19 三冊目 遠くの方へ 9/26~10/2

三冊目


〇2005年9月26日(月)


 26日のことは、あやねにあげた2冊のノートに書いたから、ノートを渡した後の話を書こうと思います。ノートを手渡したとき、あんまり私を見てくれなかったのはなぜなの? はずかしかったのかな。駆け足で渡しちゃった。


 あとで電話をくれたね。

 あやね、本当に喜んでくれたね。

 ありがとうって何回いってくれたかな。

 ううん。こちらこそありがとう。私はあやねじゃなきゃこんなに愛してないよ! でも、ノート解説は恥ずかしいからやめよーね。

「もう三回も読んだよ! 今、パラパラしているよ!」だって。

 ぜひ、大切にしてね。あやねは宝物って言ってくれたね。どーか、2冊のノートが私たち二人を結びつけるものになるように、神様に祈ろうと思います。



〇2005年9月27日(火)


 今日は大里君から「助けてくれ!」ってメールがいっぱいきた。

 電車の中だけど、もう周りに隠すことなんて出来ないよね。視線が痛かったな。電車を降りたあとも、涙は止まらずに、駅のトイレでずーっと泣いてました。

 とにかく私が大事ってことを力説してくれた。


「俺もう疲れたよ。なんでこんなに苦しまなきゃならないの? 彩音も美紗都も失いたくない。今日病院に行ったら、胃に穴が開いてたよ。胃に穴が開くほど、俺弱ってるんだね」。

 大里君は私に対して、何度も何度も、

「彩音のことはあきらめてくれ! 親友なら助けてくれ!」って訴えてきた。

 ごめんなさい。

 私は、あきらめられないよ……。

 大里君を助けられないよ。私は親友失格だよ。

 泣くことしかできなかった。いま、あやねをあきらめたら後悔する。

 だって、いままでの人生のなかでこんなに人を愛したことないよ。

 それが、私にとってはあやねなんだよ。大里君、本当にごめんね。

 


〇2005年9月28日(水)


 昨日の大里君のメールの話を相談相手の高梨さんにしたら、大里君に対してなんだか怒っていて。

「うーん。まあ美紗都が悪いとはいえさ、いくらなんでも甘ったれな感じだよね。お互いに本音を言い合ったあとなんだからねえ」

 他にも、

「自分にも原因があったから、この事態とは考えないのかな。助けてって……美紗都が引いたって、解決はしないよねえ。一時的に苦しみから救うことはできるけど、助けることが彼をさらに弱くさせるって思わないのかな」だって。

 そんなふうに私は思わなかったな……。

 自分に負い目があるからか、私が甘い人間なのか、どっちかわからないけど。私は泣くだけだったなあ……。

 

今日あやねとは、「髪型ちがくないー?」「えー、めんどかったんだもん(笑)」って会話しただけ。これだけ……。

 あーあ、もっと一緒にいたいな。

 いつか、一緒にいれる日って本当にくるのかな?

 大里君は1年2ヶ月も一緒にいたんでしょ。半分というかほとんど、適当に付き合ってたくせに! これからは譲ってくれたっていいのにね!



〇2005年9月29日(木)


 今日は、高校時代の同級生である江戸川さんに初めて相談してみました。彼女とは仲良しだったんだけど、私の恋愛事情は明かせてないの。だから大里さんと、磯山君として恋愛相談。とでも、はっきりと物事を言ってくれるから、信頼はしているんだ。

 今回の話をしたらね、江戸川さんはあやねに対して怒ってた!


「なにそいつ。ほんとうに男かよ。磯山君だっけ? わたしは好きじゃないなあ。磯山君は美紗都との関係をちゃんと彼女さんに言わなきゃダメでしょうよ。なんなんだよそれ。逃げすぎだろ。だって浮気してたんだろ? なんで別れるときちゃんと言わないの。ありえん。今からでも言え! タイミングないとかもうアホかと。ケジメつけてくれよ……ねえ。結論出てからじゃ遅いじゃんねえ……」

 なんだか、文章にするとあべこべになるな。とにかくね、磯山君、つまりあやねの中途半端な態度はよくないって言ってたの。やっぱり言わないとダメだってさ。はやく大里君に私との関係を全部言ったほうがいいんだって!


