第11話 風盗賊(ふうとうぞく)

(一)

 両腕を頭の上で組んで堀脇の民家の壁にもたれかかり、笹の葉の茎を口に咥えてくるくる回しながら、仙は冬曇りの空を映す水が冷たそうな堀を見詰めていた。

「!」

 仙が跳ね起きた。堀にかけられた迷路のような小道を通って、杖をついた法姫が歩いてくる。まるで見えているかのように正確に。

 駆け寄って手を取った。法姫がにっこりと笑う。

「おぎんは?」

「最近、忙しいのか来ないわね。」

「今日はどこへ?」

「そうね、雪が触りたいわ。清水山まで行けば雪があるかしら。」

 仙は東の山を見渡した。年明け早々では、南国では雪は難しい。

「まだ雪は無い。肥後の阿蘇あたりならあるかも知れないが。」

「仙は阿蘇まで行ったことがあるの?」

「一度だけ…。」

 あれは去年の春、剣術の稽古に南肥後の丸目の里に向かう途中だった。

「どんなところ?」

「異国(とつくに)のよう。山々に木が無く、ただ草のみが生えておった。」

 くすっ。

 何を思ったのか、突然法姫が笑った。

「仙、前から言おうと思っていたのだけれど、あなた、母上と同じ匂いがするわ。」

 思わず離した手を、法姫が強く握った。

「それと、とっても寂しい感じ。仙、あなたは何も言わないけれど、何かとても辛いことがあるのね。」

 虚をつかれた。呆然とする仙を法姫はぐっと引きよせ抱きしめた。

「大丈夫、もうさみしくないわ。あなたには私がいるじゃない。」

 自然と嗚咽が漏れた。泣き崩れる仙の頭を、法姫はいつまでも優しく撫でていた。


(二)

「なるほど、日向に赴き伊東家旧臣から情報を得てくればよいのですな。」

小野鎮幸が問い、道雪は頷いた。

「しかし、鎮幸が行かずとも、心効いたる家臣をよこせば良いのでは?」

由布惟信の問いに、道雪は今度は頭を横に振った。

「石宗様が十名送った草の者が一名しか帰らぬという。これは相当危険で、鎮幸でなければ頼めぬ。」

「なるほど、命がけと言うわけで。これは久しぶりに胸が高鳴りますなぁ。」

うれしそうな鎮幸を横目でちらと見て、道雪は城戸知正に聞いた。

「誾千代はどうした?また柳川か?」

「おそらく。同年代の御友人が出来てうれしがっておいでで。」

「おそらくとは何じゃ。聞いておらぬのか?」

「気づかぬうちに出られてしまいましたゆえ。」


恐縮する知正をしり目に、道雪は二本の六角棒を器用に使って立ち上がり、外へ向かってずんずんと「歩き」出した。

「殿、いづこへ!」

惟信の問いに、道雪は振り返らずに答えた。

「石宗様のもとじゃ。島津に関して、もう少し詳しい話を聞いてくる。」

道雪の姿はあっという間に消えた。

「殿の頭の中では、もはや島津との戦が始まってござるな。」

小野鎮幸がうれしそうに言い、由布惟信は眉間にしわを寄せて考えに沈んだ。

この場でただひとり、城戸知正だけが違うことを考えていただろう。


そう言えば、本当に誾千代様はどこへ?


(三)

 本当に大きな店構えだ。島井宗室、神屋宗堪の博多の二大豪商に勝るとも劣らない。港通りにある大黒屋を見上げながら誾千代は思った。子供心に、大きな米問屋だなとは思っていたが、まさか島津家の関係とは思わなかった。

 先ほどから見ていると、人の出入りは頻繁だが、普通の商家と何ら変わるところが無い。毎日張り込んでもう五日になるが、怪しいところが露ほども見当たらないのだ。誾千代は、思い立って裏口の方に回ることにした。路地を抜けた裏口は、人通りもなく、さすがに静かだ。人の動きもまるでなく、ここだけ時が止まったようだ。

