おむすびストッパー

起爆装置

それはちょっと許されざるよな一話

 人間ってやつはいつだって合理的な判断ができる訳じゃないから私たちみたいな天使もどきに仕事があるってことは重々承知しているものの、それでも納得いかないことはあってこの気持ちもきっと不条理の塊みたいなものなのかもしれないけど、だからって愚痴らずにいられるほど私たちは人間ができていない。

もとから人間かどうか少し怪しいからこそ天使もどきのお結び業務に回されて日夜せっせとキューピッドよろしく甲斐甲斐しく人と人を繋いでるっていうのに、いざ別れてくださいなって勧告しに行くと門前払いどころか小足見てから昇竜余裕でしたみたいな、おら待てよコンボ決めてやからなって殺意ましましで対応してくるの本当どうにかならないものか。

 応戦してくるやつは基本どこかで天使もどきのやってること知ってるみたいで、姿見せた段階で臨戦態勢で全ぶっぱの準備済ませてこっちの動き伺ってるんだけど、そこはそれ天使もどきですから神様みたいなやつから力授かってますからそういう蟷螂の斧に対しては安い戦略だ児戯にも等しいってことで軽く捻ってはい別れて頂戴ね、新しい君のお相手はあちらってエンジェルアロー使って引導を渡すんだけどそれが日に何度も続くともう疲れちゃって疲れちゃって、最終的にもうじゃあそういうことでって言いながら先にエンジェルアローぶっ放すみたいな雑な対応になっちゃう。

 結局縁結びしてるにはしてるんだけどパッチワークというかモザイクというか無理やり割れ鍋に綴じ蓋とか美女と野獣とか雑なシンデレラストーリーもどきを作り出してしまうので、生物の多様性とか遺伝子の保存には貢献しているんだろうけどそういう事が必要になるのは元より危険な因果を紡いでいく運命というか可能性を持った人間だけだから、俺もああいう風に繋いでくれって頼まれても困るしできないしそういうこと言ってくるやつに限って本当にしょうもない縁しか持ってなかったりして、エンジェルアローを使うに使えなくてそいつもわたしもやきもきしてこうなってしまうと最後は呪詛の言葉吐かれて石投げられて退散することになる。あーもう疲れたしやりたくないしでも他にやることできることないし。天職からどうやって次の仕事探せばいいか分からないし(これが一番大きい)。

 そういうことを生業としてるからどうしても憎まれてしかりと心に留めておけよと先輩からは耳タコって程言われてはいるんだけど、知ってることと分かってることは違うし心得ておいてもいざ直面するとやっぱり体がこわばっちゃってマニュアル通りの対応する余裕なんてないから、この前はやけになって全力全開でぱなしてエンジェルアローの大盤振る舞いをやらかした。その結果街が一面ピンク色に染まってブティックだったりするホテルが満員になったりならなかったりでエリア長にまで話が行っちゃったみたいで黙ってたらばれないかなって淡い期待はすぐに打ち消されてやっちゃった次の日にすぐ呼び出しがかかる。うわーどうしようもう失業したら保険でないよね多分、そこらへんしっかり払ってくれてるのかなって心配がすごくて痛くて重くなった胃を抱えながらエリア長のいる部屋へ出頭する。

 でもそれでこってり絞られるかっていうとなんか違ったみたいで、私の矢のコントロールが奇跡的にうまくいってて刺さった相手の全員が全員担当エリア内での最優先処理対象たちだったらしく、怒るに怒れなかったのかもうエリア長はずっと褒めていいやら貶していいやら顔を目一杯歪めて変なねこなで声で毒にも薬にもならない話でお茶を濁しつつづけてた。この退屈な時間があなたへの罰なのよってことかもしれないけどそれ自分にダメージ入ってません?って思ったけど言わないであげた。私って優しいからさ。

 まあそれでも、自分がやらかしたのは分かってるからいっそ怒られたほうがすっきりするんだけどぁって思いはするものの、いやでもうまいこと事が運んだのに怒られるってのもなんか癪って感じだしこれでいいのかなって自分を納得させて、では今後ともよろしくお願いしますって言ってエリア長の部屋を後にしようとしたらなんか新しい道具を渡された。

