10 化け物じゃない

 ほっと息を吐き、僕は幕から離れる。


「えっと、改めて、ありがとう。助かったよ」


 頭を下げて感謝を伝える。


「それより、どこか噛まれてない?」


 僕を引っ張り上げてくれた人が、いきなりそんなことを聞いてくる。僕は頭を左右に振った。


「大丈夫。軽く怪我はしてるけど、噛まれてはないよ」

「そう、ならよかった」


 安堵したような吐息とともに、言葉が吐き出された。


「それじゃあ、ここを離れましょ。舞台裏にいた方が安全だから。話はそれからね」

「うん」


 布一枚越しにネイビーの大群がいるというのは生きた心地がしない。僕としても早々に移動したかったら、彼女の発言から間を置かず頷いた。


 先導するように前を歩く二人についていき、舞台裏に移動する。帰宅部といえど、体育やらで何度も舞台裏に入ったことはある。

 細い道の最中で、二人が立ち止まった。彼女たちの目の前には扉が一つある。確かここは、体育用具を仕舞っている部屋のはずだ。


「入るわよ」


 一言発して、二人が部屋の中に入っていく。僕も後ろに続いて入室した。天井近くの壁に取り付けられている小窓から射す光が、室内を照らしている。

 見渡すと、何度か見たことがある通り、用具で詰まっている部屋だった。とても広いとは言えない。


「おい、勝手に入ってくるなよ」


 不機嫌そうな男の声が静かに響く。声の主へと視線を向けると、そいつは部屋の端に置かれたマットの上で胡座をかいていた。金髪が特徴的な、つり目の男子生徒。


 見たことがある。去年同じクラスだったやつだ。

 確か名前は……高山孝史。

 目立つ人で、よくふざけては先生に叱られていたのを覚えている。僕はあまり関わらなかったから、ほとんど話したことはない。


 彼は睨むような目つきで僕を助けてくれた二人の事を見て、最後に一際強い眼光を僕に向けてくる。


「ちゃんと入るって言ったでしょ。そもそも、ここはあんたの部屋でもなんでもないし」

「そうですよ」


 二人の言葉に、彼は舌打ちをしてからそっぽを向いた。


「あんなやつは放っておきましょう。さ、適当なところに座って」


 促されるまま、僕は入り口付近に腰を下ろす。

 二人も空いた場所に座り、短く息を吐き出した。


「それで、あんたは……知世の幼馴染みくんだっけ?」

「えっ、ああ、うん、そうだけど……」


 突然知世という言葉が出てきて、少し頭が混乱してしまう。

 でも考えてみれば、知世は友達が多かった。その一人がここにいてもおかしくはない。僕のことまで伝わっていることは驚きだが。


「一応、名前は天谷亘哉だから」


 僕の名前まで知っているかはわからないので、伝える。


「亘哉くんね、わかった」


 彼女は頷く。


「あたしは佐々木絵美。三年二組ね」


 佐々木さんは、僕を舞台に引っ張り上げてくれた人だ。黒髪を肩口で切っていて、運動少女といった印象を受ける。

 その隣にいた女子生徒が、あの、と声を上げた。


「私は森田未央、です。二年です」


 亜麻色の髪を右側頭部で一括りにしているのが、防犯ブザーの未央さんだ。訂正、森田さんだ。僕に知世以外の女子を名前で呼ぶ度胸などないから、名字がわかったところで呼び方を変えておく。