 誾千代はあくびをかみ殺した。日が陰るまで何の動きもなく、もう帰ろうと考えていると、なにやら塀の上でもぞもぞと動く影がある。路地奥につっと隠れ、様子をうかがっていると、塀から裏路地へ飛び降りた者がいる。きょろきょろあたりを伺うと、西の方へ一目散に駆け出した。年は誾千代より少し上に見える。擦り切れた緑の小袖を着たやせた娘だ。身は軽いが足はそれほど速くない。気づかれぬように注意しながら後ろを走った。


 娘は早良街道を南に走り、荒平山へ続く山道を登って行った。山の中腹まで来ると荒堂が見えた。娘がその中に消える。続いて入った誾千代は、足下が押し上がってくるのを感じた。

「しまった!」

 気づいたときは手遅れで、誾千代は網に絡まれ大木の上まで釣り上げられた。

お堂の中、灯篭の影、床下、様々なところから、わらわらと人が湧いて出た。よく見ると全員年頃の娘だが、実に様々な恰好をしている。傾き者というらしいが、白粉を塗り目に隈どりを書いて、色合いの派手な小袖を着て、髪の毛を白や朱で染め、小帯でぐるぐると縛っている者たち。ぼさぼさの髪に、古びて擦り切れ、色あせた小袖を着た者たち。刀や鎌などを帯に挟むもの、槍や銛を手にする者など、武器も様々だ。

 誾千代は冷静に周りを見た。綱は頑丈で持っている小束では破れそうにない。度胸をきめて成行きに任せるほかない。


「お前ぇは何もんだぁ!ここを泣く子も黙る風盗賊の砦と知ってのことか!」

 白い髪をした傾き者の一人が聞いた。

「まだ子供だが、恰好は大身の武士の子だぜ。我らには恨み重なる相手、北斗(ほくしん)、景気づけに殺っちまおうぜ!」

 朱い髪の大柄の傾き者が叫ぶ。

「紅猿(こうえん)、まずはここに来た理由を確かめないと。この娘の背後に、どんな奴がいるかわからないからね。」

艶のある黒髪の美しい顔に、蛇の入れ墨をした傾き者が冷静に言う。

「飛天、侍如きにびびってんのかよ!」

髪を黄色く染め、眼の周りに赤い仮面のような隈取りを書いた若い傾き者が叫ぶ。


「蝙蝠、やめな!」

堂の中から、六尺近い大型の傾き者が現れた。

長髪をトグロのように巻いて頭に乗せ、金粉銀粉をキラキラ散らしている。

高い鼻、白粉も塗っていないのに異様に白い肌。目はぎょろりと大きく、額が前に突き出している。

ちりめんの服は豪華なもので、周りの態度も併せ、この集団の頭目だと明らかに分かる。

「金牛の姉御!」

周囲が一斉に平伏する。金牛は木に吊り下げられている誾千代をしげしげと眺めた。

「何だぁ、この餓鬼は?」


(四)

 見たことはないが、海の底の方はこんな色をしているのだろうか。

深い青、吸い込まれるような青い色

「なんだい、人の目の色がそんなに面白いかい。」

 金牛が誾千代の額を軽く小突いた。嫌な感じではない。

「しかし、あんたがあの雷親父の娘とはねぇ。人はみかけによらないもんだ。」

 金牛は道雪と顔見知りのようだった。

 初めてあったのにもかかわらず、金牛は誾千代にいろいろなことを話した。

 金牛は朝鮮の首都・京城の遊郭で生まれた。母は日の本から売られてきた武家の娘。父は名も知らぬ南蛮人であるらしい。生まれて母はすぐ病で亡くなったので、金牛は遊女たちに育てられた。