 今回の功績というかやらかしを評価せざるを得なかったっていう事を煮え切らない言葉で語られて、それだけならよかったんだけどなんか面倒そうな話をぱぱぱっと三分くらいでされた。いやその適当さは先に発揮しといてよって思わなくはないけど黙っとく。新しい道具であるラブテスター(見た目ちゃっちいんだけど結構近未来してる不思議道具っぽい)の機能説明と仕事内容がちょっと変わってお時給(天使もどきも世知辛い)のほうもちょっと上がるというか役職付きになるみたいでなんとかエルみたいなのを名乗らなくちゃならなくなったので名前を考えておくように、詳しいことはこの書類を読んで頂戴と渡された分厚い紙の束とその上のラブテスターを乗っけて自分のデスクへ退散あらほらさっさしたら、隣の席の天使もどき(多分こいつも前の私みたいに名乗る用の名前は無いしあっても覚えてないから毎度あいまいな返事をする間柄)から今度はなにやらかしたのよって常習犯に話しかけるみたいに(私はまだ前科二犯くらい)にやにや笑いながら聞かれたからなんか役職あがったっぽいこととラブテスター(こんなもので仕事ができるんだろうか)をちらりと見せたらにやにや笑いがすっと消えて真顔になってお疲れ様ですって言いやがった。

 こいつ絶対何か知ってやがるって私(名前はまだない)の直感が囁くから、今使える手段のうち手っ取り早くて痕跡が残らないやつをいくつか思い浮かべていざ実行じゃって息まいたのに、私が手間取ってるほんの少しの間にそいつは「あ、外回りしなきゃ」って今までやってたデスクワーク全部完全にほったらかして「ちょっと出てきまーす」ってそそくさと出かけちゃって、私はその勢いに面食らってぽかんとしてたんだけど、すぐにやられたって気づく。ああくそ。天使もどきと天使もどきはエンジェルアロー等の能力の干渉と影響圏(半径何㎞だったか忘れた)の関係で、一旦営業に出ちゃうとそっから先はもう同一エリア担当でも戻ってくるまで会えもしないから、もう本当うまいこと完全に逃げられた形になる。

 しゃーねーなー他に問い詰められそうな相手も居ないし変にデスク間行き来してても怪しまれるし、あら手が空いてるのねって急に仕事ねじ込んでくるやつもいるから私はおとなしく自分のデスクで渡された書類をさらさらって読む。契約書は隅々まで読んだ方がいいんだろうけど、でも神様みたいなやつからの要求とか大概大味だからちょちょちょいって拾い読みしたら、どうやら私は天使もどきから天使に格上げされちゃったっぽい。え?

 やきもき募らせてぶっ放して自分の人間性について嘆いてたら天使に昇格しちゃったからこれからは悩まなくていいややっほい!って一瞬だけなったんだけど、よくよく読んでみると、今までは紙で渡されてた候補者のリストがラブテスターに変わっちゃっただけでやることやれることやらなきゃなことは全然変わってないし減ってない。むしろ仕事の裁量とか権限とか余計なものと心配だけは増えちゃったし、今まで対処してた絶縁対象たちが本当に稚魚みたいなもんだったんだってことに気づかされて、うわ上の立場の人たちていうか天使まじで仕事してたんだってなってちょっと驚いてすこし落ち込む。これ、本当に私がやらなきゃいけないのか。読み進めていくうちに、昨日の今日まで担当してたエリアの采配までやることになってるってことに気づいて、働く前から中間管理職の悲哀背負っちゃった。

 でも悩んでも仕方ない。悩み続けても手元にある書類の内容が変わるわけじゃないし、私がやらかしたピンク色のやらかしがなかったことになるわけじゃないし、私はもう天使になっちゃったし。しゃーない、やるか。観念した私は、渡された中にあった優先事項対象者とエリア内の天使もどきのリスト、能力査定表やらなにやらの書類仕事だけはちゃちゃちゃっと済ませて(こういう仕事ばっかりだったらすぐ帰れるのに)帰る準備をして、はたと気づく。そうだよ明日から私天使なのに、名前ないじゃん。どうしよっか。職務上の名前規定の欄には、名乗った際に天使であると認識される名前であることとか書かれてて、なんだよこのアバウトな指定ってすこし笑う。じゃーそっか、ルシフェルとか悪魔っぽいのはダメなんだ。でも天使っぽいってなんだろうって思う。語尾にエルがついてればいいのかな。えーいもう、それでいいやって、天使もどきになる前に、名乗ってたっぽい名前(もう本当にぼんやりとしか覚えていない)を無理やり思い出して、書類に書き殴る。我が名は、アズサエル。これでいいだろ、うん。

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