「で、そこで偉そうに座ってるのが高山孝史。あたしたちと同じ三年よ」

「うん、知ってる」

「そうなんだ。じゃあ自己紹介も終わったことだし、話をしましょう」

「話って?」


 僕がそう返すと、佐々木さんが何か言う前に高山が割って入ってきた。


「お前が、よくもここに来てくれたなって話だ。無駄にゾンビ共を騒がせやがって。どっかでおとなしく食われてればよかったのによ」

「あんたッ、何言ってんの!」


 怒声を上げて佐々木さんが立ち上がる。


「ちょ、ちょっと、絵美先輩。静かに」


 森田さんの注意により、佐々木さんは無理矢理怒りを静めた様子で座り直した。


「オレが何か変なこと言ったかよ。せっかくここで静かに潜んでたっていうのに、こいつが騒ぎを起こしやがったんじゃねぇか」

「あんたねぇ……っ」

「いや、そうだね」


 佐々木さんがまた声を荒げる前に、僕が口を挟む。


「不用意に体育館に入ったのは、僕のミスだよ。逃げ場がなかったとはいえ、軽率過ぎたよ。体育館にあれほどネイビーがいるなんて思ってなかった。ごめんなさい」

「ふんっ、わかってんなら、さっさと出て行け」

「出て行けはないでしょ、出て行けは」


 佐々木さんが高山に近づいて、頭を叩く。


「いてっ。てめぇ……今度やったら許さねぇからな」


 高山は佐々木さんを力強く睨みつける。


「はいはい。それと、あんたも」


 そう言って、佐々木さんが僕の頭を軽く叩いてくる。痛みを感じるほどではないから、高山が受けたものに比べれば全然ましだ。


「何があってここまで来たのかしらないけど、仕方なかったんでしょ?」

「まあ、そうだけど……」

「じゃあそれでいいでしょ。仕方なかった、で終わりよ。ミスとか軽率とかどうでもいいわよ。まして謝ることなんかない」

「でも……」


 謝るべきだろう。

 僕の軽率な行動で彼女たちに迷惑をかけ、危険に晒した。

 健二郎に図書室までネイビーを誘導するように言ったことと、同じだ。結果的に健次郎は無事だったが、そうではない可能性の方が高かった。

 また同じような罪を重ねてしまったのだ。


「あたしたちは、亘哉くんを助けた。亘哉くんはあたしたちにありがとうって言ってくれた。それだけで、いいの。本当に」

「絵美先輩……」


 佐々木さんの瞳は、潤んでいた。

 涙を流しはしないが、その一歩手前の状態だ。


「ううん、一つ、言い忘れてた」


 佐々木さんは何度も瞬きをして、目元を指でふき取る。

 それから、真っ直ぐに僕を見た。昨日までの僕なら、女子に見つめられれば照れて目を逸らしたりしただろうが、色々あったせいかこの程度で何も感じない。

 見つめ返すと、逆に彼女が照れた様子で小さく笑みを作った。


「ちょっと遅くなったけど……どういたしまして」


 たった、それだけでいいのか。

 僕は彼女たちの居場所を荒らしたようなものなのに、これだけで許されるのか。

 いや、そもそも彼女は、今回のことを罪だとは感じていないようだった。


 心の底から笑いがこみ上げてくる。顔にも声にも出さないが、心の中だけで声を大にして笑った。

 これは――安堵の感情だ。


 僕の罪を罪じゃないと言われたことに心の底から安心して、緊張が緩み、笑いが飛び出してきたのだ。

 もちろん今までの罪が消えるわけではないが、それでも救われた心地だった。悪いことをして叱られると思っていたのに、優しく抱きしめられたような感覚だ。


「ありがとう、ありがとう……」

「そ、そんなには言わなくていいんだけど」


 何度となく感謝を口にする僕を、佐々木さんは困惑顔で見つめていた。


「色々と逸れちゃったけど、話をしましょう」


 佐々木さんの言葉に、僕は頷く。


「話っていうのは、端的に言って、外のことよ」

「外っていうと、体育館の外? それとも学校の?」

「どっちも気になるけど、今は体育館の外かな。実はあたしたち、この騒ぎが起こってからまだ一度もここを出たことがないのよ」


 それは外のことが気になるだろう。


「まあ、僕も正直あんまり把握してないんだけど」

