第十四話 救出編⑭

 私はスマートフォンを左手に持ったまま、右手でマウスを操り、自分のアバターをテーブル席に座るドレスを着た女の子のアバターに近寄らせた。

 キラキラのドレスを着たアバターから吹き出しが出る。

『もう、スマホは切ってもいいですよ。ここからはチャット形式でいきましょう』

 私はスマートフォンに向って言った。

「わかった。じゃあ、通話を終えるわね」

 私はスマートフォンの終話のアイコンを押した。

 画面上のドレスを着た女の子が文字を吐き出す。

『ここで六ヶ月位前にモミカさんと知り合ったんです』

 五秒程すると、女の子から出てきた吹き出しが消えてしまった。

(しまった。アバターの操作方法を聞いてない)

 私は再度、スマートフォンを手にすると、女子生徒に電話をした。

「ごめんなさい。アバターにしゃべらせる方法が全くわからない」

 女子生徒がスマートフォン越しに言う。

「すみません。謝るのはこちらです。もしかして、チャットとかは初めてですか?」

「スマホで友達とメールのやり取りをしたりはするけど、ネットのチャットはあまり経験がないわね」

「そうですか。じゃあ、基本的なことだけ教えますね」

 それから、私は女子生徒からこのサイトのチャットの仕方を学んだ。

 おしゃべりをしたいときは、画面左下にある欄に文字を入力して、エンターを押すと、アバターから台詞せりふが吹き出ること。

 アバターが発した言葉は五秒で消えてしまうので、台詞を入れる欄のすぐ隣りにある〈履歴〉というアイコンを押すと、過去に発言された言葉が十行程掲載されるので、それを読めば良いとのこと。

 他にも頭の上にハートマークやクエスチョンマークなどが表示できることを習った。

 今の私にはチャットができることで充分である。今は他の機能はいらない。

 十分程度、女子生徒からチャットの指導を受けると、再び、スマートフォンを終話した。

 ノートパソコンのキーボードに左右の手を乗せる。

(中学の時、パソコンの授業があったもんな。その時、ある程度、文字入力の基礎は習った)

 私はドレスを着た女子生徒のアバターの隣で試しに打ち込んでみた。

 テスト

 私のアバターの頭上に吹き出しと共に言葉が乗る。

『テスト』

 隣の女子生徒のアバターの頭上に

『888888』

 と何故か「8」というアラビア数字が並んだ。

(意味がわからん)

 私は無視をして、打ち込みを続けた。

『ここでモミカさんと会ったの?』

『はい。さっきも話しましたけど、六ヶ月くらい前のことです』

 女子生徒のアバターの文字は五秒で消えてしまうため、私は文字入力をする欄の隣にある〈履歴〉というアイコンをクリックした。

 女子生徒の言う通り、左隅に過去にやり取りされた会話文が残されている。


スズカ:テスト

アヤメ:888888

スズカ:はい。前も話しましたけど、六ヶ月くらい前のことです


(これくらいの速度なら、私もチャットで会話ができそうだな)

 と、思った時だった。履歴に新たに文字が表示された。


ウィルキン:初めまして。スズカさんって呼べばいいのかな? 

ウィルキン:俺、ウィルキンって言います。ヨロ~

くく:久しぶりの新人ね。時間を浪費するネトゲに飽きちゃった?


 私はあわてて、挨拶あいさつの文章を打ち込んだ。


スズカ:こんばんは。初めまして。スズカと言います

ウィルキン:こちらこそ、初めまして

ウィルキン:何だか清々しい名前だね。性格もさっぱりしてる方?

くく:名前で人の性格を決めつけるのはやめなって

アヤメ:実は、この人、モミカさんと関係がある人なの

くく:いつも言ってるでしょう?

くく:え、どういうこと?


 チャット形式なので、会話文が前後する。

 私は少々、混乱した。


くく:モミカさんって、お母様がブログに、事故にったって書いた人のこと?

ウィルキン:そんなのあてにならない

ウィルキン:サイトを退会したくて適当にでっち上げたかもしれないぞ

アヤメ:そう、お母様がブログに『モミカのフレンドの方へ』って書いた件で

アヤメ:重要な人なの

ウィルキン:悪い、俺パス

くく:どういう繋がりがあるの? 親戚とか?

アヤメ:ウィルキン君はどうして、協力してくれないの?

くく:私にできることある?

ウィルキン:俺、ネットとリアルは分けて考えるタイプの人間なんだ

ウィルキン:だから、ネットでいつも馬鹿話してる奴が死にそうになっても、

ウィルキン:俺は何もしない


 私はただ、三人がチャットをする様子を眺めていることしかできなかった。

 チャットのスピードについていけない、というのもあったし、何より、彼らがネットに対してしっかりとしたスタンスを持っていることに驚いたからだった。

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