様達が選手権に出るアスリートみたいなスパッツにTシャツにゼッケン姿でマイクを取る。


 どうやらこれまで幾多の戦いが繰り広げられてきたらしい。

 僅かに疲弊しているのが誰の姿にも見て取れた。

 しかし、進行役の説明も何のその。


 キリッとした文字のエントリーナンバー2番がおっとり1番から『此処はおひいさまからどうぞ』とあっぴーる力のとやらの訴えの順番を譲った。


「わ、私は、私はあいつを愛している!!」

「ブッフォ?!!?」


 思わず吹いたのも束の間。

 顔を朱くしながらもナッチー美少女が力説を開始した。


「あ、あいつは私にベタ惚れだ!! あ、あいつがいやらしい視線でわ、私の身体を見ていた事だってある!! で、でも、私は大人だからな!! 見て見ぬフリをしてやった!! それこそ銃弾も撃ち込まず寛大な心でこっそりとちょっとだけ見えるようにサ、サービスだってした!! 総統閣下のブロマイドに誓って、私はあいつを幸せにしてやるとも!!」


 やっぱり、ナッチー属性は抜けないらしい。

 いつの話か。


 そもそもそんな事があった記憶は無いのだが、フラムは自信満々だ。


 その表情から嘘を付いているとも思えない。


 たぶん、どっかでそういう出来事はあったが、恐らくこちらが気付かなかったのだろう。


 後、一々男前過ぎて男が逆に霞むパターンかもしれない。


「エントリーナンバー2番。リュティッヒ・ベルガモット。こほん」


 何か恒久界で再開してから気付いたのだが、胸が嘗てよりも1.5倍くらいに超ふくよかになったように見えるメイドさんがキリッとした表情でマイクに語り始める。


「カシゲェニシ様。あ、此処ではセニカ様でしょうか。どちらにしても旦那様の事に付いてですが、旦那様は当家オールイースト分邸にいる頃より、とても常識人とは掛け離れた聖人のような御心でこのリュティッヒを筆頭にメイド達へ接して下さいました。最初期はメイド隊と共に篭絡してでもおひいさまのお婿様にと画策した事もあったのですが、普通なら襲っても文句を言われないような誘惑にも耐え、おひいさまと出会った初めの頃に浴場で少し試した時もそれはそれは御立派な―――」


「リュティ!? 今、何かとんでもない事を―――」


「あ、いえ、おひいさま。昔の話でございます♪ 今はおひいさまが一番、このリュティッヒめは一番最後に旦那様の息子様をお使いになるという事で」


「ゲホォ?!」


 サラッと興味深げな女性陣の大半が『ほう? 続けて』という顔になっていた。


「あ、あ~ここは開催者権限で時間制限と見なすのじゃ。3番の方頼むぞよ」


「えっと、愛想を尽かした方がいい気がして来ました。でも、一応……」


 マイクが取られる。


「こほん……私を、敵だった私を助けてくれたのはあの人でした。私に生きる時間と生きる意味を見付けるだけの理由をくれた……それはきっと私にとって人生で一番の幸運であるはずです。敵でも味方でもあの人は自分の納得の為だからと誰からに何かを選ばせて、誰かが何かを覚悟するだけの時間を用意しようとする。それは誰かにとっては絶望で……でも、誰かにとっては希望かもしれない。そして、その自分に悪意を持つかもしれない相手にすらあの人は本当の意味で優しかった……自分の不利や命の危機にすら払えると思うものならば、自分の納得の為ならば、払ってしまう……それがどんなに自分を害するから知りながら……だから、あの人を傍で支えていくなら、きっとそれはあの人の生き方に付き合うという事……私はそんなあの人の生き方に付き合って……つ、妻として……あ、ぁ、愛して、いこうと思います」


 最後は晴れやかに。


「……」


 思わず自分はそんな上等なものじゃないと口に出掛けたが、お嫁様の晴れ舞台を邪魔するのもアレだろうと内心を落ち着ける。


 何か物凄く美化されているようでこう背中が痒い以上に痛い気がした。


「では、四番の方。どうぞなのじゃ」


「?……あ、A24はパシフィカの事、可愛いって言ってくれたのよ!! だから、頑張るわ!! A24の赤ちゃんを一杯生んで、家族みんなでA24を応援するの♪ だから、みんなもA24の事をこれからもどうぞよろしく、なのよ!!」