「それでもいいから」


 何から話したものか。考えていると、僕の腹の虫が騒ぎ出した。ようやく落ち着いた状況になって、活動を再開したのだろう。


「お腹減ってるんですか?」


 僕がお腹を押さえていると、森田さんが訊ねてきた。


「そりゃあね。食べ物なんかないし、昨日の昼から絶食状態だよ。朝に飲み物飲んだくらいかな」

「あ、それなら、これどうぞ。絵美先輩、いいですよね?」

「もちろんよ」


 森田さんが近くにあった鞄から取り出したのは、菓子パンだった。ナイロンの包装が施されたそれを見るだけで、涎が溢れてくる。


「それとこれも」


 また別の鞄から、スポーツ飲料を出して渡してくる。


「いいのか?」

「よくねぇよ。大事な食料を余所者にあげるなよ」


 高山がそう言うと、佐々木さんが彼を睨んだ。


「余所者ってあんたね、同じ学校の仲間でしょ。何を馬鹿なこと言ってんの。そもそも食べ物も飲み物も誰が集めたと思ってるのよ。あたしと未央の二人だけじゃない。あんたはそこで不貞腐れたみたいになって、胡座かいてただけでしょ」

「集めたって、他人の鞄を漁り回っただけだろ。そんなことで威張るなよ」

「威張ってなんかないでしょ!」

「ふ、二人ともやめて下さい」


 佐々木さんが高山に殴りかかりそうになったところで、森田さんが止めに入る。


「あんまり騒ぐと、ネイビーが来るよ」


 僕は佐々木さんの肩を叩く。彼女は深く溜息を吐いて、高山から視線を外した。


「なんとなくわかるけど、その『ネイビー』っていうのは……?」


 話題を変えようとしたのか、佐々木さんが訊いてきた。

 僕は森田さんから菓子パンとスポーツ飲料を受け取る。ペットボトルの蓋を開けながら、佐々木さんの質問に答える。


「ヤツラのことだよ。血とか目の色が由来。ゾンビっていうんじゃ、ちょっとね……」

「はっ、何がちょっとだ。ゾンビはゾンビだろ。あんな、化け物共」

「違う」


 高山に、僕は素早く言い返した。


「あの人たちは、おかしくなっただけの人間だ。化け物なんかじゃない。だからゾンビなんて呼ぶな」

「……馬鹿らし」


 高山はマットの上に寝転がって、それ以上喋らなかった。僕もすぐに高山から目を逸らし、ペットボトルに口を付けた。

 スポーツ飲料が体に染み渡る。疲弊した体が元気になった気がした。


「えっと、あたしたちもネイビーって呼んだ方がいい?」

「出来れば、そうだね」

「わかった。まあ、呼び方はなんでもいいってのが本音だけど」


 森田さんも呼び方を変えてくれると言い、話を戻す。


「じゃあ外の様子を教えてもらってもいいかな」


 僕はもう一度スポーツ飲料を飲んでから、話し始める。


「一言で言って、ネイビーだらけ、かな。特に校庭と正門周辺にたくさんいる。校舎は……第一校舎しかわからないけど、外に比べたらまだましかな。それでも、五十人くらいはいたんだろうけど」


 菓子パンの袋を開け、中身を取り出す。まずは一口だけかじり、よく噛んでから飲み込む。約一日ぶりの固形物の到来に、僕の体は喜んでいるようだった。ほう、と息を吐いてから、話を続ける。


「ただ、何もなかったらネイビーは階段を上らないみたいだから、ほとんどのネイビーは一階にいたよ。まあ、今はどうかわからないけど」


 健次郎が屋上まで逃げていれば、それを追ったネイビーも上階に向かっただろう。


「どういうこと?」

「事の初めから話した方がいいかな……。えーっと、今日の朝なんだけど、音が聞こえなかった?」

「そういえば、何かしたような……」

「あ、私聞こえましたよ。低い音が遠くの方で鳴ってました」


 森田さんに頷いてみせる。


「たぶんそれと同じものを僕も聞いた。それで音のする方を見たんだけど、あれは、ヘリコプターだった」

「ヘリコプター!? 助けが来るの……?」

「わからない。けど確実に来てもらうために、僕は屋上に行ったんだ。結局鍵が締まってて入れなかったけど、そこで出会った人と一緒に、鍵を取りに職員室に行った。で、色々あって、同行者に鍵を託して僕は外に逃げ出した」


