第108話「肉喰らうもの」

『おいでませぇ~~~~此処はパーライダスだよ~~』

『当施設における観光案内は既に終了しております』

『夏、それが女達を熱くする!!』


『323年ぶりの秋です!! この紅葉の季節を楽しもうではありませんか』


『現在、市内のホテルは閉鎖しております。大変申し訳ありません』


『今年の戦場はコレで決まり!! 幸せ一杯夢一杯敵を殺して、みんなで食料をゲットしよう!!』


『委員会に対する命令不服従は公共の福祉に対する反人類的な行動です』


『メンズパンツ有マス。連動式生殖機能改造はアスタリスク・プラウダ製薬にご用命を』


『このウェアラブル端末が人類を左右する……時代は脳測量方式へ!!』


『春の味覚!! 世界に唯一つの満足と幸せを貴方に……合成糧食春味順次入荷中!!』


『解体されたユーラシア諸国からの難民は経済的に困窮している弱者です。食べないで下さい』


『ハレルヤー!! これが最新の流行挨拶ですよ? 皆さんも一緒に脳内検査にご協力下さい。委員会よりのお知らせでした』


『撃破!! アフリカ集合民族体!! 勝てます勝ちます。それが我らの生きる道!!』


『定期的な性細胞提供にご協力下さい。皆さんの精子と卵子が敵を倒す兵となります』


『夢、来る!! 今日は隕石群の日!! 地表の敵が32年前の大攻勢でようやく半減したという事実を後世に……委員会第49323次冬季メンバー』


『983年ぶりの冬季解除が迫っています。皆さんのご協力の賜物です。危険度Fに該当する193年前製造の糧食が無料開放されます。中央メインブロックで行われる委員会フィルハーモニーの公演に是非ご参加下さい』


『人体糧食は違法です。違法難民の全細胞の所有権は委員会にあり、不法に育成、解体する事は法令に反する重大事案として官憲からの射殺対象になります。ご注意下さい』


『難民解体法可決!! 食糧事情の改善に寄与。難民解放戦線の密告はお早目に。委員会より』


『第三ブロックの大破が確認されました。隔離封鎖による浄化措置は12年となります。お住まいの方は東伊藤建設株式会社までご連絡を』


『第43期難民大量収穫迫る!! 市民広報』


『委員会より緊急コード第323235342233号が発令されました。外部ブロックからの搬入物。特に石製の棺桶と思われるものには決して手を触れないで下さい。補給省』