「う、ぅう……」


 元気一杯、幸せ一杯、ついでに何故か自己紹介ではなく魔王様の紹介になっている上、言動が一部では『あ、あんな何かちょっと抜けてそうな子まで魔王様は……』とか『赤ちゃん一杯……魔王様の趣味、なのかしら?』とか。


 とにかく、天真爛漫と魔王の嫁というギャップにこっちが何か良からぬ事を教えているような疑惑が辺りに充満していく。


 いや、本人はああ見えて物凄くしっかり物事を考える方だ。

 しかし、それが出会ったばかりの女性陣に伝わるわけもない。


 傍目には純真な乙女を誑かした魔王様やべぇという空気が醸し出される結果になってしまっていた。


(とても嬉しくは、思うんだが……こういう場所向きじゃないんだよな。ホント)


 パシフィカが後ろに下がると今度はクランが出て来た。


「え、ええと……こほん……私は、だ、旦那様を深くこれからも思い続けたいと、そう思って、います」


 緊張気味なのか。

 言葉が固い。

 いや、それはそうだろうと思い直す。

 中身は天然ホヤホヤなパシフィカと違って箱入りのお姫様だ。

 それも陰謀とか謀略とか渦巻く系の家庭に育ってしまっている。


 人の前に立つ事は殆ど無かったし、そういう時はいつも煙管が似合う後見人が後ろから見ていてくれた。


 それが今は遠く離れた見知らぬ土地。


 その上、人間の姿はしていても耳在りな人々の方が多いという環境である。


 いつものような調子で何かを言うのは一苦労、という事くらい伝わって来る。


 でも、それでも、懸命に言葉を紡ぐ様子は父親と別れた日を彷彿とさせた。


「私は最初、客人として、あの方に出会いました。救われてからは仮初の恋人として……今はあの方の妻として……私は今傍で支えたいと願っています。哀しい時、苦しい時、辛い時、あの方は……いつも前を向いていました。自分は大した事が出来るわけじゃないと言いながら国家すらも敵に回して……私や回りにいる皆さんを助けてくれた。自分の身なんか省みず。自分の為だからと嘯いて……いつか、私の傍から消えてしまうような気がして……私は改めて妻となった今だからあの方の未来に向かう姿が怖い……でも、そんな人だから、誰もが惹かれて、傍にいたいと思ったはずです。守りたいと願うから、私は……あの方の傍で命果てるまでお仕えしましょう。千年に一度の恋だと言われるように。永遠の先でもあの方が笑って今日を過ごしていられるように……それが私の決意です」


「……クラン」


 恐らく、きっと一番このチートな肉体やまだ話してもいない内情を気に病んでいるだろう少女に何と頭を下げていいのか……いや、どう感謝していいのか分からくなった。


 永劫の果てまでも続くと言われた命。

 それが嘘か誠か。

 分からずとも、一面の真実を確かに自分は背負っている。

 この先、時間が過ぎ去っていく事で様々な困難があるだろう。

 それが常人の比でない事など明らかだ。

 それでも、そんな覚悟を、してくれている相手がいる。

 それがどれだけ恵まれた事か。


 自分に出来る限り、幸せにしてやりたいと心から願うからこそ、その怖いという言葉が何よりも胸に響いた。


「では、本人達の申告から六番と七番は同時にどうぞなのじゃ」


 進み出たアンジュとクシャナが何故か水着エプロンにゼッケンという姿で無い胸を張った。


「私達は」

「あいつを」

「「愛しています(るわ)」」


 ガツンとしたインパクト。

 燐とした佇まい。

 アイドル顔負け。

 フラウに勝るとも劣らないルックス。


 どんな壇上でも絵になるだろう二人は正しく宗教派閥のトップらしく。


 演説慣れした様子で聴衆に訴え掛けるよう話し始める。


「エミ。こほん、セニカは私にとって掛け替えのないパートナーであり」


「アタシにとってはそうね……たぶん、この世の中で一番好きになれる政略結婚相手でしょうね」


 アンジュはともかく。


 クシャナはサバサバした調子でカラリとした笑みを浮かべた。


「あいつに対して深い想いを持ってる人達には悪いけど、アタシはあいつ自身はスゴイヤバい奴だと思ってるわ。けど、同時にあいつがきっとどんな未来にも立ち向かってる姿が目に浮かぶの」


