第27話 フォルテ、ゴローラモに再会する
翌朝、目覚めたフォルテは自分がどこにいるか分からなかった。
「ここは……?」
どこまでが夢で、どこからが現実か分からない。
「お目覚めでございますか? お嬢様」
部屋の隅に控えていた女官が、すっとベッドのそばに来て頭を下げた。
「あの……私は昨日……」
「手足にお怪我をされてましたので手当てさせて頂きました」
見ると擦り傷に薬を塗って、ひどい所にはガーゼが巻かれていた。
「あの……王様は?」
「気を失ったお嬢様をベッドにお運びになってから、ご自分の部屋に戻られたようでございます」
「気を失った?」
だんだん思い出してきた。
ゴローラモが言ってた通りの贅肉オバケのデブだるま……いや、もっと妖怪じみた顔で不気味に微笑んでいた。本当に恐ろしかった。
でも、そういえば……。
フォルテ様と私を呼ばなかったか……?
いや、そんなはずはない。
王様が私の名を知るはずもないし、まして様をつけるはずはない。
夢とごっちゃになってるのだ。
「あの……ベッドに運んだだけで?」
自分の衣類を確かめる。
昨日着替えさせられたそのままで、特に異変はない。
ほっとした。
「はい。ひどく沈んだ様子でございました」
「沈んだ?」
顔を見て気絶した事にショックを受けたのかもしれない。
いくら恐ろしい人相だからといって、悲鳴をあげて気絶されたら傷つくに違いない。
(人相ほど悪い人じゃないのかしら……)
でも悪い人じゃないからって、いきなり後宮に入れられても困る。
フォルテにとっては自分達姉妹を不幸にした仇といってもいい存在だった。
そんな男の一夜の相手にされるなんて言語道断。
絶対イヤだ!
「あの……家に帰りたいのですが……」
「その事につきましては朝食の後、アルト様がご説明に来られるそうです」
女官はそれを伝えるために目覚めを待っていたらしい。
「アルトが?」
フォルテはその名を聞いて心からほっとした。
「アルト様でございます」
女官はわざわざ訂正してから出て行った。
一人になったフォルテはなぜか心が弾んだ。
「アルトにもう一度会えるなんて! そうだわ、ピッツァのトマトソースの事を伝えなきゃ。
きっと喜ぶわ。あれ? でも私はどういう姿で会えばいいの?
女官のフォルテ? それとも青の占い師? え? ベールをつけた方がいいのかしら?」
フォルテはベッドから抜け出て、自分が着ていた青のドレスを探した。
そして鏡台の横に目をやって……。
「ぎゃあああああ!!!!」
危うくもう一度気を失いそうになった。
そこには……。
陰鬱なオーラを放つ
いや、もとい。
見間違いかと思ったが、まさかこの姿は……。
「ゴローラモ?」
この世に未練を残し成仏出来なかった空気を背負ったゴローラモが……。
「もう! びっくりするじゃない!
そんな暗い姿で部屋の隅にたたずんでるから幽霊かと思ったじゃない!!」
{わたくしは、まさしくそのお先真っ暗の幽霊でございます。
ええ、ええ。おぞましい姿で人を驚かせるのが本業でございますとも。
今までが幽霊の本分を忘れ前向き過ぎたのでございます}
「そんな似合いもしない幽霊のフリはやめてちょうだい」
{どうせ私は主君を気絶させてしまうようなダメ幽霊です。
もう私の事など捨て置いて下さいませ}
「なに
そんな事より今までどこにいたのよ!
心配したのよ!」
{そ、それは……}
「そういえば、ゆうべついに王様に会ったわ。
ゴローラモの言う通り、それは恐ろしい顔をしたデブだるま……いえ、肉付きのいい顔だったわ」
ゴローラモは、ずん! と落ち込んだ。
もう二度と人をデブだるまなどと陰口を叩くのはやめようと心に誓った。
今日はその肉布団……いや、ダルの体は置いてきていた。
ゴローラモの姿を見せて、まずは安心させよとアルトに言われてきたのだ。
{実はフォルテ様……}
ゴローラモは先に伝えていいと許可をもらった内容を言おうと口を開いた。
しかし、すぐにはっと口を閉じる。
「どうしたの?」
{お静かに! 怪しい気配が!}
「え?」
ゴローラモは何か気配を察知したように左右に視線を動かした。
{誰か来ます! フォルテ様、隠れて!! 嫌な予感がします!}
「ええっ? 隠れろって言われてもどこに……」
オロオロしている間に部屋に暗い影が走った。
{フォルテ様、うしろっっ!!!}
ゴローラモが叫んだ時には何者かの手刀がフォルテの後頭部を直撃していた。
{フォルテさまああああ!!!!}
ゴローラモの悲鳴を聞きながら、フォルテの意識は遠のいた……。
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