 北斗、紅猿、飛天、蝙蝠は日の本からさらわれてきた子供で、あるとき金牛と船を盗み、故国への帰還を果たしたのだった。そして、各々の里へ向かったものの、皆、貧しい百姓の子であり、居なくなって何年もたった者たちに居場所などなく、今度は借金のかたに再び遊郭に売られるのが関の山だと思われた。自然、行き場のない金牛と暮らしていくことになったが、身寄りのない子供に、まともな仕事など無かった。何度か悪徳商人に騙され、ひどい目にあわされるうち、金牛は復讐と共に生きていく道を見つけた。悪徳商人たちを目標とした盗賊「風盗賊」である。汚い金を盗み一部を貧しい人々に分けた。戦災孤児や売られかかっている子供を助けた。そうしていくうちに義賊風盗賊の名は広まり、子供たちを仲間にする中で、集団は百名にまで増えた。


「雷様の姫が、なんで大黒屋を見張っていたんだい?」

 誾千代は大黒屋が島津の手先であること、島津と戦いになりそうなので動向を探っていることを話した。

「ふぅーん。また戦かい。」

 金牛は露骨に嫌そうな顔をした。

「戦はご免だが、大黒屋はあたいらも探っていたところさ。蜊(あさり)!」

「へい!」

 大黒屋で見かけた身の軽い娘が目の前に片膝を突き畏まった。

「大黒屋自体には怪しいところは無かったんだね?」

「へい、皆目。」

「だがね、大黒屋がこの辺の子供を攫ってまわっていることにゃ確かな証拠がある。船で明や朝鮮の遊郭に高値で売り飛ばしてやがるのさ。そしてその船が今晩、姪浜から出港する。あたいらにゃ、それを阻止しなきゃならない理由がある。美馬!」

 紫の小袖を着た娘が畏まった。

「この娘の妹がさらわれた。間違いなくその船に乗せられる。妹も風盗賊の仲間だ。他の攫われた子供も同様、必ず助ける。」

 誾千代は、聞いていて腹が立ってきた。島津は人さらいもやらせて金を稼いでいるのか?だったら許せぬ。大黒屋もその中心なら許すことはできない。いつぞや、柳川で法姫と自分を攫おうとしたのも大黒屋ではないのか?

「わしも行く。わしも連れて行ってくれ。」


(五)

 夕刻の姪浜はしんと静まり返っていた。船着き場には船の姿も人の姿もない。誾千代と金牛率いる風盗賊精鋭十名は土手の裏に身をひそめて様子をうかがっていた。

 突然、街道から荷車を引く音が聞こえてきた。牛が引く五台の荷車に、繋がれた大勢の子供たちの姿が見える。美馬が刀に手をかけるのを金牛が制した。

「まだ早い。船の中の子供たちも助けなきゃ。船が碇を下げ、艀を下ろした瞬間を狙うんだ。」

 荷車は屈強な男たち二十名ほどが運んでいる。人数は劣るが、不意を打てば十分勝機はあると金牛は考えた。

 男の一人が海に向けて松明を振る。海からも光の明滅が返される。船が来たようだ。

「なんだ、あれは?」

 金牛が思わずつぶやいたのは無理もない。安宅船より一回りは巨大な黒い船、黒地に大黒天の像が白抜きされた帆を張ったそれが想像以上の速さでやってくる。度肝を抜かれていると、岸に近づいたそれは、図体に似つかわしい巨大な碇をぶんと海に下ろした。綱ではなく鉄鎖で繋がれた碇。ほぼ同時に、船尾から折りたたまれた大きな板がぎりぎりと岸に向かって延ばされた。

「しまった!」

 金牛が奥歯をギリギリと噛む。

「荷車のまま乗り込ます気か。そんなことが出来る船があろうとは、これでは艀を使う場合と比して、相手に隙が出来無さ過ぎる。」

「じゃあ、どうすんのさ!」

 荷車に妹の姿を見つけた美馬が攻める。

「あの大きさだ。船の中の備えは五十名を超えるはずさ。隙をつけない以上、今回は諦めるしかない!」

 金牛は苦渋に満ちた表情だ。

「馬鹿言ってんじゃないよ!手前ぇの身内じゃないからだろう!このまま船に乗せられて、異国に売り飛ばされたら、探すのは殆ど不可能じゃないかい。もう良い、あたしは一人でも行く!」