 スポーツ飲料で喉を潤わせる。


「同行者はたぶん今頃、屋上にいると思う。ただあっちもネイビーに追われてたと思うから、上の方にも結構ネイビーがいるんじゃないかな、と」


 言ってから、菓子パンを頬張った。口いっぱいに味が広がり、思わず涙が流れそうになる。ばくばくと食べ進め、気がつくと手は何も持っていなかった。腹が膨れたとは言えないが、先ほどまでに比べれば随分と改善された。


「食べながら思い出してたけど、他に知っていることは特にないな。あんまり情報なくてごめん」

「ううん、十分よ」


 佐々木さんが微笑む。


「あの、同行者って誰なんですが?」


 森田さんは気になるところが残っていたようだ。そういえば彼女は健次郎と同じ二年だから、彼のことを知っているかもしれない。


「健二郎……遠藤健二郎だけど、知ってる? 二年みたいだったけど」

「は、はいっ。健二郎なら、小学校が同じです」


 異性で呼び捨てということは、それなりに知っている仲なのか。などとあまり下手な詮索はしないほうがいいだろう。


「あいつなら生きてるだろうから、安心しなよ」


 一度健二郎を死地へ向かわせたやつが言う台詞ではない。そうは思いながらも、僕はその言葉を口にした。

 知り合いが生きているというのは、きっと救いになるはずだ。他人を救うなんて資格が僕にあるかはわからないが、できるならばそうしたい。罪ばかり重ねていては、心が潰れてしまいそうになる。


「それじゃあ、目的地は決まったわね」


 突然、佐々木さんがそう言った。

 立ち上がり、僕たちを見下ろしてくる。


「屋上に行きましょう」


 僕は何も言えずに固まる。

 屋上に行きたいという気持ちはあった。しかし一時の平穏を得てしまった現在、わざわざ向かわなくてもいいのではないかという思いが強まっている。


 ここには少ないながらも食べ物があるようだし、スポーツ飲料もある。長くは持たないかもしれないが、数日は大丈夫かもしれない。だったらわざわざ屋上へ行かずとも、ここで待つ手もある。

 ヘリコプターに救助を伝える方法も、四人もいれば思いつくかもしれない。


「はい」


 森田さんが、佐々木さんに向かって大きく頷いた。彼女はどうやら屋上に行きたいらしい。


「健二郎もきっと何も食べてないと思います。だから、早く行かないと……」


 その言葉に、僕ははっとする。

 森田さんの言うとおり、健二郎もさっきまでの僕と同じように、何も食べていないだろう。上までネイビーが追ってきていたら、屋上から出ることも出来ない。そうなれば飲み物すら調達できないし、走り回って相当疲労が溜まっているはずだ。七月の上旬を、そんな状態で過ごすのは危険だった。


 健二郎を一度死地に向かわせたのだから、僕もそうしないでどうする。

 痛みも苦しみも嫌だ。そう言って、息をするだけの存在になっては、いつか限界がくる。そうなれば発狂でもするだろう。


 今の段階で、限界の端が見えてきている。だからここで立ち止まってはいけない。

 大きく息を吸う。


「行こう」


 佐々木さんと目を合わせて、言い切った。


「健次郎のためにも、僕たちのためにも」


 屋上にいたほうが、救出される確率は高いと思う。屋上にたどり着ければ、の話だが。

 僕たちが決意をしていると、ずっと無言で寝転がっていた高山が起き上がった。


「言っとくけど、オレは行かねぇよ」

「はあ? なんでよ」

「死にに行くようなもんだろ。オレはお前らと違って自殺願望なんてないからな。ま、化け物になるよりは死んだ方がましだが」


 高山がちらりと僕を見てきた。もしかして煽っているつもりなのか。わからないが、僕は何も言わずに高山を見返した。すると彼は何もなかったように佐々木さんに視線を戻し、話を続けた。


