第11話・お仕事を選ぼう
死霊を封じていた石碑を蹴って壊してしまい、その封印を解いてしまった駄天使ラビィ。それが元で俺達は、いや、正確に言うとラビィは400万グランもの借金を背負い込む事になってしまった。
ホント、ラビィと行動を共にしているとろくな事が無い。
そんな俺達はとりあえず今後の事を話し合う為、石碑のあった場所からリリティアの街へと戻り、冒険者ギルド兼酒場である祝福の鐘へと来ていた。
「とりあえず、改めて自己紹介をしますね。僕は
「分かったわよっ。私は大天使のラビィ様。遺憾だけどそこの下僕と同じ冒険者で、職業はエンジェルメイカーよ」
――どこの誰がお前の下僕だコラッ。
大金を要求された事がよっぽど気にくわなかったみたいで、ラビィは物凄く不機嫌そうに自己紹介をする。
その気持ちは分からないでもないけど、借金相手に対して心証を悪くするような態度は
「大天使……ですか?」
「ああ、大天使ってのは口癖の様な妄言ですから気にしないで下さい。コイツはただの痛い子なんです」
「何が妄言で誰が痛い子よっ! この才能と解放を司る大天使様に向かって何て事を言ってんの!?」
「なるほど。リョータさんも大変なんですね……お察しします」
「アンタも素直に納得してんじゃないわよっ!」
俺とリュシカに向かってギャーギャーと喚くラビィ。いつもながらプライドが高くてうるさい奴だ。
それにしても、ラビィが才能と解放を司る天使だったとは初耳だった。
「そこの痛い子は放って置いていいので気にしないで下さい」
「分かりました」
「私を無視するなあぁぁぁ――――!」
「それじゃあラッティ、自己紹介をして」
「うん! ウチはラッティ。立派なマジックウィザードになるのが夢なの!」
元気良く名乗り、自分の夢を口にするラッティ。そんなラッティの夢も俺は今初めて聞いた。とても良い夢だとは思うけど、今のラッティの状況を考えればその道は相当に険しいだろうと思える。
まあ、勇者になってハーレムを作る――なんて冒険者登録をした時に書いた俺よりは遥に現実的な夢だとは思うけど。
「立派な夢ですね。さて、今度は私の番ですね。私の名はリュシカ、職業はシスタープリースト。神に仕える者です」
「神に仕えるシスターがあんな慈悲も無い金額を吹っ掛けるわけ!?」
「それについてはここへ来る前にも話しましたが、私は働きと結果に見合った正当な報酬を要求しているだけです。神に仕える者かどうかなど関係ありません」
「そ、それはそうかもしれないけど……でも、聖職にある人は弱い立場の人を救うのも役目の一つなんじゃないの!? それなのに私達みたいな貧乏パーティーから400万グランも取ろうなんて悪魔の所業よっ!」
――そのセリフをお前が言うのかよ……。
ラビィが言ってる事はさも正論の様に聞こえるけど、天使のくせに俺の足を引っ張り続け、口汚く俺を
それに、リュシカの言っている事自体は間違いではないと思う。
あのまま死霊を放置してたら最悪死人が出る事態も考えられたし、かと言って俺達が戦えば絶対に無事では済まなかっただろう。そう考えれば、大金とは言え借金を背負う方がマシに思える。誰でも命は貴重だから。
それに神に仕えていようとそうでなかろうと、現実で生きるにはお金がいる。この世界の通貨がその価値を失わない限り、誰でも生きる為にはお金が必要なんだ。
「もう止めろよラビィ。俺達には死霊を倒す術が無かった。あのまま放置する訳にはいかなかったし、少しずつでも借金は返済すれば無くなるんだから。命を失うよりはマシだろ?」
「むうぅぅ、分かったわよ……」
未だむくれた表情をしていて納得したとは思えないけど、とりあえず大人しくなったから良しとしよう。
「――うーん。何か良いクエストは無いもんかねえ……」
一通り自己紹介が済んだ後、俺達は借金返済の為に早速クエストを受けようと掲示板を見ていた。
どうせなら高額な報酬のクエストをクリアーしてさっさと借金を返済したいところだけど、高額な報酬のクエストはもちろんその難易度も高い。だから今の俺達には無理だ。
ここは素直に現実を見て身の丈に合ったクエストをこなし、コツコツと返済をするしかない。
――何々……古代機動兵器パラポネラ。完全破壊報酬20億グラン。クエスト難易度は星三十。なるほど……どんな機動兵器かは知らんが、無茶苦茶な奴だって事は伝わった。こんなアホな難易度のクエスト、誰が受けるってんだ?
