第三十二話 救出編㉜
私の驚きとは正反対に机上のノートパソコンは内蔵されているファンを静かに鳴らせている。
(ウィルキンさんが女子生徒に告った張本人なのか? 嘘だろう)
私の頭の中はパニックになりそうだった。
ウィルキンさんが発言をする。
ウィルキン:実は俺、女なんだ。
誰も反応しない。と、言うよりも反応できないといったほうが正解だろう。
しばらく時間が経って、ようやく、くくさんの頭上に
くく:それってつまり、性別を偽っていたってこと?
ウィルキン:そうだよ。俺、本当は女
ウィルキン:身体はね
くく:身体は?
くく:どういう意味?
ウィルキン:それも文字通りだよ。俺の身体は女なんだ
くく:それも意味がわからない
ウィルキン:俺自身もよくわからないけど、
ウィルキン:俺、男なのかもしれない
くく:ますます、わけがわからないよ
スーツ姿のNISHIさんが発現する。
NISHI:それって性同一性障害ってこと?
くく:何、それ?
NISHI:自分もよくは知らないっすけど、身体と心の性が合わない人が
NISHI:いるそっす
NISHI:そういう人を性同一性障害ってテレビで見たような記憶があるっす
くく:せいどういつせい障害でいいの?
NISHI:はい。たぶん、それであってると思うっす
くく:じゃあ、ウィルキン君は女の子なの?
NISHI:さぁ、自分にはもう何が何やら…
ウィルキン:俺の戸籍上の性は女だよ
ウィルキン:でも、俺は女じゃないような気がするんだ
くく:ずっと、チャットしてて、男の発言のようにしか
くく:聞こえないけど
ウィルキン:くくさんもそう思うだろう?
ウィルキン:俺も俺自身のことをそう思う
ウィルキン:でも、俺はこうして男としてチャットを
ウィルキン:している時が一番自分らしいと思う
ウィルキン:それに、好きになる人が、皆、女なんだ
くく:その女の人ってまさか…
ウィルキン:そのまさかだよ
アヤメ:私?
アヤメ:あの、私はネットはネット、リアルはリアルって
アヤメ:考える人間だけど、
アヤメ:ウィルキンさんの名前、言ってもいい?
ウィルキン:もう、いいよ
ウィルキン:どうぞ
私はチャットの速度について行けず、画面を凝視したままだった。
アヤメ:ウィルキンさんって高田さん?
ウィルキン:そう。俺の名前は高田
ウィルキン:高田敦子ってのが俺の本名。平仮名にすると、たかだ あつこ だな。
NISHI:わわわ、えーと、やっぱり、俺の思った通り、
NISHI:ウィルキンさんは女の人で、
NISHI:でも、ここでは男の人で
NISHI:えーと、なんて呼べばいいの?
ウィルキン:今までいいよ
ウィルキン:俺はこのままでいくから
くく:じゃあ、アヤメさんが振ったというのは
くく:ウィルキン君を振ったということなの
ウィルキン:そうだよ
ウィルキン:だから、俺はアヤメが嫌いなんだ
くく:そりゃあ、同性から告られたら振られるに決まってるじゃん
くく:その前に、ウィルキン君はいつからアヤメさんと
くく:リアルで知り合ってたとわかったの?
くく:その前に、二人の関係は何なの?
これにはアヤメさんこと女子生徒が反応した。
アヤメ:私は高田さんと同級生なんです
アヤメ:同じ商業高校で同じクラスなんです
くく:そこまで個人情報、言わなくていいのに
アヤメ:いえ、もうここまできたからには言います
アヤメ:私の断り方も悪かったと思います
アヤメ:だから、高田さんも怒ったんでしょう
ウィルキン:俺はもうアヤメのことが嫌いで仕方ない
ウィルキン:この場で言う
ウィルキン:クラスでいじめをしかけたのも、俺
くく:ちょっと待って。ウィルキン君は
くく:じゃない、ウィルキンさんはいつからアヤメさんが
くく:リアルで顔見知りだってわかったの?
くくさんが私が抱いたものと同じ疑問をウィルキンさん、いや、高田敦子さんにぶつけた。
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