第三十四話 救出編㉞
私の代わりと言っては語弊があるが、NISHIさんが発言をした。
NISHI:つまり、ウィルキン君はネナベだったということっすね
ウィルキン:そうだな。否定しない
私は「ネナベ」という意味がわからなかった。
私は自分の最高速度でキーボードを打つ。
スズカ:ネナベってなんですか?
くくさんが即座に答えた。
くく:ネット上で女性が男性を演じること
くく:普通はネカマが多いんだけどね
スズカ:ネカマですか?
くく:ネット上で男が女性を演じることね
くく:ネットのオカマ
くく:だから、略して「ネカマ」ってわけ
くく:ネットのオナベ
くく:これも、略して「ネナベ」ってわけ
スズカ:すみません。こんな簡単なことも知らずに
くく:気にする必要はないわ
くく:どちらもネットのスラングだからね
くく:それにしても、ネットはネット、リアルはリアルって
くく:分けて考える理由もわかるわね
くく:性別が違ったら、話がチンプンカンプンになるもの
ネナベの話が終わると、アヤメ、つまりは女子生徒が質問した。
アヤメ:私のマイページに、死ねって書いたのもウィルキン君なの?
ウィルキン:否定はしない
くく:ウィルキン君、そんなこともしたの?
ウィルキン:俺はアヤメを許せなかったんだ
ウィルキン:だから、別垢作って、書き込みをした
またしても、意味のわからない単語が出てきた。
(『別垢』って何だ?)
私は質問をするタイミングを逃した。
NISHI:別垢まで作って書き込みをしたんっすか
NISHI:それはいくらなんでも、やりすぎっすよ…
ウィルキン:それほど、アヤメが憎かったんだ
アヤメ:もう一つ質問をしていい?
ウィルキン:どうぞ。もう、何でも答える
アヤメ:ウィルキン君はリアルでも、私に危害を加えるようなことをした?
ウィルキン:した
ウィルキン:俺の取り巻きを使って、アヤメをいじめるように仕向けた
くく:どういうこと?
アヤメ:さっきも話したけど、ウィルキン君はクラスで人気なの
アヤメ:彼、じゃない、彼女が号令をかければ、皆が動く
くく:つまり、リアルでアヤメさんにいじめが発生するように
くく:小細工をしたってことね
くく:ネットはネット、リアルはリアル、じゃなかったの?
ウィルキン:だから、今回の場合は違うって
NISHI:それでも、いじめはやりすぎっすよ
ウィルキン:俺も卑怯だとわかってた
ウィルキン:わかっていながら、止められなかった
ウィルキン:アヤメのマイページに死ねって書いた件も含めてな
くく:ウィルキン君、もう、やめなよ
くく:あなたが性別を越えて
くく:アヤメさんを好きになってしまったことは仕方ない
くく:でも、それで、ネットで死ねと発言したり
くく:リアルでいじめるのはいけないよ
くく:それに、アヤメさんを好きになってしまったのは
くく:偶然かもしれないよ
くく:よくあるでしょ? 女子が女子に憧れるって
くく:宝塚とかだって好きな人は女性ばかりだし
ウィルキン:そうじゃないんだ
ウィルキン:全然、そうじゃないんだ
ウィルキン:俺、初恋が小5の時だった
ウィルキン:で、相手が女子だった
ウィルキン:当然、周りにそんなことが言えるわけがなくて
ウィルキン:苦しかった
ウィルキン:中学になった時も好きな人がいた
ウィルキン:それも女子だった
ウィルキン:それから、中学にあがったとき、嫌なことがあった
ウィルキン:今もそうだけど、スカートが嫌い
ウィルキン:小学校のときはいつも、ズボンをはいてた
ウィルキン:お母さんにスカートを買ってもらったりしてたけど
ウィルキン:ほとんど、はいたことがなかった
ウィルキン:何か、スースーして気持ち悪かった
ウィルキン:それから、胸がふくらむのも嫌だった
ウィルキン:年齢が上がるに連れて、体が女になるのが
ウィルキン:すごく嫌だった
NISHI:それって、やっぱり性同一性障害じゃないっすか
ウィルキン:俺自身もそう思う
ウィルキン:だから、ネット上とは言え、このカフェ10代で
ウィルキン:俺っていう一人称が使えて、すごく嬉しかった
ウィルキン:本当の俺自身になれた感じがした
ウィルキン:学校での俺は綺麗な女子を演じてる感じだった
ウィルキン:それは、メチャクチャ疲れることだった
ウィルキンさんこと、高田敦子さんは連々と自分の思いをネット上に吐露していくのだった。
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