第9話

 こうしている間にも、どこからともなく次々と、ガブリエルの同類が到着してくる。


 いったいこの野次馬たちは、流血沙汰の起きそうな時と場所を超自然の感覚で察知するのか、それともガブリエルが招待状でもばらまいたのだろうか。


 部屋の中は喧々囂々、しゃべったり議論したりする精霊たちでごった返し、息もつけないほどである。


 メアリはたまりかねて地下室から逃げ、階段を駆け上がった。


 すると旅の女がまだ食堂にいた。もう寝ているものと思ったので、メアリはびっくりした。


「あら奥さん、どうなさったんです。何か必要なものでも?」


「いいえ。坊やはもう眠りました。あなたはまだお休みにならないのですか? よろしかったらわたしたち女同士で、もう少しお話しませんか?」


「ええ、かまいませんとも。それなら美味しいお酒がありますよ」


 メアリは平静を装って、台所から酒と杯を持ってくると、再び女とともに食卓についた。


 女は穏やかに、気遣わしげに微笑んでいた。メアリは上の空だった。自分が直面している難題で頭が一杯だった。


 すると旅の女は静かに切り出した。


「あなたには、何か大きな重荷があるように見えます。通りすがりのわたしが立ち入ったことを言うのもなんですけれど。もしや困った事でもあるのですか? あなたにはこんな素適なお宅がおありですけど、なにぶん辺鄙なところでしょう。このまま立ち去るのは、どうも、気がかりでなりません」


「まさにあなたのおっしゃるとおりですよ。大きな問題を抱えています」


 女は、メリアが先を続けるのを、しばらく黙って待っているようだった。だがそれ以上の説明はないので、再び女の方が口を開いた。


「なにかお手伝いできることがありますか?」


 そのとき、メアリの脳裏にひとつの名案がひらめいた。いや、名案とまではいえないかもしれない。しかしそれは、この状況を突破する唯一の光明のように思えた。


「では打ち明けますが、あたしは不治の病にかかっているのです。もう余命いくばくもありません。このまま、ここで死ぬつもりです」


「たった一つの気がかりは娘のことです。今は上の部屋で寝ていますが、ちょうどおたくの坊ちゃんと同じくらいの年頃の、それはかわいい子なんですよ。あたしが死んだ後、あの子がたった一人、この家に取り残されてしまうのが心配です。あなたがたを見たとき、運命だと思いました」


「どうか明日出発なさるとき、あの子を一緒に町へ連れて行っていただけませんか? そうして誰か信頼できる里親のもとに落ち着くまで、見守っていて欲しいのです。贅沢を言えば、その里親があなたのような方だったらと思います。ご迷惑は百も承知ですが、他に頼る者もないのです」


 メアリは嘆願し、女はじっと耳を傾けていた。やがて女は頷いた。


「わかりました。おたくのお嬢さんは、我が家で責任をもっておあずかりすることにいたしましょう」

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