お目こぼしが身に染みる二話

 昨日まで現場で働いていた人間(現天使)をいきなり管理職に据えるとどうなるかなんてことは、性善説前提で生きてる(生きてるの?あれ)っぽい神様とかその辺りの有能な天使たちには分からないんだろうなぁって早速腐ってみてる天使二日目なんだけど、そういえば天使もどきで動いてた頃も別に指示とかなくて上からはリストしか渡してもらってなかったなってことを思い出した。いや、二日で忘れるほどじゃないんだけどさ、ほら、言葉の綾というか。

 まあ、それでいいのかそれだけでいいのかって思うけど実際自分もそれで何とかやってたし、結局ルート選択も時間配分も担当者の力量次第だし、下手に一人に指示とかしちゃったら結果受け持ってる天使もどき全員の面倒を見なきゃいけないっぽいし(確か他部署ではそういうことやってる天使がいるって聞いた)、それだったらアズサエルさん(新しい私の名前)としては自由放任主義というか困ったときだけ頼ってくれたまえ頼ってもらっても何ができるかわからんがねはっはっは、はぁぁ(ため息)っていう虚勢でも張ってないとやってらんない。

 でも実際渡されてた能力査定表に書かれていた備考というか、前任者の個々の天使もどきの能力への見積もりはもうほとんどその通りというか公式から出されたゲームの攻略本(ファミ通でない)に書かれてるやつってくらい設定に忠実って感じで、一番成績が悪いっぽい子に対しても、出来ないやつだけどこれくらいは出来るって書いてあった量を配分したら一日のおおよその目安分をきっちり綺麗に終わらせて帰ってきた。

 うわーすげーなんでこんなに仕事できる人が居なくなっちゃったんだろう、って思ったけど、こんだけ人を(人かな?)見る目があるすごい天使を上が見逃すわけがないわけで、多分後釜探しというか、なんとか後任人事困ってた時に私がやらかしてちょうどいいじゃんってなったっぽい。前々から話だけは出てたんだろうなって、綺麗に整理されて後任者に必要なものだけ残されてた部屋を見て思う。埃だってほとんど残ってないし、床にはちょっと日焼け痕があったけど(何か私物でも置いてたっぽい)、飛ぶ鳥跡を濁さずというかまあ天使なんだけど、その人の匂いみたいなものが残ってるのはもう本当に査定表とか書類関係だけ。これだけ綺麗に引き継がれちゃうとこっちとしては嬉しいやら戸惑うやら、これ新しい子一人入ってきただけでぐっちゃぐちゃになっちゃうんじゃないかなって不安にはなるけど、アズサエルさん後がないから泥船だろうが何だろうが泳ぎ切るしかないんですよね。泥船が壊れるのは織り込み済み。

 今日のところはデスクワークのみで、はいはいコレ見てこのリストが対象者でこれが今週の配置エリアだよ分からないことがあったらわかる範囲で答えるから聞いてねーって印刷した紙で渡したら、もうそそくさーっと出て行っちゃってハイ今日のお仕事しゅーりょーおつかれさまっしたーなんて、まあだいたいこの通りなんだけど、明日からのお仕事の準備がもう大変。渡されたラブテスターには要注意因果保持者の名前がわんさか入ってるみたいで、説明書には取扱注意って後から付け足す形で(赤い太めのマジックで)何か所も何か所も書いてあって、こういうところだけ妙に用心深いのに使い方は説明書で済ませるしかないんだなって、アズサエルさんの上にいる中間管理職殿の悲哀みたいなもんにも思いをはせちゃったり。

 明日からはラブテスターもって、特別警戒地区にばびゅんって朝一から出向く必要があるらしい。特別警戒地区って書かれてるけど、実際そんなに気負っても無駄になるんじゃないかなって気軽に構えていられるのは、前任者の業務日記に概要が描かれてあったからなのだ。マジで神(天使だけど)、愛してる前の人。アガペーアガペー。