『第93ブロックにおける違法研究が検挙されました。ロフテッド速報』


『速報。93ブロック壊滅。ただちに近隣ブロックへの避難にご協力下さい』


『驚愕!! 93ブロックでの違法研究内容明らかに!! 既存IPSの3400倍の増殖力を持つ細胞?!! 葵新聞社』


『偽広告にご注意下さい。93ブロックという単語は現在市民クリアランス内において許可されておりません』


『新型細胞来る!! 委員会発表。これで貴方も不死身の肉体に? 守らなければならない七つのルール!!』


『殺人鬼捕まる!! 強化歩兵342人死亡!! その全貌に迫る!! スパーク・ニュース』


『偽ニュースにご注意下さい。現在市民クリアランスにおいて殺人鬼という単語は許可されておりません。只今23:23時をお知らせします』


『新型細胞は嘘? 元研究者が明らかに……アレは殺人鬼の細胞を培養したもの? フラグ・レポート速報』


『卑劣!! アメリカ単邦国!! 南半球の親委員会派都市392を新型核の標的に!! 人類史における最大虐殺数更新。推定32億人』


『塩価格の高騰止まらず。市民暴動。委員会は治安維持法を可決。これに最大与党が反発。軍事法廷は不可避か?』


『外部探索部隊32321への志願応募要項開示。今期は43年間の兵役義務免除。若者殺到す』


『外部探索部隊32321帰還。死傷者数八割。父母誇り高いと涙』

『外部探索部隊32321の収集物明らかに……新成果は無し』


『委員会が新型静穏素材を開発。音波を100%シャットダウン。羽毛型と発表』


『精神病院内にて元研究者明かす。アレは化け物の羽だ!! 委員会広報反論【全て狂人の戯言】―――メンタル速報』


『日本帝国連合とアメリカ単邦国、人型兵器投入。委員会広報【足が二本とはどうかしている】ファランクス速報』


『敵主力迫る!! 最大規模の軍団を動員か? 委員会、3433年ぶりに月面マスドライバーの使用を承認する』


『驚愕!? 日米共同侵略軍。我が方のマスドライバー破壊。敵の新兵器か? 大陸隆起案件として国会が議論。残存する米大陸の抹消不可避の情勢』


『ユーラシア・ビジョン大攻勢始まる。多重波状攻撃による防衛線瓦解を企図か?』


『快勝!! ユーラシア・ビジョン主力半数を壊滅!! 新型反抗用歩兵の製造ライン32となる。大反攻作戦は真直か?』


『外部探索部隊83485壊滅。委員会広報【まったくのデマゴーグ】与野党からの情報開示請求を一蹴』


『糧食プラント停止。難民解体法の廃案可決。実に9332年ぶり』


『開示請求を委員会承諾。糧食プラント内でのマニュアルを入手…………追悼碑の建立運動始まる』


『委員会釈明【賢明なる市民がデマゴーグを一笑に付す事を信じる】……38223年ぶりのクリアランス改訂を睨んでの権限不使用か?』


『救出された難民語る【あそこは屠殺場だった……】』


『明らかになった12321年前の真実。プラントは殺人鬼の為の保養施設だった?』


『明らかになった委員会の暴虐。人間牧場……糧食プラント内で強制繁殖、強制成長は当たり前。脳髄は新型チップ、肉体は子宮と精巣以外を出荷。知能破壊用薬剤を確認』


『食糧事情悪化。委員会、与野党に再度の難民解体法の可決を促す。保守反発。野党【仕方ない。市民の健康が第一。人権に配慮を】』


『反委員会派の統一見解政党結成。委員会【生存戦略の著しい侵害】と批判』


『日本帝国連合の大規模攻勢開始より4323年。ついに第一次防衛ライン瓦解。製造ライン数の圧倒的な差か? 講和の道を模索するべきだと与野党からの大提案。委員会広報【売国奴に耳を貸す必要はない】と呆れ顔』


『クリアランス改訂に反発。委員会、一部日用品製造ラインのストップを指示。市民暴動多発』


『伝説の難民解放戦線が再結成? 地下組織の動き活発化。失われた伝統と文化を取り戻すと宣言。ネット騒然【マジであいつら。ええと、こういう時はクールって言うらしいっすよ?】との事』


『四季再現用インフラ復活へ。委員会により狩られた言語の復権活動も急がれる』


『自然繁殖行動の手引き策定される。歩兵生産用性細胞提供義務を縮小の動きか? 委員会【これ以上の戦線への補給圧迫は自滅への道】と警告』


『過度な見出しの解禁へ政府舵取り。ヒャッハーが流行語大賞に選ばれる。ヒャッハー!!!』


『人口動態の劇的変化。自然生殖行動体験者【素晴らしい体験だ。是非、全ての人にこの古の人々が知っていた活動を行ってもらいたい】』


『戦力増強が困難に? 歩兵生産の縮小が戦線を直撃。委員会【我々の意見が正しかった事が証明された。ただちにクリアランスを以前の状態に戻すべき】』


『自然生殖活動と自然分娩活動が活発化。性差別的な表現規制の見直しも始まる。女性は後方支援が似合うと性差別主義者達はお祭り騒ぎ。委員会【基本的人権を蹂躙する社会規範の希釈が始まったと批判】』