「大里さんと美紗都がかわいそう。女二人を悩ませといて、なに悠長に考えているんだ磯山は。自分がラクになるまで、二人を苦しませておくのか? なんて自己中なやつなんだー!」 だって。ああ、怖かった。

 しかし、浮気かあ……。まあ、そうだよね。私は浮気相手になっていたんだよね。

 でもさあ、昨日と同じく私はこんなふうに思ったことないよ。これは当事者だからなのかな。昨日と同じく自分の意見と全然違うのがなんだか不思議な気分だよ。

 

 今日はね、あやねと公園で一晩中過ごした日から一週間なんだよ。

 信じられないよ。まだ、たった一週間?

 なんだかもう、遠い過去というか、幻というか、うまく掴むことができないんだよ。

 そして、あやねからは、まったくメールの返事が来ないしさあ。

 おーい! なにしてるのー!



〇2005年9月30日(金)


 この日は23件もあやねとメールしたんだ。昨日は友達とオールで遊んでたんだって。

 正直、私は死ぬほど不安になりました。やばいな自分……。あやねから1日ちょっとメールの返信こないだけで、ボロボロだった。

 そして、おかゆの話になって、美紗都さんが風邪をひいたら作りにいくよ! って言ってくれて、それが嬉しくて……、そして大変なことが起きたんだ。


 初めて、あやねから怒りのメールがきた。

「極端だなんて言われなくてもわかってるよ! あたしの考え方が良くないのだってちゃんと自分でわかってるもん。わかってるけど直らないんだもん! 直せるなら直したいもん! だからって、そんないい方しなくてもいいのに。もういいや……。なんか嫌な気分にさせてごめんね。おやすみなさい」だって。


 あー。あせりました。本当に焦りました。

 すぐに電話したよ! 必死に謝った。本当にごめんね。

 あやねと気まずくなるのなんて、私は絶対いやだよ!

 大里君になくて、私にあるものが失われるかと思った。結局、「美紗都さんは本当に優しいね」で終わってよかったよ。よかった……でも、本当にごめんよ。気をつけるよ……。でも、よかった……。



〇2005年10月1日(土)


 お互いのテーマ曲は『安らげる場所』だね。って言いあった日。嬉しかったなー。一生もんの曲だ。ミスチルありがとう。

 ただ、「これから先どんなことになっても……」ってのがひっかかったな。

 えっ? 大里君選ぶの? みたいな。嬉しさ80%不安20%だったよ。昨日もあんなことあったし……。かんべんしてよ。あーやめてよ。なんかあやねに選ばれない気がすごくした日だったな。

 このノートもさあ、今日はなんだか書く気がしないよ。



〇2005年10月2日(日)


今日はまた、高梨さんに今回の話を聞いてもらったよ。

「よく、そんなめんどい子好きになったね」って言われた。高梨さん、全然わかってないな。あと、「80%くらいの確率で、もう美紗都にいくんじゃない?」って言われた。客観的に見ると、私のところにくるだろうって言ってくれるんだけど。

 ほんとうに安心していいわけ?

 でも、それはみんなあやねのこと知らないからだよ。あやねが普通の女の子なら、とっくに私のところに来ている気がするもん。でも、あやねは違うよね。

 大里君のところいかないでほしい……。私、あやねと離れるのがこわいんだよ。

 でね、今日は高梨さんにこんなこと言われたんだ。


「美紗都と大里君は幼馴染っていうけどさ、親友って感じじゃないよね。美紗都は恋愛事情を告白出来ていないしさ、何よりも美紗都は彼の悪いところ全然指摘してあげてないじゃん。そんなの親友って言わないんだからね」

 これは……、辛かったな。

 高梨さんには言えないけど、やっぱり大里君は特別な存在なんだよ。

 それにしてもだ。大里君に、女の子を好きになるってこと、言う日がくるなんて夢にも思わなかったな。大里君は、いま私のことをどう思っているんだろう。

 ……、なんかもう嫌だな。こんなことをぐるぐる考えてばっかり。いつまで続くのかな。はあ。

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