Postlude ~池崎馨の夢 X~

 ここは楽しい夢の国、ルシアナ王国。

 犬の姿をした妖精たちが穏やかに幸せに暮らしている世界なんだ。


 今日はそんなルシアナ王国の至るところに花が飾られ、お祝いムード一色になっている。

 なぜなら、今日は僕、カヲル王子の結婚式が行われる日だからだ。


 ―――――


 ココを見失ったあの日から、僕は国中を走り回り、家臣たちの協力の元、ココの行方を必死になって探した。


 そして、ようやくココを見つけたのだ。

 ココと初めて出会い、突然のもふもふに面食らった、あの美しい湖のほとりで。


「国じゅうを旅しようと思ったのですが、結局この湖が恋しくなって戻ってきちゃいました」


 諦め半分で立ち寄った湖で佇むココを見つけ、僕が思わず駆け寄って抱きしめたとき。

 腕の中で彼女は気恥ずかしそうにそう言った。


「やっぱり私はカヲル王子と初めてお会いしたこの湖を眺めながら、王子の幸せを願って暮らそうと思ったのです」


「僕の幸せを願ってくれるのならば、君には僕の隣にいてもらわないと困るな」


 僕の言葉に、ココがはっとして顔を上げた。

 捉えた瞳をもう離すまいとまっすぐに見つめ、僕は言葉を続ける。


「僕はココを愛している。

 僕と結婚してください」


 ココの黒くまあるい瞳が潤んだ。


「はい……! 喜んで」


 ココのカフェオレカラーの巻毛に指を埋めてさらに抱き寄せると、彼女は僕の白く豊かな自慢のコートにそっと頬を寄せ、お互いの気持ちを確かめたのだった。


 ─────


 湖のほとりに建つチャペル。

 祭壇の前で、僕は緊張した面持ちで彼女を待つ。


 楽団の奏でる優美な音楽に合わせて、バージンロードの先にある扉が開く。


 現れたのは、白く清楚なドレスに身を包んだココだ。

 バーニーズマウンテンドッグの給仕長、フクダ達が丹精込めて編んだ長く繊細なレースのヴェールを被っている。


 ゆっくりと僕に歩み寄ったココがうやうやしくお辞儀をし、僕が差し伸べた手の上に小さな手をのせる。


 誓いの言葉。

 指輪の交換。


 その後に、僕は向かい合ったココのヴェールをそっと上げる。


 恥じらいと喜びで潤む彼女の黒い瞳が、上目遣いに僕を見上げる。

 その瞳が再び睫毛に隠されたときに、僕は彼女に口づけた。


「王子……」


 誓いのキスを終えたとき、ココが再び僕を見上げた。


「私……嬉しくて……

 もう、我慢できませんっ!」


「えっ!?」


「王子の胸にもふもふさせてくださいっっ!!」


「ちょ! 今ここでっ!!?」


 そう言うが早いが、ウエディングドレスのココが僕の胸に飛び込んできた!


 チャペルの参列者や神父から贈られる、笑いと歓声と拍手の中。


 抱きとめた腕の中で、ココがキラキラと輝く笑顔で僕の胸に顔を埋めてきた。




「もふもふ~~~~っ!!!」




 ────


 ──…


 ……





(『池崎さん!もふもふしてもいいですか?』おわり)


✨ご愛読ありがとうございました✨

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池崎さん! もふもふしてもいいですか? 侘助ヒマリ @ohisamatohimawari

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