「セニカは私達がどういう存在であるかを知りながら、こういう風にしか生きられないと知ってすら、最初の時から変わらず、接してくれました」


「あいつにだって、きっと自分の中の倫理観とか道徳とか常識とかあったでしょう。でも」


「あの人達は私達が嫁になると聞いても嫌な顔一つせず。笑って、安心させてくれようとした」


「だから、アタシはあいつに付いてくのよ。この身体一つが朽ちるまでくらいは仕えてやるわ。これは政略結婚したからじゃない。アタシの決断よ」


「私もあの人の子供に囲まれながら死ぬまで傍に居られるよう努力したく思います」


 バサッと二人のエプロンが脱ぎ捨てられる。


「ははは……感謝しかないけど、せめて服は着て欲しいというオレ願いは過大なものなんだろうか……」


 会場がどよめきに包まれた。

 そりゃそうだろう。

 黒ビキニの股間を見れば、二人の性別は一目瞭然だ。

 まぁ、肌が白くなっている以外は前と変わらない。


 ただ、股間以外は嫋やかな超貧乳の美少女にしか見えないというだけだ。


 もうこの時点でカッコンと頭に後ろに擬音が出そうな聴衆は勘付いたと言わんばかりのリアクション。


「ああ、アタシは最低300人は欲しいわね。死ぬまで何回産めるか挑戦するのもいいかも♪」


「クシャナったら、そんなはしたない」


「何よ? アンタは宗導者の戒律上は1000人以上でしょ? 双子から初めて四つ子をハイペースでって話も来てたんだから、もういっそあっちにも産んでもらう? そうなるとしても絶対アタシより大変じゃないのよ」


 魔王様、男もいける。

 ついでに孕ませられる。

 更にまさか自分でも産める?

 後、1人に付き数百人産ませる予定。

 いやぁ、実にHENTAIだなぁ。


 ザワッザワッ―――会場の空気がどよめいた。


「うぅ、オレの評価が物凄い事にッ?!!」


 とっくの昔のあの二人の男の娘達のシレッとした宗派からの要望暴露で心のライフは0だ。


 会場では血の気が引いた女性陣がガクガクプルプルしながらも、ゴクリと唾を呑み込み。


 真面目な表情で出産予定に付いての真面目なミニ討論会が開かれ始めている。


「え、え~では、最後に新参のお二人に話してもらうのじゃ」


 子供数百人出産予定という衝撃から未だ抜け切らない様子ながらも、フラウとガルンが共に前へ進み出る。


「セ、セニカ様の子供だったら、す、数百人は無理かもしれませんが、数十人くらいなら!! 私だって、う、産めますッッッ!!?」


「ゴッフォ?!!」


 張り合わなくてよいところでフラウが胸を張った。


「ガ、ガルンも!! 月兎の女は多産?! が、頑張れば、百人くらい!!」


「だから、張り合うなよ!? 別にそこまでして欲しいなんて頼んでないし、実際頼まないよオレ!?」


 普通って何だっけ?


 と常識さんが首を傾げそうな検定会はそうして何故か魔王様の子供を安全に産んで幸せ家族計画というプランを語る場になっていった。


 そこから先の料理イベント的なものは殆ど呆然自失で頭に入って来なくなった。


 映像の中では何やら心の叫びを吐き出して清々しい笑みを浮かべた嫁ーズが楽しそうにアクティビティーに興じている。


「じゅうわりだよー(^^)」

「何がだ?」


 後ろで駒を並べ終え、端末を覗き込んでいたユニが笑みを浮かべながら告げて来る。


「みんながあかちゃんいっぱいうむの~♪」

「………………はぃ」


 明日の天気が晴れと高気圧が張り出した天気図を読むお天気おねーさん張りに確実そうな宣告が下され、未来には一筋どころか数千筋くらい光が射している事だろう。


「ゆにもうむー(^^)/」

「もう好きにしてくれ……」


 魔王、国家を創る(数の原理)が女性陣の間で盛んに議論される事になる一件は希望の未来にレディーゴーする嫁達の笑顔が確約してくれているように思えた。


 数時間後、ゴシップと主要紙の夕刊一面に載る大スクープの見出しは、こうだ。


―――魔王、愛妻と愛妾に1人100人以上の出産をさせる予定(仮)。


 その後、魔王の公的に会う人々の視線が一層奇怪なものを見る目になっていく事となるのだが、それはまた別の話である。

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