第17話 高城攻め

(一)

 高城は日向新納院にあり、耳川からは五里南西に位置する。南を大河小丸川、北をその支流の切原川に挟まれ、西は霧島山脈が聳える二つの小高い丘の上に建てられた山城である。小高い丘と言っても、北、南、東の三方は切り立った崖を構成しており容易に登れない。西は霧島山脈側から侵入可能であるが、整備された道など無く大軍は展開できない。いわいる天然の要害だった。

 城は西側の丘にある一の曲輪、東側の丘にある二の曲輪からなり、数千の兵を収容できる。この二つの曲輪の間には吊り橋が渡され、城兵が自由に行き来できるようになっている。また、一の曲輪に簡素ながら天守があり、二つの曲輪とも城壁に沿って矢倉や銃眼など数多く備えている。

 さらに曲輪を囲むように七つの空堀が掘られ、その外側には下栫と呼ばれる内柵がぐるりと設けられている。柵の外側の平地は外垂と呼ばれ、外垂を囲む外柵を守りとして、籠城軍を展開しての第一防御線となっている。

 たとえこの防御線を突破したところで、七つの空堀で足をとめられているうちに城から弓や鉄砲の集中砲火を食らうだろう。天然の要害に加え、精緻に計算された防御の備えによって、高城は難攻不落と呼ばれていた。

 天正六年十月、大友軍来たるの報を受けた日向付近の島津勢はぞくぞくと、山田有信、有栄親子が二百で守る高城に入城した。まず、佐土原の家久が、五百の騎馬を率いて駆け付け、次いで三名臣のひとり鎌田政近が四百、比志島国貞が九百、吉利下総守が三百、志布志国人衆が二百、飫肥島津家の忠朝は飯野を訪れて不在だったため、その家老日置越後守が五百を率いてきた。一報を受けてわずか半日で、併せて三千の兵が高城に集まったことになる。これは当時としては驚異的な早さだった。

「敵の姿は今だ見えもはんどん。本当にこん城に攻めっくったろうかい?」

 比志島が椿油でピンと立てた左右の髭を、さかんに指でしごきながら言う。

「心配いりもはん。物見の報告でん、まっすぐこちらに向かって来ちょいもんど。」

 有栄の説明に国貞は顔をしかめて「そうな。」と素っ気なく一言放った。

「しかし、さすがは鎌田さぁじゃ。鉄砲五百丁は助かりもんど。」

 有信が頭を下げ、政近は両手のひらを顔の前でぶんぶん振った。

「そげなこっ。兵糧ももう少し運びたかったとでごわすが、なにぶん急なことで。」

 家久はそのやりとりはどこ吹く風で、天守から盛んに北東を眺めている。そこへ物見から一報が入った。

「敵先鋒が現れもしたど!その数、約一万!」


(二)

 大友軍の先鋒は一万である。その内訳は、田北鎮周千、佐伯宗天千五百、臼杵鎮続三千、筑後の蒲池鑑盛三千、同じく星野長門守五百、北日向国人衆千である。先鋒は高城から二里ほど北の上面木山麓の名貫勝坂に陣を構えた。

 次鋒は六千である。角隈石宗五百、吉弘鎮信千、斎藤鎮実千、杵築鎮秀三千五百から成り、勝坂陣の西一里に位置する野頸に陣を構えた。

 後詰は一万四千である。田原親賢四千、その実弟である奈多政基三千、朽綱鑑康二千、義統側近から成る門川衆五千で構成し、高城から三里東の日向灘沿いの松原に陣を構えた。

 宗麟、義統の本軍二万は高城からはるか遠く、門川よりもさらに北方の和田越に置かれた。高城から実に十五里は離れており、距離的に命令すら容易に下せず、状況も把握し得ず、これを城攻めの本陣と呼んで良いかすら疑問に思える。それでも、早馬が走りに走って先鋒が配置についたことを伝えると、宗麟は頷いて攻撃を命じた。同じ早馬が疲れた足を引きづりつつ勝坂についたのは、十月十九日深夜のことだった。


