26 久しぶりの日記(後半) 11/27


 一緒にライブに行くことが決まって、チケットの話であやねに電話したときにさ、

「やっぱり美紗都さんの声っていいな……」って言ったんだよね。嬉しかったけど、ダメでしょって感じ。


 私って、もう素直に喜べなくなったのかな?

 もう期待するのが怖いんだと思う。

「ひょっとして、あやねはまだ私のことを……」って期待するのが辛いんだ。これが素直に喜べない原因だよね。


 そういえば、ミスチルのライブに行く前の話なんだけど、定期演奏会の前日に先生レッスンをしたでしょ? 夏のあの時期に吹いた曲の練習だったから、昔のことを思い出し始めてしまい大変だったよ。あやねとライブに行くことが決まった直後だったせいもあるんだろうね。

 この日、あやねが電話してきたんだよね。なんの要件もないくせに、電話をしてきたんだ。

 でも、かかってくる気がしてた。私はあやねと同級生の子と一緒にいて、しかも二人で帰ったから、あやねは私のことを遠くからちらちらと見ていたよね。

 あやねはすごくさみしがり屋だもん。すごく女の子らしい、さみしがり屋なんだと思う。

 大里君のとこに戻ってないからさみしいのかな。

 私とそばにいれないことも……さみしいって少しは思ってくれているのかな。

 電話でね、あやねはこういったんだよ。

「今日みたいに……また美紗都さんに電話してもいい? 話をしてもいい……?」って。

 私は「いいよ。もちろんいいよ。」って言ったんだ。

 ほかの人に言わせると、私の対応は甘すぎるらしいし、磯山彩音という女は、つくづくめんどくせえ女だ、ということらしい。

 結局、いまもあやねのことが好きなんだろうな。


 定期演奏会当日は辛かったな。最近の流れが、私に昔のことをいやでも思い出させたし。

 後輩には、「何かあったんですか?」「大堀さんなんか辛そうですよ?」「元気だしてくださいよ」って言われるの。打ち上げの場所も、あの沖縄に送り出すときと同じ場所だったから、あやねのことを思い出してしまって。

 フルートパートの二次会でね、何も知らない後輩に、「そういえば、美紗都さんは背が高いから本番衣装カッコイイって、彩音ちゃんがいってましたよ」とか言われたりしてさ。嬉しいような……辛いような。


 打ち上げのボーリング会場では、あやねがわざわざトランペットパートのとこまでいって大里君と話していたね。見ているのはほんとうに辛かったよ。

 いつもオールなんてしないくせに、あやねは何故か一人残っていて、大里君は私に「一緒に帰る?」とも言わずに帰っていった。

 ――この後二人で会うんだろうなーって考えていた。

 真相なんてどうでもよかった。そう考えることが辛かった。ひさびさにボロボロだった。

 もう辛くて耐えられなかった。そのことが、後輩たちにバレていたんだよね。

「誰にも言わないから、相談してくれていいですよ」

 この言葉に、ものすごく救われたなあ。

 ……でも、結局なにも話せなかったよ。

 辛い時に吐き出せないって、こんなにしんどいことなんだね。


 ここまでで、定期演奏会の話も終わりだね。

 定期演奏会が終わってから、「あやねって大里君に戻ったんじゃないのー?」って、さらに思うようになった私にとっては、約束したはいいものの、ミスチルのライブを楽しんでこられるかほんとうに不安でした。

 でも、楽しみではあったんだよ。


 最初はごちゃごちゃ考えたりもしたけど、近づくにつれて、あやねと大切な時間を過ごしたい! って想いだけになってた。もう、大里君と戻っていてもいいから、何か特別なことが起きませんように。無事、二人でライブに行けますように。二人で楽しんでこられますようにって、ずっと願ってたんだ

 なのにね……ライブ前日はちょっぴり大変だったんだよ。

 ひょっとして二人で行けないんじゃないの? って思いました。

 一ヶ月半ぶりかな? とつぜん大里君から電話がきたんだよ。


 「……いまどこ?」

 「もう家着くところだよ」

 「明日の練習ってどこだっけ?」

 「さくらホールだよ。外部練習の日だからね」

 「そっか……。うんそれだけ……。では」

 家に帰ってからも、また大里君から電話がきた。私はその電話にでなかった。そしたらメールで「家についたら連絡ちょうだい」だってさ。正直、前日に大里君と話しなんてしたくなかった。


 私は大里君に、「それって、大切な話なのかな? 大里君が嫌でなければ、その話はあさってにしてもらえないもの? 日曜日ならいくらでも聞くからさ……そうしてもらえると嬉しいです」ってメールを送ったんだ。

