第一話

見ざる聞かざる言わざるなんて出来るわけない第五話

 ご近所にあったカッフェ(めっちゃおしゃれな喫茶店)でお茶をすることになって,私はメロンクリームソーダでメグサワはナポリタンとコーヒーを頼んで、なんかすこし落ち着いちゃったんだけど、ナポリタンの味の感想(これこれこの味の濃さとぎとっとした感じ、たまらんとかそういう)の合間合間に差し挟まれる先ほどの行動についての話が進むにつれ、徐々に徐々に体の震えが増していった。メロンクリームソーダのせいではない、断じて。

 曰くラブテスターは本当にただの端末で、それ単体で運用するうえでは何の問題もないらしい。だからいじっても面白くなかったらしいんだけど、どうやら神々のアーカイブらしき場所に直でつながってたみたいで、手元にいい具合にデバイスがあったから(魔法美少女御用達のUSBキーボード)辿ってみたらセキュリティとか一切なくて、本当に簡単にアクセスできてしまったらしい。さて翻訳して覗いてみようとしたらありとあらゆる言語用の選択バーみたいなものも出てきて至れり尽くせりでいやーああいう機能はさっさと下界にぶん投げておいてほしいよね火を与えるとか悠長なことしないでさと脱線した後、割と簡単に書いたり消したりできることに気づいたとのこと。話が進むごとに頭も痛くなっていったんだけど、そりゃ神様と天使しかアクセスしないんだから別にセキュリティとかいらないよねみんないい人だもんっていう簡単なことに気づいてしまってまだまだ天使に慣れてないな自分、三日目だもんなってなる。そう、三日目なのだ。三日目なのに、なんかこんなことになってメロンクリームソーダを飲んでる。それで、できることならやってみようと試しに自分の運命を覗いてみたら気にくわなかったから消したんだと。だってありえなくない?とか同意求められるけど、メグサワの行動のどこに同意してもダメな気がするからそうですねって軽く流す。そこまでは分かったって事にして、肝心の日高くんについて聞く。

「なんで日高くんの運命までいじろうとしたんですか?」

思ってたよりもド直球な言葉が自分の口から出てきて、言ったそばからうーわだめだめ何言ってんの私って内心あわあわしてたんだけど、「ん?消したよ、でも消えなかったんだよね」って返答で脳裏に疑問符と感嘆符が乱舞して、でもこれがメグサワなんだろうなって納得もあるから、やっぱりなんかすごいんだろうなこの人。

「多分ね、必要なんだよね、あいつ、この世界の運命に、それか、未来に」

 神妙な面持ちで珍妙なことを言って、口元はナポリタンでケチャップ色で、あーはいはいそうですねって流そうとして、引っかかる。

「あの、必要だったら消せないってことは、じゃあメグサワさんが消せたのって、なんでなんですか」

「この世界の未来に私はいらないってこと。多分それだけ」

 メグサワはさらっとそれだけ言って、うっわ思ったよりもよごれてらってスマホのカメラで確認しながら口元を拭き始めたんだけど、これはどうなんだろう、流した方が良いことなんだろうか、触れた方がいいやつなのか。でもでもデリケートな話題じゃない?デリケートどころか気にする人は気にしちゃうことだし、将来自伝を書きたいとか言い出すような人は絶対心が死ぬと思う。世界から要らないんだよって。あれでも自分で消したんだから、問題は無い?自己責任?いやでもどうなのそれってどうなの?出会ったばっかの相手の運命で悶々してたら、頬っぺたに冷やっこいものが触って、うひゃってなって見たらメグサワがこっち睨んでた。ええぇ、何かお気に召さないことしたかな?やっぱりこう、なんかねぎらっておいた方がよかったかな。

「なーんであんたが神妙な顔してんのさ。気にするしないは私の特権」

 いやーでも、なんて、言いかけてやめる。なんかメグサワの手のひら辺りで光球が形成されかけてる。場所を問わずに実力行使。さすが魔法少女。

 え、えへへって苦笑いしてみたら、メグサワもニヤって笑って、気付いたらなんかあははうふふ笑いをしてた。

「でもね、悪くないよ、正直、心配されるってのはさ」

 ちびりちびりコーヒーを飲みながら、しみじみって空気を醸し出すメグサワの姿は、なんだか貫禄があって、やはり日々の積み重ねが大事なのかなと思わなくはない天使三日目な私。

「あんたはさ、私みたいなのを好きになればよかったんだよ。苦労かけるけど、退屈させないよ?」

 大胆な告白は女の子の特権って言わんばかりの唐突なセリフに、思わず何言ってんだこいつって視線で返答しちゃう私。私も大胆だ。

「ま、あんなのに惚れたこと、せいぜい後悔しときなよ。絶対苦労するからさ」

 そういうとメグサワは伝票をもってレジへ行き、なんか私の分まで会計を済ませて颯爽と去っていった。かっこいい。でも私の恋とか日高君とかの諸々は本当に一切なんも解決してない。残されたのは私とクリームソーダとなんか変なペンダント。ん?なんか変なペンダント?テーブルの上に見知らぬペンダント。さっきまでなかった。見るとメグサワのものらしき手書きのメモが添付されていた。

”一回くらいは守ってあげよう。お姉さんからのプレゼント”の後に、”ラブテスターにはバックドア用意しておいたから、それを見るがよろしい”と、さらりととんでもないことが書かれてあって、本当に、これから私に何をさせようって話なんだろうねこれは。

 何をしていいかちょっと分からなくなった私は、気の抜けた緑色の砂糖水を飲み干し、喫茶店を後にして、ぶらぶらと歩きながら、用意されたバックドアから運命アーカイブへとアクセスした。一回自分の運命見るくらいなら、問題ないよね。

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