第三十話 救出編㉚

 その日の授業は前にも増して気が入っていなかった。

 昼食の時に友人と交わすたわいない会話も耳に入らない。

 帰宅後。

 私は幼児向けの番組をただ観た。本当に観ているだけで、何も考えていなかった。

 それから夕食をり、入浴した。入浴が終わると、父が帰って来たところだった。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 と、だけ挨拶あいさつをすると、私は自室に向かった。別に父を避けたわけではない。やりたいことがひらめいたのだ。

 部屋に入り、私は机に向かうと、ノートパソコンを立ち上げた。

(私一人でも、〈カフェ10代〉とやらに行ってみようかな)

 そう思ったのである。

 私はインターネットエクスプローラのアイコンをクリックした。ヤフージャパンのサイトがスタートページとして現れる。

 検索ボックスにサイト名を入れる。

 画面の一番上にサイトが現れた。私はサイトの名前をクリックした。

 ログイン画面が出ずに、即座に私のアバターと部屋が現れた。ハンドルネームもパスワードも入力していない。

 どうやら、自動的にログインができるようになってしまっているようだ。

 私は〈フレンドを探す〉というボックスに「モミカ」と打ち込んだ。モミカさんの部屋に私のアバターが飛ぶ。

 私は〈ブログ〉と表示されたアイコンをクリックした。モミカさんのブログが現れる。

 モミカさんのブログは以前、母親が書いたとされるものが最上段にあった。

(ブログの更新はされてないのか)

 私はモミカさんのページから、自分のマイページに戻った。アバターが自分の部屋に戻る。

(もしかしたら、モミカさんのお母さんが何か新情報を書いてるかもしれないと思ったんだけどな)

 次に、私は〈ワイワイ広場〉に行くことにした。目指すは〈カフェ10代〉だ。

 私はマウスに添えた右手が少々汗ばんでいるのを感じた。緊張しているのだ。

(一人でカフェに行くのは初めてだ)

 私は〈ワイワイ広場〉に行くと、アバターを動かした。コーヒーカップのマークをクリックし、〈カフェ10代〉を選択する。

 私のアバターが〈カフェ10代〉に入った。

 〈カフェ10代〉にはすでに三人のアバターがいた。

 くくさん、ウィルキンさん、それからNISHIさんというスーツ姿のアバターがいる。

 くくさん、NISHIさんはカウンター席に座っている。

 一方、ウィルキンさんはくくさん達から少し離れたテーブル席に、例の侍の格好で腰を落としていた。


くく:こんばんは

ウィルキン:こんばんわ

NISHI:初めまして。こんばんは


 私も挨拶をする。


スズカ:こんばんは


 ウィルキンさんには近寄りがたいので、私は、何となく、くくさんがいるカウンター席にアバターを座らせる。


くく:あれ、今日は一人?

スズカ:はい、今日は一人でログインしてみました

くく:今日はアヤメさんが一緒じゃないのね

スズカ:あまり慣れていないですが

くく:最初はみんなそうよ

くく:ね? ニシ君

NISHI:なんで自分にふりますかねw

くく:なんとなく


 くくさんとNISHIさんが会話をしている間、ウィルキンさんは何も語らなかった。


(ここは単刀直入にウィルキンさんに聞いてもいいのかな?)

 私は迷った。その間、私は発言をせず、くくさんとNISHIさんが話をしている。


NISHI:それで自分は言ったわけっす

NISHI:自分が一番っす!ってねw

くく:単なる自慢じゃない


 私は決意して、発言することにした。


スズカ:昨日、何かありました?

くく:昨日って?

スズカ:実は、アヤメさんから、ちょっとここの話を聞きまして

くく:ああ、あれね

くく:ウィルキン君、昨日、何であんなこと言ったの?

ウィルキン:俺はあいつ、嫌い

くく:あいつって、アヤメさんのこと?

ウィルキン:ほかにだれがいるの

くく:でも、昨日のあれはないでしょう

くく:いくら、前の日のことは引きずらないようにしよう

くく:って約束があるにしても、あれはやっぱりひどいよ


 くくさんの打ち込みは早い。私が話に割って入る暇がない。


ウィルキン:昨日も言ったように、俺はアヤメが嫌いなんだよ

くく:理由は?

ウィルキン:だから、理由なんてどうでもいいんだよ

ウィルキン:嫌いなものは嫌いなだけ

くく:それまで、あんなに仲良くしてたじゃない

くく:それがどうして、あんなふうになっちゃうわけ?

くく:せめて理由を言ってよ


 しばしの


ウィルキン:理由なんて特にない。嫌いなものは嫌いなだけ


 私はなんとか発言しようと試みた。


スズカ:ウィルキンさんはアヤメさんが嫌いなんですよね?

ウィルキン:そうだね

スズカ:それって私と関係あります?

ウィルキン:ない

スズカ:私が来た後に、アヤメさんのことを

ウィルキン:俺はアヤメが嫌いなだけ

スズカ:嫌いになったから、私が原因かと


 私が入力する前にウィルキンさんが発言する。チャットに慣れていない私は不利だ。


ウィルキン:別にスズカさんが嫌いだから

ウィルキン:アヤメを嫌いになったわけじゃない


 くくさんが私とウィルキンさんの会話に入り込む。


くく:じゃあ、どうしてあんこと言うのよ


 くくさんがそう発言した時、華美なドレスを着たアバターが現れた。

 アバターの上部には「アヤメ」と表示されていた。

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