第四十七話 救出編㊼
ザイルを手にし、決意を胸にした私は女子生徒に電話をすることにした。
私はスマートフォンを手にすると、着信履歴から女子生徒のスマートフォンの番号を呼び出した。スマートフォンを握る手が若干熱い。
女子生徒は五コール目で出た。
「もしもし」
「もしもし、私だけど」
「あ、はい。何でしょう?」
「今日の夜中、会えるかしら?」
「夜中ですか?」
「そう。真夜中。正確には明日の深夜ね」
「突然、何ですか?」
「あなたのいじめはもう終わったのよね?」
「はぁ、リアルでのいじめは終わったと思いますが」
私は、
(しまった)
と、思った。
(現実世界で
私は率直に女子生徒に聞くことにした。
「高田さんは今日も休み?」
「はい。お休みでした」
「昨日はサイトにログインしたの?」
「しましたよ」
「カフェには入った?」
「入りました」
「……ということは」
「はい。ウィルキン君こと高田さんはいませんでした」
「実は、私も、昨日、サイトを
「あたしのマイページから、『死ね』って言葉も消えてましたね」
「それは私も見た。ねぇ、これは今思いついた質問なんだけど、ネット上のいじめも終わったと考えていいのかしら?」
女子生徒は黙った。女子生徒自身もネットのいじめが終わったと一〇〇パーセント確信できないでいるのかもしれない。
しばらくして、スマートフォンから女子生徒の音声が聞こえた。
「終わった、と思います。『死ね』という言葉もなくなりましたし、ウィルキン君は退会しました。それに〈カフェ10代〉に昨日、入ったんですが、何も言葉の暴力とかありませんでした。くくさんやNISHIさんとかがいて、
私は唇を閉ざした。
(やはり、このタイミングが一番いいだろう。リアルとネット、両方のいじめが終わったと考えていいはずだ)
私は覚悟して言う。
「今日の深夜に橋に来て欲しいの」
「ハシ? ですか?」
突然の言葉に女子生徒は、私が発した「橋」という単語の意味を計りかねているようだった。
「吊橋とかの橋ね」
「ああ、そっちの」
この時点で、私はすでに決めていることがあった。それはどの橋に女子生徒を誘い出すか、ということだ。
「あなた、夜中に自宅から抜け出ることはできるかしら?」
「何時頃でしょう?」
「深夜の一時位か二時位かしら」
「厳しい時間帯ですが、何とか家からは出られると思います」
「これが本当に最後の順番だから。これ以上、私はあなたに関わらない。この順番が終わったら、私とあなたは赤の他人になるの」
「何か重要なことがあるんでしょうか?」
「今まで一番、過酷な試練かもしれないわね」
「具体的に何をするんですか?」
「それは今は言えない。ごめんね」
「わかりました。それで、私はどこへ行けばいいんでしょうか?」
私はある公園の名称を口にした。
その公園は私が前任者である美少女と最後に顔を会わせた場所でもあった。つまりは、美少女を橋から落とすか否か、という選択肢を迫られた川がある公園だ。
(本当は別の場所がいいのだろうけど、私の近所で思い当たる橋と言えばあの公園の橋くらいしか思い浮かばない)
そこで、ふと、思考が反転した。
(もしかしたら、前任者の美少女も私と同じだったのではないだろうか。つまりは、前任者の美少女も橋での試練をあの赤い橋で行ったんじゃないだろうか)
私は公園の場所を説明した。
女子生徒は公園の場所を知っていた。
「あそこに赤い橋があるわね」
「はい。公園内にある橋ですね」
「そこに夜中の一時位に来て。これはとても重要なことだから、ご家族の人とかに絶対にバレないように注意してね」
「わかりました」
女子生徒の声は少し震えていた。
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