「城の様子も確認せず、ただ力攻めせよてか!あの城を何の策もなく力攻めとは、死にに行けと言うとるようなもんじゃ。わしはご免こうむる!」

 軍議の席上、宗天が珍しく怒鳴った。

「伯父御の言うとおりじゃち!あの手の城は兵糧攻めするが常道。力攻めにはさしものわしも賛成できぬき。」

 田北鎮周も同調し、さらに同調の声が次々と上がり、親賢の天幕は紛糾した。

「気持ちはわかる。わかるが命令じゃ!逆らうわけにはいくまいに。」

 人ごとのように言う親賢に、鎮周が噛みついた。

「お主は後方で見ているだけじゃもんな!そう命令、命令言うなら、お主が攻めてみれば良いではないか、この臆病もんが!」

「臆病者じゃと、誰がじゃ!もういっぺん言うてみい!」

 珍しくかっとなった親賢が、鎮周に掴みかかろうとし、吉弘鎮信と斎藤鎮実が慌てて止めに入った。

「まったく、ここをどこじゃと心得る。戦場ぞ、戦場。いい大人が二人して、もうやめんか!」

 真っ赤な顔をした石宗が一喝し、二人はすごすごと席に戻った。

「めずらしくな、珍しく鎮周の言うことに一理ある。あの堅固な城、力攻めは無謀であろう。親賢、失敗すればお主も責なしとはされぬぞ。殿や大殿に兵糧攻めを進言してはどうじゃ。」

「しかし…。」

 親賢は宗麟の短気を知っている。意見をすれば、親賢でもただでは済まない。しかし、確かに力攻めすれば多くの犠牲が出て、やはり一定の責任を取らされるだろう。ただ、このまま攻めずにいれば命令違反となる。どちらにせよ、家老の夢が遠のくのは間違いなかった。

「八方ふさがりか、むむ…。」

 腕を組んで考え込んだ親賢を救ったのは、外様の蒲池鑑盛だった。すくっと立ち上がった彼はこう言った。

「城攻めの先陣、我ら蒲池勢が承ろう。」


(三)

 明二十日早朝、勝坂陣の動きを受けて、高城では志布志衆が家久に先陣の願いを申し出た。

「敵は大軍、間違いなく外柵から正攻法で押して来もうそう。我ら二百は外垂に出て防ぎ申したく。」

 志布志地頭の間瀬田刑部、有川備前守の二人が勇んで話す。志布志衆は大隅勢の中でも特に勇敢で、国境に位置する志布志の国人たちは、永年侵攻してくる伊東家と血で血を洗う戦いを繰り返してきた。そればかりでなく工藤祐経の末裔である伊東家は、曽我兄弟を信奉する志布志の地侍たちにとっては不倶戴天の敵のようなもので、今回の大友家侵攻が伊東家の頼みによるものと知り、遠く志布志から駆け通しでやってきたのだった。

「じゃっどん、外柵も外垂も元々防御をするためち言うよっか、敵を釣り、弓鉄砲の射程に誘う仕掛けのようなもんじゃ。そこで戦うちいうことは、自ら釣り野伏りの餌となっようなもんじゃぞ。」

 有信の言葉に、刑部も備前も厚い瞳を潤ませて頷いた。

「こん戦い、大友との乾坤一擲の大戦と心得ちおいもす。そん先陣を務むっとは我ら志布志衆の本懐にござっど。」

「よか!」

 家久のその言葉に政近も反論しようとしたが

「行け!」

 短くも反駁を許さぬ響き、それを受けて志布志勢二百は鬨の声を上げ、絶壁と言うべき高城の斜面を下へ滑り降りていった。


 城から見て南に火の手が上がった。

「大友軍め!罪なき民草ん家に火を放うたな。」

 外柵で待ちかまえる志布志衆は、まるで悪逆を謳われた工藤祐経本人を相手にしているかのようにいきり立った。

 切原川を避けるように大きく迂回した大友軍は、行軍の邪魔となる無人の民家を焼き払い、一団となって外柵へと突入してきた。先方は、どうしようもない戦の習いとして北日向衆千である。それに続いて蒲池軍三千が突撃する。

「よかか!我ら志布志衆にとって、伊東は父祖の仇、まさに曽我どんに対する工藤祐経のごとしじゃ。それに味方する大友も蒲池も同じ!曽我どんたちのごつ、命ばかけた働きを見すっぞ!」