『第二次防衛線後退。性差別主義者達の“男らしい志願行動”に女性達“メロメロ”……表現規制って記事をつまらなくしてたんですねぇ(記者仲間談)』


『難民解放戦線。日米との講和模索をと与野党に提言。連立与党政権内意見割れる』


『主力NVのアップデート完了。本格量産へ弾み。戦線縮小による防衛ライン再構築可能に』


『月との通信途絶。月面基地は壊滅か? メインサーバーとの接続不能により市民生活に多大な支障出る』


『衛星群と一部のリンク途絶。マイクロ波受信施設からの電力供給途絶える。世界各地の量子コンピューター群の32%を敵軍が鹵獲か? 委員会【ロックが掛かっている以上、敵にとっては“宝の持ち腐れ”】……規制ワードで皮肉』


『委員会広報です。現在、政府関係機関の全ては最終コード【審判ジャッジメント】により委員会によって掌握されています。市民の皆さんは新設される兵役義務を守り、健全な市民生活を―――』


『この情報は難民解放戦線によって各家庭、各同志に配られております。難民解放戦線の戦いに是非ご協力下さい。非道な委員会に裁きの鉄槌を』


『委員会広報です。不法団体の取締りにご協力下さい。危険度無し糧食の再配布整理券を進呈致します』


『難民解放戦線広報です。十万年目の奇跡!! 自然食料の栽培に成功!! 死体の埋葬可能に……各家庭にお配りするMUGIとKOMEは完全糧食と言っても過言ではありません。是非ご賞味を!!』


『委員会広報です。不法団体の提供する糧食は全項目において危険度判定Aが出ております。耐性の無い方は食べた瞬間死ぬ可能性があり非常に危険です』


『難民解放戦線広報です。自然糧食の耐性検査キットを無料配布致します。委員会のデマゴーグに惑わされる事なく。人類の尊厳を取り戻しましょう。耐性さえあれば、故人を糧食とする必要性はありません』


『難民解放戦線広報です。全市民武装せよ。全市民武装せよ。反委員会系市民の殺害と糧食化計画が進行中です。退役軍人と予備役の方々はNVをご持参下さい。貴方の貢献が人類を次なる時代に連れて行く事でしょう』


『委員会広報です。本日未明、ユーラシア・ビジョン、日米共同侵略軍の合流を確認。最終承認によって大陸隆起案件Dが可決されました。予ねてより予定されていた新大陸構想が開始されます』


『委員会広報です。残存する米大陸の完全沈没を確認。日米ユーラシアの主力軍瓦解。マイクロ波照射確認。リンクの一部回復によって我が軍が優勢です』


『難民解放戦線広報です。外部の人類殲滅を委員会が計画していると判明。原初文明よりのやり直しという人道に悖る和平案を合同軍に送っていた事も明らかとなりました。互いに人類である我々が殺し合う理由はもはや存在しません。委員会は既に単なる既得権益団体を化しており、人類のシンギュラリティーとは関係ない権力機構となってしまったのです』


『委員会広報です。外部の人類と呼ばれる物体は少なくとも我々の定義する人類ではありません。アレは人類モドキです。視覚化コードを承認。全市民へのアクセスを許可。“神の屍”を再起動します』


『難民解放戦線広報です。市民はまず落ち着いて下さい。委員会による精神攻撃の可能性があります。視神経に介入する欺瞞コードにご注意を。外部を邪悪に見せようとする策略に乗らないようお願いします』


『委員会広報です。共同軍の撃滅と共に敵補給の要である生産地域をマイクロ波照射によって壊滅。戦争は終わりました。今後、残存する人類モドキの掃討に移ります』


『難民解放戦線広報です。一人の英雄の働きにより、外部人類殲滅計画は止められました。委員会は人材枯渇しており、残り12人の身元を確定。ただちに排除へ移って下さい』


『難民解放戦線広報です。本日23:00時。全委員会役員の殲滅に成功。戦争は終わりました。戦争は終わりました。この不幸で凄惨で人類を痛め続けた長きに渡る戦争は終わったのです。自然食品の栽培と開放。外部環境の改善と外部人類との融和。これより新時代が到来します。人々よ。書を棄て、大地に立ち、共に日々の糧の為に励みましょう』


