第三十九話 救出編㊴
「これからどうなるんでしょう?」
「どうなるって?」
「
「そうね」
「明日、
私は即答した。
「いつも通りでいいんじゃない?」
「いつも通り」
「そ、余計なことは考えず、いつも通りの土日を過ごすの」
「月曜日には何かが変わっているでしょうか?」
私は正直に言う。
「わからない。引き続き、いじめが続くかもしれないし、高田さんが心を入れ替えていじめをやめてくれるかもしれない。もっとも、高田さんがいじめをやめても、周囲がいじめ続ける可能性はあるけどね」
「ですよね」
「だから、考えても無駄なの。やるだけのことはやったわ。聞くだけのことも聞けた。後は高田さんがリアルでどうでるかね。それは私もわからない。だから、普段通りに過ごせばいいと思う」
「そういうことになりますか。気分転換に映画でも行こうかな」
「そうするといいわ。好きなことをして、好きに過ごせばいい」
「わかりました」
女子生徒はどこか吹っ切りれた調子で言った。
「こんな時間ですね。あたしも寝ます。明日は映画でも観に行きます。何の映画が公開されてるか、わかりませんが」
「それがいいわ。楽しい週末を」
「はい。ありがとうございました」
そう言うと、スマートフォンが切れた。
私も疲れていたので、スマートフォンから手を離すと、中学の頃のジャージに着替えた。そのまま、ベッドに潜り込み、私は眠りについてしまった。
翌日。
私はお昼の十二時過ぎに起きた。
一階に降りると、母がソファーに座ってテレビを観ていた。
「おはよう」
私が母に声をかけると、母が視線をテレビから私に移した。
「今、何時だと思ってるの。『おはよう』の時間はとっくに過ぎてるわよ」
「じゃあ、こんにちは」
母は溜息をついて、キッチンを指差した。
「あんたの席に朝食と昼食があるから、いっぺんに食べちゃいなさい」
「わかった」
私が食卓につくと、いつも通りのサラダとベーコンエッグ、パサパサになった食パン、冷たくなったコーヒー、それにカップラーメンの豚骨味が置いてあった。
私はソファーに座ってテレビを観続けている母に向かって言う。
「お昼って、カップラーメンじゃない」
「そうよ。何か文句ある?」
「ない」
私は即答すると、カップラーメンにかやくを入れ、お湯を注いだ。キッチンに置いてあるタイマーを三分に合わせる。
三分の間に私はコーヒーのマグカップをレンジに入れると温め直した。
それから、私はいつもの朝食とカップラーメンを素早く食べた。
(女子生徒は今頃、映画を観ているのかな?)
カップラーメンの汁を
それから、私は怠惰な一日を過ごした。食事を終えると、自室にこもり、漫画を読んだり、スマートフォンのアプリで遊んだ。
時折、女子生徒の事が頭をよぎったが前ほど気にはならなかった。
(なるようになれ、だ)
そんなふうに考えることができるようになっていた。
日曜日。
この日も私は前日と同じように過ごした。
月曜日。
雨が降っていた。
私は傘を差して家を出、学校へと向かった。
放課後。
私のスマートフォンが
雨はあがっており、私は右手に鞄を、左手に傘を持っていた。私は鞄と傘を左手に持つと、右手でスマートフォンを鞄から引き出した。
スマートフォンの通話のボタンを押す。
「もしもし」
「もしもし。あたしですけど。今、いいですか?」
「いいわよ」
私は鞄の取っ手と傘を重ねるように持ちながら、右手のスマートフォンに力を入れた。
(何か動きがあったのか)
そう思う。
スマートフォンからは女子生徒の明るい声が聞こえた。
「
「それは良かったわね」
私は
「朝、学校へ行くと、あたしの周りにワーと人が集まってきたんです。商業ですから、女子がほとんどなんですけどね。それで、皆が言うんです。『いじめみたいなことをして悪かった。半分、遊び感覚だった。もう、これからはあんなことをしないから、許して欲しい。本当に、ごめん』って」
「どう感じた?」
「嬉しさはありました。でも、それよりも、ちょっと複雑な気分になりましたね」
「戸惑い?」
「そんな感情です。嬉しかったことは嬉しかったんですが、いじめからいきなり、クラスの主役みたいなふうになったのは、変な気分でした」
「もしかして、周りの人間が今日、一日、あなたを中心に動いていた、とか?」
「そんな感じです」
私はスマートフォン越しに女子生徒に聞こえないように溜息をした。
(私の時とまるで同じだ。突如、いじめが始まり、突如、いじめが終わる。しかも、いじめが終わった後、まるで私を祭り上げるかのように周囲が動く。動揺しないわけがない)
しかし、私と違って、女子生徒の声は晴れやかなものだった。
「午前中の時間は複雑な感情が
私のいじめが
(でも、そんなふうに感じるのは私の根性が曲がっているからかもしれない。女子生徒はいじめが終わったことを素直に喜んでいる)
私は自分の性格と女子生徒の性格を比較し、少々、落ち込んだ。
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