第9話 錆びた心
翔さんと恋人同士になったという実感がないまま迎えた日曜日。わたしは少し、起きる時間が遅くなってしまった。目覚まし時計をかけておいたはずなのに、二度寝をしていたようだ。まだ午前中だったが、もう十一時を過ぎている。
昨日は寝付くのに時間がかかった。それが主な原因なのだろうか。それにしても、寝過ぎてしまったことにはかわりないのだ。
誰かと、このような関係になるのは、あの人以来だなと考えながら、着替えをして掃除機をかける。そういえば、初めて翔さんと出会ったのは、あの人のお墓参りのときだった。つまり、翔さんも誰かのお墓参りで墓所に訪れていた可能性が高い。
なるべく近いうちに話そうとは思うのだが、うまく話せるだろうか。わたしは会話がうまいほうではないから、心配になる。口下手な人間であるわたしが、生き残るには厳しい世の中だ。
洗濯機を回転させながら、昨日書店で購入した本を棚にしまう。それから、お湯を沸かして紅茶を入れた。わたしはいつも、ストレートで飲むのでミルクも、砂糖も、レモンもいらない。
一応、メールのチェックをしてみるが、新着メールはなかった。
この前のサラダの残りがあったはずなので、それを探すために冷蔵庫に行く。
あったが、レタスのアクが出てしまっていた。わたしはそれを水洗いする。ザルに入れてから、タオルの上にレタスを載せて、タオルで挟み込むようにして水気を切る。
サラダボウルに盛りつけて、ちょっと迷ってから苦手なトマトを加えることにする。トマトの独特の味がわたしは苦手だった。六等分のくし切りにしてから、そのうちの半分を盛り付ける。これで出来上がりだ。
テレビの娯楽番組をつけてみれば、お昼が近い。これは昼食だなと思いながら、サラダをいただいた。
洗濯機が置いてあるほうから、電子音が聞こえた。洗濯が終わったようだ。部屋の中に、洗濯物を干してから、わたしはいつものスーパーへ行く。夕方でも良かったが、混むので今から行くことにした。
一通り見て周ってから、久しぶりにしょうが焼きでも作ろうと思った。今日はレタスの代わりに、キャベツを買う。すでに千切りにされてパック詰めになっているものだ。紫キャベツも入っているから、彩りとしてもいいはずだ。
帰り道、公園で遊ぶ子どもたちをみた。子どもは元気だ。
自分の部屋へと戻り、食材を冷蔵庫にしまう。今までは淡々と日々を重ねるだけだったが、翔さんと出会ってから何かが少しずつ変わっていることに気づいていた。たぶん、錆びた心にじょうろから優しい栄養が降り注いでくる、そんな影響なのだと思う。
わたしは、明日からの一週間がひどく長いものに感じだが、それは嫌なものだとは思わなかった。
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