 走り出そうとする美馬を北斗が押さえる。

「気持ちはわかる!しかし、今行っても犬死にだぁ。ここはこらえろ、なぁ、なぁ!」


 荷車が積み込まれ、帆が強く張られる。鉄鎖が巻きあげられ、碇がぎりぎりと引き上げられる。

「奇襲するなら今だ!勇気ある者は続け!」

「な!」

 突如として走り出した誾千代の後ろを、金牛が泡を食いながら追いかける。

自然に風盗賊の精鋭十名も後を走る。

 どぼん!!

 誾千代は勢いよく海に飛び込むと、ゆっくり引き上げられる碇に飛びついた。

「まったく何て姫様だ!」

 金牛は後ろを振り返って叫んだ。

「風盗賊、ここが命のかけ時だ!いっくぞー!」

 そう言うと、ざんぶと海に飛び込んだ。風盗賊の精鋭も次々に飛びこみ、鉄鎖に掴まっていく。


(六)

「ぎゃっ!」

 一番に甲板に飛び込んだ誾千代が転がりながら、次々に小束を投げ、喉にそれを受けた猛者たちは血を吹き出しながら倒れていく。なんだなんだと大騒ぎになる甲板に次々と飛び込んでくる風盗賊たち。

 金牛は背中の大刀を振るって斬りまくり、紅猿は男どもを捕まえては次々と頭突きで額を割っていく。北斗は両の拳に鉄輪をはめて群がりくる敵を殴り倒し、蝙蝠は怪力を活かして大の男を次々海へ放り投げる。飛天は帆から下がった綱にぶら下がり、それを揺らした反動で当たるを幸い蹴り飛ばしていく。大きな甲板の上は大混乱となったが、風盗賊の奇襲は成功し、もう少しで制圧できそうに思えた。


「美馬、妹を、三途を探しな!」

 金牛の指示に、美馬は船底へ向かう扉へ駆け込もうとした。まさにそのとき、どんと扉が開かれ、船底から人が上がってきた。

「三途!」

 首筋に小刀を当てられた妹の姿に美馬は悲痛な叫びを上げた。

「泥亀、この野郎!」

 北斗が叫ぶ。小束を片手に、金牛の背中に背中をつけながら誾千代が聞いた。

「誰だ?」

「あいつが大黒屋の頭・泥亀さ。」

 ずんぐりむっくりした脂肪塗れの男だ。しかし、大黒屋の主人は確か喜内という名ではなかったか?

