第四十二話 救出編㊷

 一通り、サイトを見終えると、私はノートパソコンの電源を落とした。ノートパソコンを閉じる。

 私は椅子の背もたれに体重を預けた。

(女子生徒のいじめは終わった。しかし、モミカさんのブログに更新はなかった。モミカさんの母親は進展があったらブログを書く、と宣言していた。さっきも考えたように、単純に忙しくてブログの更新どころではないのかもしれない)

 私の思考はNONAMEに及んだ。

(女子生徒の〈コメント〉に『死ね』と書き込んだNONAMEはいなくなった。恐らく、サイトを退会したのだろう。NONAMEはウィルキンさんだ。つまりは高田たかださんだ。高田さんは今日、学校を休んだ)

 そこまで考えが及んだ時、私は再び、ノートパソコンに手を伸ばした。

(何をやってるんだ。私は)

 私は急いでノートパソコンの電源を再び入れた。ノートパソコンが起動する。

 私は先程と全く同じ動作でサイトにログインした。

 私は〈フレンドを探す〉という機能を再び使った。「ウィルキン」と入力する。

 画面が切り替わる。

(やっぱり)

 私は吐息をした。

 ノートパソコンのディスプレイには先程見たものと同じ画面が現れた。

『この利用者は退会されたか、すでに存在しないユーザーです』

 ウィルキンさんこと高田 敦子あつこさんはサイトからアカウントを消したのだ。それがいつかはわからない。

(金曜日。〈カフェ10代〉で高田さんは全てを吐き出すようにチャットをした。そして、『このサイトを退会して、しばらく学校を休もうと思う』というような発言をした)

 私はサイトのマスコットキャラクターが泣いているのを漠然と見つめた。

(高田さんは金曜日にチャットで話したことを実現させた。サイトからアカウントを消し、学校も休んだ。女子生徒にとって、このことは良いことなのだろうか?)

 勿論もちろん、リアルとネットでいじめがなくなったことは喜ぶべきことだろう。しかし、モミカさんの進展がわからない以上、私も次の行動に移ることができない。

(次の行動。つまりは、私を橋から突き落とすか、そうしないかの選択肢を女子生徒は選ばなくてはならない。それが大切な人の命を救う最後の順番なのだ)

 私はふと、気が付くことがあった。

(ザイルってどうやって結ぶんだ?)

 私はこれまで山登りをしたことがなかった。当然、登山用のザイルなど使用したことはない。

 私はインターネットエクスプローラーで新しいウィンドウを開いた。ヤフージャパンのページが現れる。

 私は検索ボックスに、「ザイル 結び方」と入力した。検索結果がずらずらと画面上に現れる。文章に絵柄の解説が付き、その絵で結び方を解説している。

(駄目だ。今の私にはこれは難しすぎる)

 私は検索語を変えることにした。

「ザイル 結び方 初心者」

 と、打ち込む。

 が、それでも文章と絵だけでは伝えきれないものがある。

 私はマウスを動かすと、「動画」というアイコンをクリックした。こもまた、沢山の動画が画面いっぱいに表示された。

 私はその中で最も再生回数の多い動画を選んだ。その動画では、もやい結びなるザイルの結び方が紹介されていた。

 私は椅子から立ち上がった。クローゼットにしまってあるザイルを取り出す。

 私はザイルを手にし、再び椅子に座った。

 それから、私はノートパソコンで、インターネットでのもやい結びの手本をもとにザイルと格闘した。想像していた以上にザイルの縄は硬かった。縄が太く、なかなか綺麗に、そして頑丈に結ぶことができない。

 十回程、練習した後、私は手を止めた。

(前任者の美少女もこんな苦労をしたのかな?)

 ふと、そんな疑問が浮かんだ。

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