第四十話 救出編㊵
雨上がりで水溜りがある道路を、私はスマートフォンを耳に当てながら歩いた。
スマートフォンから聞こえる女子生徒の声は変わらず明るい。
「あたし、今日、ちゃんと学校へ行って良かったです。本当は土、日と休みの間、心配してたんです。学校へは必ず行かなくてはいけない。でも、いじめは続いてる可能性が高いだろうって考えてたんです。でも、今日はいじめがなかったんです。本当に良かったです」
「
「え?」
「高田さんはいたの?」
女子生徒の声が急に沈痛なものになる。
「それが、いなかったんです」
「いなかった?」
「はい。どうも今日は学校を休んだみたいです」
「じゃあ、どうやって、いじめを止める工作をしたのかしらね?」
少しの間があって、女子生徒の声がスマートフォンから聞こえた。
「たぶんの話なんですけど、LINEのグループってあるじゃないですか」
「ええ、あるわね」
スマートフォン向けアプリのLINEにそういう機能があることは知っていた。が、私はグループの機能を一度も利用をしたことがなかった。
「どうも、高田さんを中心にしたLINEのグループがあるらしく、それを使って、一斉に、『いじめを
「でも、それで説明がつくわね。前日は日曜日で学校が休みだった。当日の今日はいじめの元となった高田さんがいなかった。ならば、LINEで連絡をし、いじめを
「いじめが終わったことはいいんですが、あたし、怖いことが一つあるんです」
「急に周りがあなたをちやほやしたこと?」
私は自分が起きたことを思い出していた。
私のいじめは終わると同時に、急に周りが私と親しくしだした。私は十人程度、友達と呼べる人がいる。が、いじめが終わった直後は、その友達と呼ぶ人物以外も私に急に声をかけてきたりした。
内容は何でも良かった。
「英語の予習を見せようか?」
「今、テレビ、何を観てるの?」
「一緒にお手洗い行こ」
などなど。
私はこれからの言葉を聞いて、背筋が寒くなった。つい、この間まで私を見て、クスクス笑ったり、犯人はわからないが机に
始めは本当に寒気がした。
しかし、女子生徒が口にした「怖いこと」とは、私が経験したことではなかった。
女子生徒は言う。
「これから先、高田さんはどうなるんでしょう?」
「どうなるって?」
「いじめの中心は高田さんですよね。でも、いじめの中心だった高田さんは今日、学校を休みました。これって怖いことじゃないですか?」
「どこが?」
私は女子生徒が言わんとすることを計りかねた。
「これはあたしの憶測なんですが、これから先、高田さんがいじめのターゲットになることはないですかね?」
「……」
私はスマートフォンを右手で持ったまま、黙った。
(その可能性はある。いじめの首謀者が、次のいじめの標的にされることはあり得ないことではない)
私は小学校時代のことを思い出していた。
それは小学校五年生の時の話だった。クラスで明るく、
その男子の周りには、他の男子は
しかし、ある日を
周囲の児童達もその男子に話しかけることは一切なくなってしまった。
私はその男子と特に親しかったわけではなかった。が、人気のあった人間が急に一人になる姿を見て、
小学校の頃を思い出し、私は確信を持てないことを素直に告げた。
「これから先、高田さんがどうなるか、私にもわからないわね。高田さんが学校へ戻ってきて、いじめに
「そうですか」
「でも、高田さんがクラスから
(日数が私に比べて、圧倒的に短いけど)
と思ったが、伝えないことにした。
私は私が取るべき行動を取って父を救った。
ならば、女子生徒も女子生徒が取るべき行動を取って、モミカさんを救うべきだ。
私が歩道を歩いていていると、目の前に小さな水溜りが見えた。
私は肥満した身体を宙に浮かせると、水溜りを飛び越えた。
今日の私の身体は、気のせいか軽く感じた。
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