 そのあとも、しつこく大里君からの電話は来たよ。

 「美紗都って明日部活くるの?」

 「……いかないよ」

 「練習場所が遠いからか?」

 「違うよ」

 「なんで部活行かないの?」

 「ちょっとね……」

 「……なるほどね。じゃあ……俺も部活行くのやめよっと」


 電話後の、勝手な私の予想ね。

 あやねと大里君は戻っていないのかもしれない! そして、大里君は私と元の関係に戻りたいのかもしれない。だから、昔のようにどうでもいい電話をしてきたのかな? 私が遠い練習場所であるさくらホールに行くなら、遠いけど俺もいこっかなって。


 ……、ここでウソをついても意味ないか。そんなわけないよね。

 大里君はきっと明日私たちが二人で出掛けることをなんとなく知っていて、それに探りを入れたんだろうね。もし、あやねに行くのをやめろって言ってたらどうしようって、ほんとうに不安になった。私はもう、あやねは再び大里くんの彼女になっていると思っていたから。

 そして1時間後、今度はあやねから電話がきました。

 明日の待ち合わせ時間を確認したいだって。

 そんなのメールでいいじゃんよ! 前日にいろいろありすぎなんだよっ! 結局、真相は闇の中ままだったな。この日、二人のあいだで何があったんだろうね。


 なにはともあれ、無事当日はやってきました。

 どきどきしながらあやねを待っていました。

 靴ひものストラップ。今回のツアーグッツなんだけどね。2つ買っておいたよ。あやねに内緒で。私が来年引退するときにあげよう!そしたら私はこのストラップを携帯電話につけるんだろうな。あげるとき、あやねはもう大里君と付き合っているかもしれないから、つけろだなんていわないよ。だから、内緒で買ったんだもん。

 こんなこと考えるのが、私らしいよね。

 やっぱりあやねのこと、まだ好きなんだよ。


 ミスチルのライブ。

 ものすごくよかったね。

 本当に不思議な空間の中にいた。涙が止まらなかった。幸せだったんだなってほんとうに思った。あやねと過ごした時間はやっぱりすごく素敵な時間だったんだって。辛いことも多かったけど、もしあのとき、想いを伝えあっていなかったら、私はこの感じている幸せな気持ちを知らずに終わっていたわけだから、やっぱりあやねを好きになってよかったって思ったんだよ。


 あやねが横にいてくれて……うん。

 生きている恋愛を、私とあやねはしたんだなって思った。

 いまこのノートを書きながら、また泣きそうになりながらひとり部屋でアルバムを聴いていてさ、ほんとうにこう思うんだよ。

 やっぱり私は幸せだったなって。


 ライブが終わって、私が帰ろうって2回言ったのに、あやねは帰ろうとしなかったね。結局終電までいて、私の帰りに道に合わせてくれたから、遠回りして帰ったんだ。

 うん。嬉しかったよ。歩くときつかんでくれるのも、電車の中で寄りかかってくれるのも……、すごくうれしかった。


 でもね、同時に切ない気持ちもあふれたよ。

 私は……、歌を聴きながら涙が止まらないとき、あやねの手を握りたかった。

 ほんとうは、朝まで二人きりでどこかに行きたかった。

 もっと、あやねをぎゅっとしてあげたかった。

 でも、できなかったんだ。今でもそれを受け入れてくれたのかな。すればよかったのかな。

 この日は、悲しみも喜びも味わえてよかったんだと思う。


 そうだ、この日一番切ないなって思ったことを書いておきます。

 今日から、また私はあやねとメールもしないし、部活でも話しかけないんだろうと思うんだ。私にとってあやねはまだ友達じゃなくて「恋人」だから、普通に接することができないの。そうだとすれば、次に接するときは、もう私が恋心を抱いていないときかもしれないよね。昨日の別れって、本当の別れだったんだなって、そう思ったんだよ。

 この4冊目のノートはね、あやねに渡しづらいよね。3冊目は渡す気になれないし。素敵な1~2冊目は、またあやねに渡すよ。そういえば、いつ返すってあやねに言ってないんだよね。


 いまのところね、あやねが友達に戻ったときかなと思う。

 そしたら、あやねと話したいこと、いっぱいいっぱいあるんだ!

 私の新しく好きになった人の相談をしよう! いま話せないでいることを、すべて話そう! 昔のように毎日メールをしよう! それも、素敵なんだなって思う。

 ずーっとあやねを好きなら、忘れるためにこのノートを書き続けるかもしれない。このノートをあげるときが、あやねを忘れるときな気がするんだ。

 いやあ、久しぶりにたくさんノート書いたよ。

 あやねも元気しててね。


 

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