 だみ声がいやらしく響いた。

「げへへへへ、お前ら武器を捨てろ。さもないと、この白い喉にぶすっと行くぜぇ。」

「てめぇ!」

「金牛よ、この人数で攻めてきた勇気は褒めてやるが、ちいと頭が足りなかったようだな。この泥亀様はここが違うのさ、ここが。」

 泥亀が左手人差し指でこめかみのあたりを繰り返し指す。

からん、からーん。

 風盗賊の武器が甲板に放り投げられた。誾千代も小束を捨てた。

「ふんじばれ!」

 誾千代も金牛も縄で後ろ手に縛られた。

「ひょひょひょ、思いもよらぬ土産まで出来た。今宵は大漁じゃわい。お前ら、酒盛りの用意だ!」

 うぉーっと歓声が響いた。そのとき、手下の誰かが言った。

「なんだ、なんだこりゃぁ!」

「どうした!?」

「き、霧が…!」

「馬鹿な、ここは海の上、しかも冬だぞ。」

 いつの間にか、一間先も見えないような濃厚な霧が船を包んでいた。冬の玄界灘ではありえないことだ。


「うわーっ!!!」

「今度は何だ!」

「船、船が、…ぶつかるーっ!!」

 目の前に、泥亀たちの船より一回りは大きい船が忽然と現れ、こちらに向かって進んでくる。

 白い帆に大黒天の像が描かれているのが見えた。

 ずーん

 船と船が激突し、泥亀たちは衝撃で甲板をゴロゴロと転がった。

 ひゅるるる

 ぶつかった船から何本もの鍵縄が飛んできて、帆柱や甲板に突き刺さる。

 その鍵縄を伝って、次々と男たちが甲板に降り立つ。

「よぉ、泥亀!久しいな。よくも大黒屋の名を語ってくれたな。今度はどこのだれと組んで悪事を行っているんだ?」

 六尺豊かで相撲取りのような大男が話しかける。

「に、仁王!」

 泥亀の額に粟のような汗が浮かぶ。

「お前ら、海に関わるもんなら聞いたことがあろう。わしは日向水軍の元締め、鯨殺しの権六だ。手向かいするなら、九州最強の日向水軍が相手になるぜ!」

 背は六尺に届かぬものの、固太りの筋肉の迫力は「仁王」と呼ばれた男に劣らぬ体中傷だらけの男が叫んだ。泥亀の部下たちは、それを聞いて一斉に武器を捨てる。

 目を白黒させていた泥亀は、傍らに勝機が残っているのに気付き、手を伸ばしてその襟首をつかんだ。

「きゃぁぁぁ!」

「三途!!」

「仁王、権六、手前らこそ武器を捨てやがれ。人質が目に入らねえのかよ。」

「相変わらず汚い奴だな。」

「ほざきやがれ!」

 ずだーん

 右手を抑えた泥亀がうずくまった。

 霧と硝煙の向こうに三つの人影が見える。

「三郎、御苦労。」

 身の丈は六尺はるかに超えるが、鶴のように痩せ、白髭を三日月のように上方に反り返らせた老人が、鉄砲をもった若者と小柄な老人と共に現れた。

「殿、この処置は?」

 仁王が聞いた。

「捕まっていた子供らは家へ帰してやれ。泥亀とその一党には聞くことがある。聞き終われば菱刈の金山行きじゃな。喜内よ、船は大黒屋のものにせよ、ただしこの趣味の悪い色は塗り替えてな。」

 帆を眺めながら言った老人は、縛られた金牛たちの方へ向かった。

「この風盗賊とやらいう賊も金山へ送りますかな?」

 小柄な老人の問いに背の高い老人は頭を振った。

「いや、聞けば義賊という話、逃がしてやれ。」

 金牛たちから安堵のため息が漏れた。

 老人はそのままつかつかと誾千代の方に歩き、顔を見つめると、白い歯を見せてにぃと笑った。

「立花の姫、数ヶ月前に見かかったが、また会うとはよほどの縁じゃの。」

 そう言われても全く覚えが無い。

「お前は何者だ?」

 ははと老人は笑い。白眉の下の目をぎょろりとさせて言った。

「これは失礼。これなるは薩摩島津家の臣、梅北左衛門尉国兼でござる。」


(七)

 あれが梅北、島津で最も恐るべき者


得体が知れないというのが、まじまじと見た今の感想だ。

海の上に突然発生した霧、鮮やかな奇襲の手並み、引き上げの速さ

とにかく、初めてだらけで訳がわからない。

遠くなる二艘の船を眺めながら誾千代は思った。

その誾千代の袖を引く者がいる。


「今回は世話になったな。」

金牛の礼に誾千代は頭を振った。

「わしは何もしておらぬ。」

「いや、あんたの勇気が無ければ、虚しく敵を逃がすところだった。三途も二度と帰らぬところだったよ。本当に世話になった。」

 金牛以下、風盗賊は誾千代の前で平伏し、誾千代は何度も頭を振った。

「戦はご免だが、困ったことがあったらいつでも手を貸すぜ。」

「いつでも!」

「姫様のためなら!」


 風盗賊の精鋭が口々に叫ぶ。誾千代は照れたように再び海を見た。

 二艘の船は闇に溶けるようにいなくなっていた。



















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