#05
「RPG!!」
ロケット弾の発射煙を認めた地上部隊の兵士が叫び、停車した三輌の装甲車から兵士達が慌てて飛び出す。だがロケット弾が狙ったのは装甲車ではなく、その後方のBSI『シデン』だった。小型ではあるが、宇宙艦が対BSI戦闘で放つ迎撃誘導弾と同様の、重力子フィールド貫通能力がある対陸戦仕様BSIロケット弾だ。
先頭を来た『シデン』が、三発のロケット弾をまともに喰らって機能を停止、膝から崩れ落ちる。そしてその『シデン』は、前方で停車していた装甲車二輌を巻き込んで倒れた。
また残る一発は最後尾にいた『シデン』の右手に命中。手首を破壊して超電磁ライフルを落下させる。膝をつき、左手で超電磁ライフルを拾い上げる陸戦仕様『シデン』。だがライフルは右手にロケット弾を受けた際、爆発でトリガー部分が破壊されていた。これでは使用出来ない。一方ロケット弾を放った傭兵は、次弾をランチャーに装着しようとしている。
その間にキオ・スー=ウォーダ軍の兵士と、傭兵達が銃撃戦を始めていた。散開した兵士達に対しガランジェットの傭兵は、シャトルの陰から応戦する。盾となったシャトルの機体は、穴だらけとなっていく。
ここで目立ったのはガランジェット自身の射撃の腕であった。ブラスターライフルを単射撃モードに切り替えると、敵兵を次々と狙撃してゆく。
「ヘヘヘッ、ヘハハハハハハハ!」
禍々しく口元を歪めて、引き金を引き続けるガランジェット。敵を撃ち殺す事に精神を高揚させているようだ。またこの男の配下の傭兵達も、凶暴な光を眼に宿している。戦場で殺人マシーンとなる、プロの兵士という感じではない。しかしその無茶苦茶にも見える猛射がキオ・スー軍の兵士達を、残った装甲車の陰に釘付けにしているのも確かだ。
すると右手は使えなくなったがまだ稼働可能な、陸戦仕様『シデン』が立ち上がりだした。それを見てガランジェットは、次弾をセット中であった、ロケットランチャーを持つ四人の兵士に命じる。
「急げっ。あのポンコツにとどめを刺せ!」
味方の猛射を援護に、次発装填を終えた四人が小走りに進み出る。ところが『シデン』のパイロットも手をこまねいてはいなかった。破損して撃てなくなった超電磁ライフルを、ガランジェット達の方へ投げつけたのだ。
「!!!!」
今まさにロケット弾を発射しようとしていた四人は、その飛んで来た超電磁ライフルから逃げ遅れ、押し潰されてしまった。他の傭兵達は逃げ出したが、さらに離着陸床を滑った超電磁ライフルは、アイドリング状態のままであったガランジェット達のシャトルの横腹に激突し、ランディング・ギアの一本をへし折ると機体を傾かせる。
この状況にガランジェットは、シャトルの陰から飛び出して、「チィ!」と舌打ちする。その目の前には、押し潰された部下の持っていた、ロケットランチャーが一基、転がって来ていた。陸戦仕様『シデン』は、腰のクァンタムブレードを左手に掴み取って起動。こちらに向けて駆け出す。人間相手に量子分解の刃を振るうつもりだ。
目の前に転がったロケットランチャーに、咄嗟に飛びついたガランジェットは、二百メートルもない距離で陸戦仕様『シデン』に向け、ロケット弾を発射した。どの一撃は『シデン』の頭部に命中し、機体を仰向けに転倒させる。爆風で吹っ飛ばされたガランジェットが、起き上がりながらノア達のシャトルを振り向くと、人質となった彼女達を傭兵達が乗り込ませていた。あとはここを脱出するだけだ。
ただ陸戦仕様『シデン』も、頭部を破壊されただけでは機能を停止しない。再び機体を起こし始める。これを見てキオ・スー軍兵士は、数名が残っていた装甲車に戻り、車体上部に装備された連装ビーム砲を起動させた。『シデン』と連動して反撃しようとしているのだ。
装甲車の連装ビーム砲が発砲。二人の傭兵の半身を吹き飛ばし、さらにシャトルの主翼に幾つもの穴を
しかしガランジェットは、不利になりつつある中でも、口元をさらに大きく歪めて「ハハハハハ!」と笑い声を上げた。その悪魔的な笑みは、殺し合いを楽しんでさえいるような印象を与える。