 特別警戒地区には要注意因果保持者、危険因果保持者がもうかなり目いっぱい詰め込まれてるみたいで(頭空っぽじゃないとこんなことやらないんじゃないか)、それでも問題が起こらなかったっぽいのは、片割れだけをとことん集めて一括管理って形にしてたからみたい。入ってくる人間についてだけ入念にリストの候補者との関係を照合して、保持者についてはどうにかこうにかここに残ってもらえるように表裏問わず手を回して待遇改善して(そういう気概を天使もどきにも向けてほしい)、それでもどうしてもここじゃないどこかへ行こうとする人に対しては、あーそっかーもうどうしてもここから出たいのかぁじゃあ駄目って処分したりしなかったりするみたい。前任者は処分まではやってなかったっぽい。

 物は試しだお試しだって、昼の休みが終わったあたりでラブテスターを起動して、他地区分リストごっちゃに混ざった保持者一覧をウォッチング。区域別の分類の後に職業別、種族別、危険度別のランク付けがあって、これさえあればあなたも今日からおむすびストッパー(ただの別れさせ屋なのでは)とかうそぶいてみるけどちょっと見ただけで無理無理無理。サラリーマンとか専業主婦とか運送業者のお兄さんとか、何がどうして危険なんだろうって逆に気になる面子も多いんだけど、それよりなによりまず目に入る魔法使いとかヴァンパイア、追加でおにぎり(なにこれ)、マンイーター(人食い?)に、天使に堕天使(そういうのもあるのか)あとパンクスと、不安要素がより取り見取り。ラブテスターのタッチパネルをフリックする指もちょっとちょっとこれどうしようってたびたび止まってさあ大変。いやでもさすがに新任の、天使一日目にそんなまさかって地区別リストを開いたら、当然のようにおにぎりもマンイーターも魔法使いもそこに居た。勘弁してよって突っ伏して、デスクにぐだってよっかかったら、その時指が動いちゃって、音声ガイドを押しちゃった。電子音声がピピガガって感じで、壊れてないのか心配になる音を出してから触っちゃった候補の情報を喋りだす。

穂下部日高ほかべひだか、17歳、隔離年数17年、危険因果保持者、接触不可対象は以下の通り』

 そこから先はつらつらと、職業年齢性別その他諸々、ざっくりとした概略だけが、お経みたいに流れてく。どうせ暇だし押しちゃったから最後まで聞こうそうしよう、とは思っていたけど多すぎる。さっき出てきた不思議分類そのことごとくが接触不可で、おにぎり(だからなんだこれ)、マンイーター、魔法使いにパンクスと、17歳の人間に一体、世界は何を託しちゃったんだって。飽きれてため息一つついたら、ラブテスターが天使の名前を読み上げだしてさらに滅入る。なんだよ先輩にもなんか言わなきゃいけないのかよまだ二日目のルーキーだよこっちは!って気持ちは、なんかもう本当最悪の形で裏切られる。

『アズサエル・接触不可・理由・恋に落ちるから』

 は?え?あ?おい?今なんつったなんつった?これから担当する区域にさ、明日から出向かなきゃいけない私がさ、絶対出会っちゃいけない相手が居る区域で仕事しろっての?聞き間違いかなって思ったし、さすがにそんなふざけたことは起こらないだろうそうだろうってラブテスターのログを見たら、ばっちり私の名前があった。なんだよぉ、これはさぁ、本当になんなんだよぉ!

 勢いあまってデスクを叩いてこぶしが痛くて唸って悶えてあーどうしようって悩んでいたらなんだかんだでいい時間、出張ってた部下帰ってきちゃって成果報告ではいさようなら。精一杯のエンジェルスマイル(二日目)で成果報告書作成してるけど、もう内心は気が気じゃないし、胃がもうズドンと鉛色。やることやって仕事終わってでもまだなんだか落ち着かなくて。

「私がなーにしたってんだよぉ、神様ぁ」

 ボヤいてみても始まらないし、私はとにかく帰宅する。波乱だらけの天使二日目。

 明日から、私ってばどうなっちゃうんだろう。

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