『難民解放戦線広報です。本日、この都市の廃棄が決定されました。次の人類が、全ての人々が、幸せでありますように。此処に難民解放戦線は新たな名称を迎え入れ、誰もに食品が行き渡る事を願って、空飛ぶ麺類教団と呼称が変更されます』


『封鎖が開始されます。静穏素材によって、この地は永遠の静寂と共に眠る事になるでしょう。この地において産まれ、笑い、泣き、怒り、死に、隣人の腹を満たした全ての人がどうか幸せだった事を……それが後世の繁栄によって証明されん事を切に願って……蒼き目の誓いを胸に此処を楽園として封ず』


――――――。


 長い降下時間だった。


 穴の湾曲した内面が全てディスプレイだと知ったのは入ってすぐ。


 流れ出した文字列の束。


 もう機能していない部分は歯抜けになりながらも、真実なのだろう全てが目の前を過ぎて行った。


 大まかには理解出来ただろう。


 最後の遺跡の全てを現しているのだろう碑文とも言うべき文言の後。


 地下世界が姿を現した。


「………」


 広大な、あまりにも広大な都市。


 この上に存在するファースト・ブレッドなどとは比べ物にならない。


 その果ても見えず。


 数百mにも及ぶ高層建築が並び続けている光景は壮観に過ぎた。


 ゆっくりと天井に灯り始めた光源によって明度が増していく。


 地表の全てが白い何かによって覆われているのが確認出来る。


 静寂に支配された墓標は動くもの一つない。

 岸壁の端。

 未だ地表に辿り着いていない高空で昇降機が止まる。

 辿り着いたのは空中回廊と言うべきか。


 都市上空には遊歩道のような吹き曝しの細い金属製の通路が広がっていた。


 遠くを見れば、網目状になっているようで、都市の何処へも行けそうだ。


 各分岐の近くには何やら鳥篭のような昇降機も見える。

 それで地表へと降下するのだろう。


「祈りなのかもしれない」


 僅かに唇がそう呟いていた。


「祈り、でござるか?」


 横の百合音に苦笑する。


 本当はそんなに大そうなものではないかもしれないと思いながら。


「人間の最後の敵は人間。でも、人間を最後に幸せとするのもまた人間。そう信じなきゃ……あそこに書いてあったような人間賛歌を最後に書き残せるかって思ったんだよ」


「エニシ殿……」


「まぁ、色々と衝撃的な事が書いてあったのは事実だし、検証しなきゃならない事は沢山ある。だが、今は全部後回しだ。オレ達の後ろにはオレ達の大切なものがある。それを守りたいなら、過去の話は追々でいい」


「強いでござるな。某とて、ちょっと衝撃を受けていると言うのに……」


「そっちの方が可愛げがあっていいと思うぞ?」

「う、うむ……」


「あ~~こんなところに来てまで乳繰り合うのはどうかと思うのじゃ。いや、悪いとは言わんが」


「~~~ッッ?!!」


 百合音が思わず赤くなった。


「そっれにしても、真実っちゅーのは案外シンプルなんやね。これが委員会の末路とは……麺類教団の起りがコレって殆どの旧世界者プリカッサーが知らんのとちゃう?」


「今は考えるな。聞きたい事は後で聞けばいい。主上」


「分かっておるとも。研究施設、政府機関から情報を拾い。後は保管場所に向かうだけじゃ。それにしても泉があると聞き及んでいたのじゃが……探さねばのう」


 ヒルコが周囲に端末の類が無いかと探し始める。


 バナナや百合音と共に数分周囲を見て回れば、それを発見出来た。


 やはり、未だに動くらしく。


 タッチパネル式のディスプレイに都市の地図を出させ。


 目ぼしい施設を見つけてヒルコに覚えさせた後。


 行動を開始した。


(今はまだいい。そう……この一件が終わってからだ。全ての点を線にするのは……)


 地下世界の探索。


 何処かのRPGも真っ青な時間が始まった。


 どんな危険が待ち受けているのか事前情報一つ無いまま。

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