「面白いじゃねぇか!!」
大声でそう言ったガランジェットは、無人になってはいるが、アイドリングを続けていたシャトルに駆け込んだ。そして操縦室に飛び込むと、機体を緊急発進させる。だがそれは逃走するためではなかった。ランディング・ギアの一本を失い、斜めに着地していたシャトルは、そのままの姿勢でキオ・スー軍の装甲車と、ようやく立ち上がり、クァンタムブレードを拾い上げたばかりの陸戦仕様『シデン』へ、猛然と突っ込んで行ったのである。
気付いた装甲車が連装ビーム砲をシャトルへ向け、慌てて発砲する。穴だらけになるシャトルだが止める事は出来ない。ガランジェットは底部のタラップから離着陸床へ転がり出る。その直後、シャトルは『シデン』を足払いする格好で、装甲車と激突して爆発を起こした。
燃え上がる火柱に、夜の離着陸床も明るく照らされる。その光を浴びて立ち上がるガランジェット。別の誰かであれば英雄的とも思える行動であろう。しかしながら、火傷と生傷だらけとなったこの男の顔に浮かぶのは、生と死の狭間を甘美に思うような狂気じみた笑顔であった………
ノア姫達を捕らえたガランジェットらアクレイド傭兵団は、ノア姫達のシャトルで惑星ラゴンを離れていた。宇宙港での交戦音を聞いた軍の基地からの、増援部隊が到着するのとほぼ入れ違いのタイミングだった。
シャトルのラウンジに監禁されたノア、リカードとレヴァル、ドルグ=ホルタ、カレンガミノ姉妹は、いずれも後ろ手に手錠を掛けられ、ソファーに座らされている。羽虫型ロボットの針に刺され、気を失ったメイア=カレンガミノは、まだ意識を取り戻さない。
「姉上…申し訳ありません。私とレヴァルが足手まといになったばかりに…」
リカード=サイドゥはしょんぼりした表情でノアに詫びた。兄のリカードは十二歳。弟のレヴァルは十一歳。まだまだ少年だが、それゆえに自分達がいたせいで、姉達が逃げ遅れたのだ、と意気消沈していたのだ。そんな弟をノアは優しく励ました。
「何を、そんなこと…あなた達のせいではないわ。もっと気を強く持って」
母オルミラがドゥ・ザンと運命を共にした今、自分がこの二人を守らなければならない。自分が母上から二人を託されたのだ…ノアは内心で自分自身に語り掛け、気持ちを支えた。
「傭兵を名乗るからには、誰かに雇われているのでしょうが。何者が…」
半ば独り言のように言ったノアの言葉に、ドルグ=ホルタが反応する。
「雇い主が何者かは不明ですが…奴等が名乗った“アクレイド傭兵団”という名前には、聞き覚えがございます」
「それは?」とノア。
「数ある傭兵集団の中でも、規模は大きいものの、あまり良い評判は聞きません。戦闘能力は高いのですが、戦場周辺の一般市民にまで破壊行為や暴行、略奪を繰り返しており、それに対して暗黙の了解を行う相手とのみ契約するとか…先年のアーワーガ宙域星大名ナーグ・ヨッグ=ミョルジの軍が、ヤヴァルト宙域へ侵攻した際にも参加し、今もって皇都惑星キヨウを含むヤヴァルト星系に出没しては、暴力行為を行っているようです」
「今も?…するとあのガランジェットという男が率いているのが、全部ではないという事ですか?」
「はい。あの男は中堅クラスでしょう。アクレイド傭兵団は、各星大名家で廃棄された艦を修復した、艦隊戦力も有していると聞きます」
「それほどまでに、大きな組織なのですか?」
「はい。実態は不明なのですが…さらに大きな組織の、傘下にあるとも」
ホルタの話を聞いてノアは苦々しく思った。そういった相手であるなら、自分達の誘拐は単なる営利目的ではなく、星大名間の抗争に絡んで来る事に、なるに違いないからだ。つまりはノヴァルナ絡みだ。
“このままじゃ、引き下がらないから!”
ノアは決意と共に口元を引き締めた。ノヴァルナにまで危害を及ぼすような真似は、絶対にさせない、許さない。ノア・ケイティ=サイドゥとはそういう、戦国の姫君であった………
▶#06につづく
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