こんなぶっ飛んだ難易度のクエストは、俺みたいな凡人冒険者がどうこう出来るもんじゃない。てか、古代機動兵器がいつ創られた物かは分からないけど、それが今も動いてるのは凄いと思える。
古代の機動兵器とかそんな物にはロマンを感じてしまうけど、現実として関わりたいかと言えばそうは思わない。下手に好奇心を発揮して見物でもしようものなら、見物料として命を取られかねないから。
眉間にシワを寄せつつ、大きなクエスト依頼掲示板に張られたクエスト依頼書を左隅から順に見て行く。
それにしても、依頼の数こそ多いものの、内容が俺達のレベルに見合っていないものが多い。
大型蜂キラービーの討伐と巣の駆除や、発掘中の遺跡に出現した門番型アンデッドの討伐。逃げ出したペットモンスターが野生に戻って凶暴化し、集団で田畑を荒らしているから討伐してくれだのと、これまでに見た討伐依頼に限定するならその全てが俺達には瞬殺されかねない難易度だ。
「リョータ、これなんてどう?」
掲示板にあるクエスト依頼の紙の一つを指差すラビィ。俺はとりあえずその内容を見てみる。
――何々……魔法効果に関する実験助手? 一ヶ月間、魔法実験に関する助手をしてもらいたいです。忍耐強く、外へ出なくても平気で、家族が居ない方を希望。報酬は一ヶ月間の助手で500万グランです――か……。
よく考えなくても、その内容を見ただけでコレがアカンタイプの依頼だというのが分かる。下手をしたら一ヶ月後には廃人になってるかもしれんレベルでアカンやつだろう。
「どお? 一ヶ月で500万グランなら一気に借金を返せるから良いと思うんだけど」
「…………なあラビィ。ちなみにだが、この依頼を受けたとして、誰が助手をやるんだ?」
「そ、それはもちろんみんなでやるわよ。でも、初日だけはリョータに行ってほしいなあ~って。ほら、泊り込みの為の準備とかもあるだろうから。それは私達がやるからさ」
ニコニコとらしくない笑みを浮かべるラビィ。
コイツはきっと、この依頼の怪しさに気付いている。気付いている上で俺をそそのかそうとしているに違いない。
「いやいや。そんな事をラビィにやらせるのは悪いから、その役目は俺がするよ。代わりにラビィが初日に行ってくれよ」
「えっ!? いやいやいやいや! それはリョータにお願いしたいかな~。ほら、私って結構ドジっ子なところがあるし、初日から何か失敗したらマズイじゃない?」
言い訳がましく愛想笑いをしながらそんな事を言うラビィ。
やっぱりコイツはこの依頼の怪しさに気付いてる。その上で俺を犠牲にして借金の返済をしようと考えてるんだろう。
「なるほどなるほど。でもまあ、他にもっと良いクエストもあるだろうから、とりあえず見てみようぜ」
「分かったわよ……ちっ」
――コイツ、今完全に舌打ちしたよな?
さっきまでの愛想笑いを急に崩し、無愛想になるラビィ。その様はまるで、計画が失敗した詐欺師の様だ。
平気で仲間を犠牲にしようとするコイツは、いつかどこかで見捨ててやろう。
そう思いながらもっとまともなクエストは無いのかと見ていると、その中にわりと良さそうなクエストを見つけたので内容を読んでいく。
――カボチャ収穫のお手伝い大募集。初心者から上級者まで大歓迎! 報酬は収穫終了までに条件を満たす事で50万グラン。収穫具合で報酬にプラス査定有り――か。
冒険者がやる仕事としては地味かもだけど、とりあえずの活動資金を得るには良いと思えた。
「なあ、これなんてどうかな? とりあえず危険も無さそうだし、活動資金も得られそうだし」
「どれどれ? うーん……報酬もいまいちだし、内容が泥臭くない? やっぱりさっきの仕事の方が――」
「それはラビィが助手をするなら全面的に協力するぜ?」
「ぐっ……分かったわよ。とりあえずそれでいいわよ」
「ラッティはどうだ?」
「カボチャ取り初めてだからやりたーい!」
「そっかそっか。リュシカはどうです? このクエスト」
「カボチャ収穫クエストですか。懐かしいですね」
「やった事あるんですか?」
「ええ、昔一度だけ暇潰しにやった事があります。なかなかスリリングな体験でしたよ」
「スリリング?」
「あっ、別に大した意味は無いので気にしないで下さい。とにかく私はかまいませんよ? クエストの募集人数は限られていますし、決めたのでしたら早めに登録して来てはどうですか?」
「う、うん。それじゃあ登録して来ます」
にこやかな笑顔でそう言うリュシカに妙な違和感を覚えたけど、とりあえず生活費の確保は最優先だから仕方がない。今の俺達に出来るクエストは決して多くはないのだから。
こうしてカボチャ収穫クエストを受けた俺達は、次の日にカボチャ農園がある場所へと収穫に向かう事になった。
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