 有川備前の叫びに、志布志衆は一斉に槍の石突きを地面にどんと叩きつけて応えた。そして槍を立てると、横に広がりながら背中にからった弓を取り出した。

 志布志衆二百は外柵に展開し、迫りくる北日向衆に一斉に矢を放った。ばたばた倒れる味方を顧みもせず、北日向衆は外柵に殺到する。

「いったん、距離ば取ぃて射こめ!」

目の粗い造りの外柵は、人や馬を防いでも矢は良く防がない。柵を破壊しようと取りついた北日向衆は、内側からの矢の雨に次々と倒れていく。

「おお、見事な戦いぶりじゃ。」

山田有信が感嘆の叫びを上げる。

「いや、次はあん蒲池勢が来っど!」

横で鎌田政近が叫んだ。


「北日向の皆さまよ、一旦お引きを!ここは我ら蒲池勢にお任せくだされ!」

 三郎統安の呼びかけに応じた北日向衆は、態勢を立て直すため退却した。柵から距離を取っている蒲池勢は、三郎の合図で弓兵五百を前面に展開した。

「敵の矢が届くなら味方も条件は同じ。一斉に射こむのです。」

三郎自身も言いながら矢を放つ。次々と直線的に放たれる矢は、柵に防がれることなく志布志衆の体を貫いた。志布志衆は、あまりの矢の勢いに押されじりじり後退していく。

「今じゃ、いくぞ!」

太郎鎮漣が見慣れぬ大柄物を振りまわし柵を破壊した。


「あちゃー、出てきおった。」

 城から見ていた政近が思わず叫んだ。

「あん大きか男は、誰(だい)じゃ?」

家久の問いに有信が答えた。

「蒲池の嫡男、悪太郎鎮漣(しげなみ)でごわす。あん柄物をご覧くだされ。西国一の暴勇、今呂奉先じゃと言われていい気になって、画戟という四十貫もある馬鹿重い武器を明から求め振りまわしておっとか。」

続けて有栄が警告した。

「そいどん、そん強さは本物ごわす。志布志衆に引き上げの合図を!」

「もう遅か!」


 下では間瀬田刑部、有川備前守の二人が、刀を抜き鎮漣と対峙していた。

「名のあっ武将とお見受けした。わしは志布志地頭間瀬田刑部!」

「同じく、志布志にその人ありと知られた有川備前!名を、名を名乗られよ。」

 鎮漣は横を向き唾をペッと吐き捨てた。

「下郎に名乗る名は無い!」

「おのれ、武士の名乗りを汚すっか!」

「覚悟せい!」

 刑部と備前は、上段に構え左右から同時袈裟がけに斬りつけた。捨て身必殺の連携技、どちらかが斬られても、一方の刃が敵を切り裂くはずだった。

 しかし、次の瞬間、目にもとまらぬ速さでぶんと振られた鎮漣の画戟は、ほぼ同時に刑部と備前の頭を叩き潰していた。

「化け物め!絶対に許さんど!」

 天守の窓枠を掴んだ有栄の手がぶるぶる震えた。

 画戟をぶんと振って血を落とした鎮漣に統安が語りかけた。

「兄上、ご無事で?」

「こんなもの、遊びにもならぬ。三郎、このまま攻め上がって城を落とすぞ。」

 鎮漣がさっと手を上げ蒲池軍は前進した。しかしさすがの蒲池軍も七つの空堀には苦戦した。なんとか抜けて城壁にたどり着こうとするが、上から降ってくる矢の雨に前を阻まれて進むことが出来ない。

「ええーい、情けなや。わしに続け!」

「兄上、うかつに前に出ては!」

 三郎の警告を無視して、凄まじい跳躍力で鎮漣は堀から堀へ跳び続けた。


「化け物、今退治てくれるゆえ、見ておれよ!」

 有栄の合図で、城から一斉に轟音が響き渡った。

「なんだ、鉄砲?それにしてもこの轟音、いったい何丁持っているのだ!」

 鑑盛の叫びを三郎の声がかき消す。

「兄上!!!」

 鎮漣は、頭からゆっくりと堀の中へ落ちて行った。


(四)

