第83話・アタリかハズレか
昨晩、突如として自分は本物のラビィだと言うラビィに起こされた俺は、そこで本物のラビィさんに憑依している元転生者の
最初の方こそ半信半疑だったその話を、俺は最終的に信じた。話の筋はちゃんと通っていたし、俺に話をしてくれたラビィさんは、妹のラビエールさんが以前から言っていた『優しく立派な姉さんだった』と言う話とも一致する程に良い人だったから。
まあ、事情が色々と複雑なのは分かったけど、本物のラビィさんはちょっとお人好し過ぎるとも思えた。まあ、そこが本来のラビィさんの天使たるゆえんなのかもしれないけど。
「何よリョータ? さっきからチラチラと私を見て」
「えっ? そんなに見てたか?」
「見てたわよ。そんなに私を監視しなくても何もしないってば」
「あ、ああ。分かったよ」
昨晩の事があり、俺はついついラビィの事を観察していたらしい。
本来ならとてつもなく怪しまれるところだろうけど、ラビィに憑依している白鳥麗香が勝手に監視だと勘違いしてくれたのは助かった。
この白鳥麗香がどうやったら満足して本来のラビィさんから離れるのかは分からないけど、これからはその辺も念頭に置いておかねばならない。
色々とやり辛くなりそうな事は多いけど、俺が変に今までと違った事をすれば白鳥麗香に怪しまれ兼ねないから、そのあたりには注意が必要だろう。
俺はとりあえず気持ちを切り替え、最後に向かうダンジョンの事に集中しようと決めた。
ティアさん達と二手に別れてから今日で十一日目。
今日の探索を最後にしてティアさん達と待ち合わせの約束をした遺跡ダンジョン前へ戻り始めないと、とても約束の期日までに辿り着けない。
それにしても、今日までにロマリア王が行った数々の遺跡やダンジョンなどを探索して回ったが、ものの見事に空振りだった。
ミアさんの話ではあと数ヶ所くらいロマリア王が行った場所があるらしいが、その全てを回るのは時間的に不可能だ。そして今日はもう、お昼を迎えるまでに二ヶ所の探索を終えている。時間的な都合を考えれば、あと一ヶ所を回るのが限界だろう。
残り数ヶ所の内のどこを回るか。それはまるで福引の当たりをピンポイントで当てるかの様な強い運の要素を必要とする事だが、なんとか当たりを引き当てたい俺は酷く頭を悩ませた。
本来ならじっくりと情報を整理した上で最後に行く場所を決めるべきなんだろうけど、なぜか最後に行く場所は、ラビィが取り出した『導きの棒』と言う先端が矢印状になった短い木の棒で決める事になってしまった。
なんでもラビィが取り出したそれは、前に居た街の骨董屋で見つけた珍品らしいのだが、ラビィ曰く『探し物を念じながら立てた棒から手を離すと、その探し物がある方向へ倒れて教えてくれるのっ! 凄くない!?』との事だった。
ちなみにこの導きの棒は二十万グランで買ったらしいが、俺からすればこんな矢印型をした木の棒に二十万グランも払うとか、その辺りに転がっている小石に大金を払ったにも等しい暴挙だ。だから俺は、そんな物を使って行く先を決めるのを当然の様に反対した。
しかしそれも、ミアさんが話してくれた内容を聞いて状況が変わった。なんでもミアさんが言うには、この木は太古の時代にこの地方にあったと伝わる導きの木の枝を使った物に似ている――との事で、実際に導きの木の枝を使った物には探し物へと導いてくれる効果があったらしい。
ラビィの買って来たそれが本物なのかどうかを判定するのは難しいが、本物なら俺達の探しているものが見つかる可能性は格段に上がるはず。
どうせこのまま悩んでいても答えが出るわけでもないので、一か八かこのアイテムが本物である可能性に賭け、地図の上でこのアイテムを使ってみた。
そしてその結果、俺達は導きの棒が指し示したダンジョンへと向かっている。もしもこれで違っていたら、ラビィには後でお説教コース確定だ。
こうして俺達は導きの棒の指し示したダンジョンへと向かい、一時間もしない内にそのダンジョンへと辿り着いた。
しかしそこはダンジョンと呼ぶにはあまりにも内部構造が小さく、内部へと入ってから五分と経たない内にその最奥部の空間へと辿り着いてしまった。
「ここで終わりか?」
「分かれ道もありませんでしたし、ここが最奥部なのは間違い無いでしょうね」
「たくっ……やっぱりあんなアイテムを信じたのが間違いだったか」
「ちょっと! 何よそれ!? 私が悪いって言いたいわけ?」
「そこまで言うつもりはないが、結果的にあのアイテムがインチキアイテムだった事は分かっただろ? あんなインチキ品に二十万グランもつぎ込みやがって。お前の食事はしばらくパンと水だけだな」
「ちょっと! そんなの酷くない!? 私はみんなの役に立つと思ってあのアイテムを買ったのに!」
「みんなの為と言えば聞こえはいいが、本当はお宝やら美味い酒がある場所でも探そうと思って買ったんじゃないのか?」
「そそそそんな事あるわけないでしょ!? いくらなんでも疑い過ぎよ!」
俺の言葉に対してこれでもかと言うくらいに動揺を見せるラビィ。その様を見てまだラビィの言っていた言葉を信じる者は居ないだろう。
「まあ、どちらにしてもこの場所はハズレなんだから、あのアイテムがインチキ品だったのは確定だな」
