第四話

 『帝国』軍が侵攻を開始したという情報は、『大連合』同盟国の『公国』にも、3時間遅れでもたらされた。


「『帝国』軍が、西北領に……?」


 メイドが持ってきた端末で、自身の後ろに立つレオンと共に、それ確認したセレナは、二人と同じように驚愕きようがくの表情を浮かべる。


「……」


 しかしレオンは、少し目を見開いた程度で、どこか冷めたような反応しかしなかった。

 その情報には、画像が3枚添付されていて、セレナはそれを開く。ちなみにセレナには、国家機密以外は閲覧する権限がある。

 それらはかなり解像度が荒かったが、1枚目は山体から飛び出した金属の円柱で、先端には放射状に突起がついている。


 これで山を掘っていたことが、地震と土砂災害を頻発させていた一因になっていた。


「レオンさん。これは……、『神機』なのですか?」


 セレナの質問に、ああ、と答えたレオンは、工作型か。初めて見た、と付け足した。

 工作型は戦闘能力が無いに等しく、その名の通り、工作用の『神機』である。


 2枚目の画像は、その先端が外に開いて、中からカブト虫のような角がついた、緑色の『神機』の頭が写っていた。

 3枚目はジャミングの影響で断片的な画像しかなく、ほとんど真っ黒になっていた。


「あそこは『神機』が配備されてないし、これは多分、1日あれば落ちるかな」


 他人事ひとごとのような口振りでそう予想したレオンは、自分の席に戻ってお茶をすすった。


「レオンさんの部下の方達に、何も無いと良いのですが……」

「そこまで心配要らないよ。レイラ達はみんな、首都の近くに居るはずだから」


 中央の守りだけは鉄壁だからね、あの国は、と珍しくレオンが皮肉交じりに言う。


「あ、続報みたいです」


 その直後、再びセレナの端末からブザーが鳴り、またレオンがセレナの後ろから、画面をのぞき込む。

 画面には、『帝国』軍が西北領の4分の1を掌握したこと、南部領でも『帝国』軍が『神機』を投入したことが書かれていた。


「レイラ・シュルツ……、少将……?」

「レオンさん?」


 その中にあった、西北領の司令官の名前に目がとまったレオンは、凍り付いたような表情でつそうぶやく。


「嘘だろ……、なんで、レイラが……?」

「れおん?」


 そのまま微動だにしないレオンに、セレナとマリーが呼びかけるも、彼はなんの反応も示さなくなった。


 また、なのか……?


 レオンの脳裏に、あの戦いでの悲劇がよぎり、その額に脂汗が浮かび始める。


 また、僕の……?


 あの時の様に、レオンはパニックになりかけたが、


「れおん、おちついて。ながされたらだめ」


 いち早くそれを察知したマリーは、そう言って彼に跳びついた。おかげでレオンは、なんとか寸前で踏みとどまる事が出来た。


「……ああ。ありがとう、マリー」


 レオンはマリーの頭を何度か撫で、一つ大きくため息を吐いた。


「ねえ、セレナ。お父上に頼みたい事があるんだけど」


 いつもの調子に戻ったレオンが、セレナにそう告げたタイミングで、


「セレナ。そこにレオン殿はいるかい?」


 丁度、セレナの父の公爵が娘に連絡を入れてきた。


「どうされました。公爵閣下」


 レオンが返事をすると、公爵は『大連合』への増援部隊に、『神機』のパイロットとして加わってくれないか、とレオンに頼んできた。


「はい。喜んで」


 勿論彼は、渡りに船とばかりに快諾し、背筋を伸ばして敬礼する。

 レオンがそう言ったのを聞いて公爵は、娘を頼むよ、と言って通話を切った。


「じゃあ行こうか、セレナ」

「はい」


 セレナが立ち上がるのを見て、レオンは扉の方へと向いた。


「れおん、おねえさま。ふたりともきをつけて」


 すると、マリーがレオンの前にやってきて、そう言いつつ彼の手を両手で握り、目を閉じて無事を祈った。


「ありがとうマリー」


 レオンはマリーの頭を撫でて、きっと帰ってくるから、と言い、セレナを伴って部屋から出て行った。

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