第五話 救出編⑤
三月になってしまった。
女子生徒からの連絡は一向にない。
日付にすれば、女子生徒と接触して二日目。月が変わってしまったせいか、彼女からの連絡が遠く感じられた。
(
私は自身に言い聞かせる。
(
私は普段通りに高校へ通い、普段通りに生活するように心がけた。前任者の美少女もそのような雰囲気を持っていたからだ。
(私が焦っていたら、きっと女子生徒は不安な気持ちになるだろう。私は彼女を導く者として、しっかりとしなくてはいけないんだ)
しかし、私の行動は思考通りにいかない。
その日、私は仲の良い友達たちと昼食を共にしていた。もう、前のようにいじめられたり、妙に気を使って私を持ち上げることもない。
いじめも、私をおだてるような言動もない。
その日、私は
本屋と言っても活字の本を買うわけではない。漫画を買うのだ。主人公が女子高生の漫画で恋愛ものである。どこにでも転がっていそうな、ありきたりなストーリーかもしれないが、中学の時から読んでおり、コミックが発売されると惰性で買っていた。
私はふと思い出したことがあった。
(そういえば、図書室の司書の先生にお金を返してない。財布にはお金があるし、返してこよう)
私は昼食のお弁当を食べ終えると、席を立った。お弁当箱を鞄に入れる代わりに、財布を取り出す。
「どこか行くの?」
一人の女子が聞いた。
「うん。ちょっと。図書室へ」
「へぇ、そうなんだ」
以前のように周りの女子生徒は私と一緒に図書室へと行くとは言わなかった。それが当たり前のようで、私は何だかホッとした。
教室から図書室へ行くと、司書の先生がカウンターの奥の部屋でおにぎりを食べていた。
(また、おにぎりを食べてる。よっぽど、おにぎりが好きなんだな)
私は内心で
私はカウンター越しに司書の先生に声をかけた。
「あの、すみません」
司書の先生がおにぎりから手を離すと、私を見た。
「何だい?」
「お金を返しに来ました」
「お金?」
司書の先生は何を言っているのかわからない、という表情を作った。
「以前、先生に千円を借りました。私がお弁当を持ってこなかった日です。その時の千円をまだ返してないんです」
司書の先生は、
「ああ、そういえばそうだったね」
と、
私はポケットにしまった財布から千円札を取り出した。
「ありがとうございました。おかげで、昼食を
司書の先生が苦笑いをする。
「そんな律儀に返さなくてもいいのに。僕は人にお金を貸したら、返ってこないものと決めてるからね。後でグチグチと問題になるのも嫌だし」
「じゃあ、受け取ってくれないんですか?」
「いや、返されたお金は受け取るよ。これで、おいしいおにぎりがまた食べられる」
司書の先生はおにぎりがよほど好きらしい。
「ところで、先生。例の裏掲示板で私の評判ってどうなってます?」
司書の先生は千円札を受け取ると、苦笑した。
「いつも通りに戻ってるよ。教師の悪口。テストの結果の報告。部活動の連絡、などなど。ただ、一点だけ変わったことがあるね」
「何ですか?」
「君に対する暴言がなくなった。むしろ、君を丁重に扱おう、というコメントが多くなったね」
「それって、
「そうだね。彼のお陰だね。ネットで実名を
「桐生君、大丈夫でしょうか?」
司書の先生は顔をしかめた。
「大丈夫、だとは思うけど。実は、先生も桐生君の書き込みを見て、危ないと思ったんだ。だから、教員室で桐生君の担任にこのことを報告したんだ」
「そんなことがあったんですか」
「うん。一応、先生も一人の教師だからね。生徒が過ちを犯したりしたら、それを食い止めるのが役目だと思ってるよ」
私は頭髪の薄い、司書の先生に感謝した。
(私はツイてる。こんなにも親身になってくれる教師はなかなかいないだろう)
そして、同時に思うのだった。
(だからこそ、女子生徒の身の回りで起きる不幸を断ち切らなければならない)
と。
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