「そ、そんな事ないもん! あれは絶対に本物だもん! 絶対にここには何かあるはずだもん!!」
そう言うとラビィは何を思ったのか、周囲の壁をドンドンと無作為に叩き始めた。
きっと隠し扉的な何かが無いかと考えてそんな事をしているんだろうけど、例えそんなものがあったとしても、それが簡単に見つかるわけがない。
「きっとどこかに何かがあるはずなんだから!」
「おい、ラビィ。気持ちは分かるけどいい加減にしろよ――って、あれ? アイツどこに行ったんだ?」
「き、消えました……」
「はい?」
「目の前で姉さんが消えたんです! 突然!」
「そんな馬鹿な!?」
俺はすぐさまラビィが打ち叩いていた壁の方へと向かい、その周辺の壁を触ってみた。しかしどこを触っても隠し扉的なものがあるわけでもなく、落とし穴的なものがあったわけでもない。
「マジでどこに消えたんだアイツ?」
そのあとみんなで周辺を隈なく探してはみたが、ラビィはおろか怪しげな通路的なものすら見つける事はできなかった。
「――いったいどうなってんだ? アイツどこに行っちまったんだ?」
「ここから外へ出た形跡はありませんでしたし、突然消えたとしか言いようがないですね……」
状況を見たラビエールさんが冷静に言葉を口にする。姉が消えたのに冷静なのは助かるが、おそらくその胸中は穏やかではないだろう。
それにしてもおかしい。こんな狭く隠れる場所も無い空間で人が行方不明になるなど、神隠しにでもあったとしか言い様が無い。
「ミアさん。何かアイツが消えた理由に思い当たる節とかありませんか?」
「私もずっとそれを考えていたんですが、何も思い浮かばないんです……」
「ですよね……」
そんな事が思い浮かんでいるくらいなら、ラビィはとっくに俺達に発見されているはずなのだから。
「……お兄ちゃん。ちょっと試したい事があるんだけど、いいかな?」
「えっ? いいけど、何をするんだ?」
「ラビィさんがしてた事をしてみようと思うの。それでね、もしもの時の為に、みんなには今から私がする事を見てそれを覚えておいてほしいんだ」
「それはいいけど。何をするんだ?」
「まあ見ててよ」
そう言うと唯は近くにある壁をドンドンと叩き始めた。
それから別の場所へと移動をすると、唯は移動した先でも壁をドンドンと叩いて行く。俺には唯のやっている事の意味がさっぱり分からなかったが、その意味は数分後にやっと判明した。
「あっ! 唯が消えた!?」
「なるほど。そういう事でしたか」
「何か分かったんですか? ラビエールさん」
「はい。唯さんのやっていた事を見て分かりました。この場所にはおそらく、記憶の扉があるんだと思います」
「記憶の扉?」
「はい。特殊な魔法を使った素材を部屋にある壁に組み込み、ある特定の手順を記憶させ、その手順を踏まなければ決して先にある道へ進めないと言われている特殊な扉の事です」
「へえー。てことは、偶然にもラビィがその手順を踏んでたって事ですか?」
「そう言う事だと思います」
「それじゃあ、さっき唯がやった通りにやれば先に進めるわけですね?」
「そうですね」
「よーし! それじゃあさっそく!」
俺は意気揚々と前に出て最初の手順を取ったが、次の場所で何回壁を叩けばいいのかを忘れて手が止まってしまった。
「…………あの、次は何回叩けばいいんでしたっけ?」
「ふふっ。リョータさん、私が叩く場所と回数を言いますから、その通りにして下さい」
「は、はい。よろしくお願いします……」
自分の記憶力の無さが露呈して情けないが、これ以上恥の上塗りをするよりはマシだ。
俺は恥を忍んでラビエールさんの指示に従い、手順通りに壁を叩いて回った。そしてラビィと唯が消えた地点の壁を叩き終わった後、俺は気が付いたらさっきとは違う場所に居た。
「あっ、やっと来たね、お兄ちゃん」
「あ、ああ、まあな。ところで、ラビィはどうしたんだ?」
「私がここに来た時にはもう居なかったから、多分、先に進んだんだと思うよ?」
「アイツ、また勝手な事をしてるのか? しょうがない、俺が先に行ってラビィを捕まえとくから、唯はラビエールさんとミアさんが来たら合流してくれ」
「うん、分かった。とりあえずこの先からは嫌な気配はしないから心配は無いと思うけど、十分に気を付けてね?」
「ああ。分かってるよ」
俺は一人先へと進んだラビィを追いかけた。
道は俺の両手がギリギリ届くくらいの幅で、壁がほんのりと灯りを放っているからそれなりに視界は
そして進んで行った先で広がった部屋の中心に、何かを見つめるかの様にして
「おいラビィ! お前何やってんだよ!」
「ああ、リョータ。これを見てみなさいよ」
「ああ? 何だよ?」
俺は振り返り立ち上がったラビィの方へ向かう。
そしてラビィが居る部屋の中心部分へとやって来た俺は、そこにある物を見て思わず手で口を押さえてしまった。
「な、何だよコレ……」
そこには二つに割れた大きな丸い石があり、その傍らには今までに見た事も無い異形の怪物のミイラが横たわっていた。
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