「きやっ!」

法姫は布団から跳ね起きた。

「姫さま、どうかなされましたか?」

お福婆が障子の外から尋ねる。

「夢を見たのです。憶えていないけど、なんだかすごく怖い夢。」

障子が開き、お福は持っている手拭で法姫の汗をぬぐった。

「夢は夢ですよ。安心してお眠りなさいませ。」

「父上や兄上に何事か起きたのではないかしら?」

「そんな、父上は西国最強と言われたお方ですよ。島津がどれだけ強くとも、後れを取るわけはありません。まして、あの賢い三郎様と一緒なのですから。」

「そうかしら、何か胸騒ぎがして。」

「大丈夫ですよ、婆が保証します。安心してお眠りください。」


「法!」

鎮漣はがばっと跳ね起きた。頭がずきずきする。

「兄上、よかった。目を覚まされましたか。」

「まったく運の強い男じゃ。」

鑑盛が感心して言う。

鎮漣の兜に当たった鉛玉は頭を避けるように兜の中を一周して地面に落ちた。鎮漣は頭に当たった衝撃で気を失っていただけだったのだ。

「法姫の名を呼んでおられましたが?」

「ああ、法が泣いている夢を見たのじゃ。」

「はぁ…」

三郎はため息と共に思った。

暴勇を謳われる兄だが、情けや愛に欠けるわけではない。むしろ強すぎる方ではないかと思う。特に目の見えぬ法姫にかけるそれは異常なほど強いと言って良い。美しい義姉に頭が上がらぬ兄だが、どれだけ言われても法姫を尼寺へ入れたり、手放すようなことはしなかった。それはむしろ、父親の愛というより、母親のそれに近いのかもしれぬ。古に似たような英雄がいたと思いだした。

「項羽の仁は婦人の仁か。ふふ…」

 強大な楚王・項羽にも仁があるが、それは王に相応しいものではないと漢中王・劉邦の前で揶揄した韓信の言葉だ。兄にもそういうところがあり、だから家督をなかなか継がせてもらえないのかもしれぬ。


「おお、気がつかれたか?」

 田原親賢と角隈石宗が蒲池軍の陣幕に入ってきた。

「これは、心配をおかけして申し訳ござらぬ。」

 鑑盛が本当に申し訳なさそうに言う。

「なに、猛烈な武のほど十分に見せていただいた。島津も肝が冷えたでござろう。」

 石宗が気遣いを見せた。そこに突然

「おお、ここにおったか。」

 不躾に陣幕を開けて入ってきた者がいる。

「大殿!」

 親賢と石宗が同時に声を上げた。それが聞こえたか聞こえないのか、宗麟は鑑盛や鎮漣の神経を逆なでするようなことを言った。

「まだ落としとらんのか。」

聞いた親賢は慌てて平伏した。

「ははっ!」

石宗は、久しぶりに会った宗麟にいい機会とばかりに自論を述べた。

「大殿、この城は力攻めでは落ちません。勇名を轟かせた蒲池殿ですら苦戦したほど難攻不落。ここは数を活かして兵糧攻めに切り替えるべきかと。」

宗麟はうるさそうな目で石宗をちらっと見たが、ことさらに無視して言った。

「個人の武勇じゃ戦術じゃと、そんな古臭いものに頼っておるから落ちるものもおちんのじゃ。」

 鎮漣が、かっとして刀に手をかけて起き上がろうとするのを三郎が押さえた。鑑盛は気持ちを押し殺したような表情で黙って話を聞いている。

「よし!ここはわしが新しき戦のやり方というものを見せてやろうではないか。」

 そう言うと宗麟は上機嫌で陣幕を出て行った。


(五)