「ともかく、オレはここにいるからな。食べ物と飲み物は、全部置いてけ」

「高山……あんた……」

「そう睨むなよ。これから死ぬってやつに持たせるより、オレが使った方が有用ってもんだろ?」


 佐々木さんが高山に近づく。次の瞬間、乾いた音が響いた。高山の頬を、佐々木さんが叩いたのだ。


「おい……今度やったら許さないって言ったよな……」

「さっき叩いたのは頬よ。頭じゃないわ」

「屁理屈言いやがって」


 高山が大きく舌打ちする。


「……半分、だけだ。半分は置いて行け」

「半分ね。わかったわ」


 高山が佐々木さんにやり返すのかと思ったが、屁理屈に納得したのだろうか。よくわからないが、何もないようでよかった。


「未央、適当な鞄持ってきて」


 佐々木さんに言われて、森田さんが部屋を出ていく。鞄を持ってくるまでに佐々木さんは持って行くものを選んだらしく、森田さんが帰ってくるといくらかの食べ物とペットボトル数本を素早く詰め込んだ。


「今すぐ出発したいところだけど、作戦を考えないといけないわね」

「作戦、か……」

「ええ。まず、校舎の状況を詳しく知りたいかな」


 僕は首肯する。


「言い忘れてたけど、たぶん、第一校舎に入るのは難しい。扉は全部閉まっているはずだから」

「そんな大事なこと言い忘れないでよ。え……どうするの」

「一つだけ、確実に入れる場所がある。僕が脱出した場所――つまりは職員室の窓だよ。他の窓を割って入るって手もあるけど、それは危険が大きいから、やめといた方がいいと思う」

「そうね。じゃあ職員室の窓からってことで話を進めましょう」


 そうだね、と呟く。


「ただ問題があって、僕が出てきた時で、職員室の中には二十人くらいのネイビーがいたんだ。健次郎を追ったやつもいるだろうから、少しは減ってると思うけど、ゼロってことはないだろうね」

「そこをどうやって突破するかが問題ね」

「僕は強行突破しか思いつかないから、任せたよ」

「……そんなのでよくここまで来れたわね」

「僕も不思議だよ」


 あれほど死にたくないと思っていながら、行き当たりばったりの行動ばかりしていた。よくよく考えてみれば、何故無事なのかと疑問に思えるほどだ。


「あいつらは音に引き寄せられるから、それを利用しない手はないでしょ」

「でも先輩、もう防犯ブザーはないですよ?」

「そうなんだよねぇ……」


 佐々木さんがうーむと唸る。


「あったとしても、使うのは危ないと思うよ。音が大きすぎたら、廊下にいるやつらまで引き寄せて出られなくなるかもしれないから」


 僕の発言に、佐々木さんが「それもそうだね」と返した。


「あんまり音が大きくない方がいいのか……」


 佐々木さんは顎に手を当てて、アイデアを出そうとしている。森田さんも、僕も考えるが、なかなか出てこない。

 やはり強行突破かと考えたとき、高山が呟くように言った。


「ボールでも投げりゃいいんじゃねぇか」

「それよ!」


 佐々木さんが高山を指さす。


「何も、音が鳴るものを投げなくてもよかったのよ。ボールを投げて部屋を荒らせば、そっちにネイビーの目は向くでしょう。ボールなら扱い慣れてるから、変なものを投げるより安心できるし」


 うんうん、と佐々木さんが頷く。それから高山をじっと見た。


「やっぱり、あんたも来ないの? こんなところにずっといたって……」

「だから行かねぇよ。行ったって、死ぬかゾンビになるか、どっちかだ」

「そんなことないわよ。きっと、助けが来る」

「どうだろうな」


 高山は静かに言って、僕たちに背を向けた。


「絵美先輩、高山先輩は放っておきましょうよ。何言っても聞かないですよ、きっと」

「そうかもしれないけど……。そう、ね」


 長い溜息を吐いて、佐々木さんは高山から目を逸らした。


「じゃあ、準備してから行きましょうか」


 佐々木さんの声に、僕と森田さんが頷いた。

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