第28話 後宮の黒幕

 アルトはフォルテが目覚めたと聞いて、さっそく部屋を訪ねる支度をしていた。

 まずは王としてではなく、剣士アルトとして事情を説明するため、黒髪のカツラに変装していた。


 フォルテの正体を知っていること。

 ヴィンチ家の陰謀について。

 今後のフォルテの処遇。


 それらの説明を終えて、すべて納得出来た所で自分が王だと伝えるつもりだ。

 そして正式な手順をふんで、結婚を申し込もうと考えていた。


「まったくクレシェンのやつめ……」

 アルトはため息をついた。

 

 昨夜ダルを連れて早々に戻ってきたアルトを見て、クレシェンは失望を浮かべた。

「もう帰ってきたのですか?

 会ってみたらお気に召さなかったのですか?」


「何をバカな事を言ってるんだ。みんな勘違いしているようだが、そんなつもりでフォルテの所に行ったのではないぞ。話をしに行っただけだ!」


「だって好きなのでしょう? 

 ヴィンチ家の娘なのでしょう?

 これほど良い縁談はございません。

 さっさと後宮に入れて世継ぎを生ませて下さいませ」


「バカ者! 彼女に失礼だろう。

 私は世継ぎを生むためだけに彼女を望んでいるわけではない。

 まずは彼女の王への不信感を取り除いてからの話だ!」


「そんな悠長な事を言ってる暇はないのです。

 だから女官達に夜伽の支度をさせるよう申し付けたというのに。

 王様なのだから、世の女性は誰も文句など言いませんよ」


 アルトは頭を抱えた。

 王のためならどんな悪事にも手を染める、この忠臣が仕組んだ事だった。


 忠義な男にとって、王に逆らうなどあってはならない事なのだ。


 だが……。


 アルトは自分を敬い過ぎない、自然に話しかけてくれるフォルテに惹かれていた。

 今更権力を振りかざして言いなりにさせたくなどなかった。


「フォルテの今後の対応は私が決める。

 彼女の事には手出し無用だ。分かったな」


 アルトに強く言われ、クレシェンはしぶしぶ引き下がった。




 昨晩のやりとりを思い出して、いきなり後宮に入れて夜伽をさせようとした王をフォルテはどう思ってるのだろうかと、アルトは気が重かった。


「考えていても仕方がない。

 フォルテの部屋に行くか」

 そう決意して立ち上がった所へ、霊騎士のゴローラモが突然姿を現わした。


{た、大変でございます、アルト様!!

 フォルテ様が!!}


「フォルテがどうかしたのか?」


{怪しい女達に連れていかれました!!}


「なんだと!!」



◆ ◆



 フォルテは暗い地下室で目覚めた。

 手足はとくに拘束されていない。

 窓もないうす暗い部屋は、入り口付近の燭台一つで照らされている。

 何もない狭い空間は監禁部屋のようだった。


「ここはどこ? ゴローラモ!!」

 久しぶりに会えた霊騎士の姿もない。


「一体誰がこんなところへ?」


 昨日から何が何だか分からない。


「待って、落ち着いて。最初から考え直してみよう」

 フォルテは心を落ち着け、状況を整理してみた。


「まず占い師の私を拉致して後宮に入れた」

 それは前回と同じだから、てっきり占いをするのかと思っていた。


「でも女官達は、まるで新しく入った側室のように私を扱った」

 つまり今回は占いではなく夜伽の相手として。


 そこがよく分からない。

「占い師として? フォルテとして?」


「そしてゴローラモがいた」

 おそらくフォルテが屋敷に帰った後もここに残っていたのだ。


 そこもよく分からない。

 ゴローラモは霊なのだから、自分の意志でどこにでも行けるはずだ。


「じゃあ、ゴローラモは自分の意志でここに残ったの? どうして?」


 でもそれよりも、フォルテは重大な事に気付いた。


「どう言う理由にせよ、私は新たな側室のように後宮に召され、女官が言うには久しぶりの王様のお渡りがあった。それはつまり……」


 嫌な予感がする。


 後宮の黒い噂……。


 王様の子を生んだ側室はことごとく殺され、やがては少しお気に入りになっただけで不審な死を遂げた。


 つまり……。


「私をここにさらった相手こそ……」


 側室殺しの黒幕……?


 その時、薄闇に見えるドアがガチャリと開いた。


 そこには二人の侍女を従えた人影が……。


 その真ん中に立つ人物は……。



「まさか……あなたが……」



◆ ◆



「本当に彼女なのか?」

 アルトはダルの体に入った霊騎士に尋ねた。


「はい。間違いありません。

 あの侍女達の装いは、あの貴妃様です。

 そしてそのエリアにフォルテ様を運ぶのを見届けてきました」


 二人は精鋭の隠密数人を従え、目的の場所に向かっていた。


「だが信じられない。

 彼女は一番関係ないと思っていたのに……」

 アルトは予想外の名前に驚いていた。


「とにかく直接確かめるしかない」


 アルトは剣士姿のまま後宮に足を踏み入れ、貴妃のエリアに辿り着いた。

 入り口を守る侍女二人が、アルトの姿に青ざめる。


「王様……! 

 このような時間に何用でございましょう」


「何用かは分かっているはずだ。入るぞ!」

「あ! お待ちを……」


 侍女の制止も聞かず、アルトとダルは隠密を引きつれ力ずくで通り抜ける。


 ずかずかと進むアルト達に、正面から歩いてきた貴妃が目を丸くした。


「お……王様……」



 その貴妃は……。


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