 耳川を渡った誾千代たちは、南西の山側から立ち上る黒い煙を見た。

「戦はあっちだ!」

 紅猿が叫び、一行は馬首を南西へ向けた。


「なかなか攻め込めんち思ってか、大友ん攻撃はやみ申したの。」

鎌田政近の言葉に山田有信は頷いて言った。

「我が方の犠牲は志布志勢が半分の百、残りん百は示し合わせたごつ霧島ん方へ逃げ申した。そいでも間瀬田と有川が討たれたのは痛か。」

有栄が続ける。

「一方で敵については北日向勢二百、蒲池勢も百は討ち取い申したど。」

政近が首を振った。

「元々ん兵力差ば考ゆっと、やっと引き分けちいうとこいじゃろう。我が兵二百が隙をついて入城したどん、志布志勢の減った分を補ったにすぎんど。」

家久は黙って天守窓から外を眺めていたが、突然、声を上げた。

「あいは何じゃ?」


 誾千代たちは野頸陣近くの小高い丘まで来ていた。

 そこで見慣れた黒づくめの集団が、見覚えのある大きな黒い筒をごろごろと引っ張っていくのを見つけた。

「何じゃあれは!」

 弥七郎の叫びをよそに、羽帽子を見つけた誾千代は馬から降りて寄って行った。

「大殿さま!」

「おお、娘!どうしてここにいるのだ?」

 誾千代が何か言おうとするのを、気が短い宗麟自ら遮った。

「まあよい。今から新しい時代の戦を見せる。娘よ、お主も見て行け。そこな珍妙な供の者どももな。」

 弥七郎は宗麟と聞いて青ざめ、珍妙な供扱いされて赤くなり、とにかく忙しい様子だ。

 丘の突堤で男たちは止まった。なにやら道具を手に、しきりと何かを測っていたが、若い男が宗麟のもとへ跪いて言った。

「ドン・フランシスコ、準備万端整イマシテゴザル。」

 宗麟は軍配を手に馬を降り、黒い筒の後ろに立って言った。

「山猿どもめ、今から新しい戦、いや新しい時代というものを見せてやろう。古き世終わりをつげ、新しき神の世が降臨するのじゃ。時代を切り開く大筒、名付けて国崩し!存分に味わうが良い。」

 そう言うと、軍配をさっと振った。

 先ほどの若い男が合図する。男たちは筒の先端から大きな丸い球を入れ、根元についている火口を切った。

「アデオ ファーゴ!」

 聞いたことのない轟音が辺りに鳴り響いた。


敵の一陣の方でぱっと炎が上がるのが、遠目にも見えた。

ほぼ同時に、家久たちは凄まじい轟音と、城が激しく揺れるのを感じた。

「どうした!」

物見があわてて報告する。

「ようわかりません、何か大きなものが二の曲輪の矢倉付近に落ちてきたようでごわす。」

「被害は!」

「さいわい……!」

そのとき、二度目の衝撃が走った。今度はもうもうと煙が上がる。

「今度は二の曲輪の倉に落ち申した!壁を壊して梁のひとつを打ち折ったようでごわす。」

山田有信が手をかざして野頸陣の方を見た。

「あいが噂に聞く大砲ちゅうもんか。こんまま撃込まれ続けたら、こげな木と土で出来た城なぞひとたまりも無かぞ。」

家久もじっと見ていたが、なかなか三発目を撃ってこない。


「壊れた?」

呟く美馬をちらと睨むと、宗麟はフロイスの襟首を掴んだ。

「どうなっておるのじゃ!」

フロイスは咳き込みながら説明した。

「金属疲労デス。アレダケノ距離ヲ、大筒ノ車輪ダケデ引ッ張ッテ来マシタノデ、車軸ガ耐エラレナクナッタノデショウ。」

確かに大砲の車軸は真っ二つに折れ、砲身が地面に突き刺さっている。

「いますぐ治せ!いや、砲身だけ外して岩場に固定して撃て。」

「ソンナコトヲシタラ、今度ハ砲身ガ持チマセン。間違イナク破裂シマス。車輪ノ役目ハ砲身ヲ運ブノミナラズ、発射ノ勢イヲヤワラゲル事ニアリマス。府内ヲ出ルトキカラ荷車デ運ビタイト申シ上ゲマシタニ、オ聞キイレニナラナカッタ。」

「過ぎたことはもうよい!どうやったら治るのじゃ?」

「車軸ヲ取リ替エルシカアリマセン。シカシ、ソノ技術ハコノ国ニハ…。」

「もうよい!」

 青筋を立てた宗麟は、呆気にとられる誾千代たちを置いて、馬をとばしてどこかに行ってしまった。


 その後、大友勢は、高城に対し数回にわたって散漫な攻撃を続けたが、むろん成果は上がらず。石宗が和田越の本営に乗り込んで、義統と宗麟相手に口角泡をとばしての議論をした挙句、兵糧攻めへと方針を変え、遅ればせながらも街道封鎖を行い、各陣を移動させ包囲の輪を縮めた。ここで、高城攻めは第二局面に突入したのだった。















 







 




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