第7部:失うべからざるもの

#00

 

 ノヴァルナを廃滅せしめんと企むミーグ・ミーマザッカ=リン以下、カルツェ派の者達が集まるキオ・スー城の会議室―――


 戦闘に紛れてノア姫と二人の弟を捕らえようと、ミーマザッカの前で自分の思いつくままを述べ始めた、クラード=トゥズークの薄ら笑いが浮かぶ横顔を、睨み付けるカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ。


「―――それに万が一、ノヴァルナ様に逃げられた場合…勿論、そのような事があるとは思えませんが、そうなった場合は人質としても利用できましょう」


 武人として、婦女子を人質にする事を良しとしないシルバータは、自分の言葉に酔っているようにも見えるクラードに、「チッ!…」と舌打ちした。


“このような手段を使って…それでカルツェ様の面目が立つのか! いや、それ以前にカルツェ様になんの相談も無く、勝手に事を始めてよいのか!”


「むうぅ…」


 腕組みをして忌々しそうに唸るシルバータ。そもそも自分達はウォーダ家の発展のために働いているのではないのか…それを考えれば、やり方には少々納得出来ないものがあるとは言え、勝利を重ねてキオ・スー家まで手に入れた、ノヴァルナ様をこのまま廃してしまってもよいのか…




 葛藤するシルバータ。一方、その葛藤を一足早く抜け出た者が二人いた。向かい側の席に並んで座る、シンモールとバルモアのザクバー兄弟である。この二人もシルバータ同様、卑怯な手段を良しとしない根っからの武人であり、しかもシルバータほど、物事を難しく考えたりはしないタイプの人間であった。


「兄者…」


 クラードを見据えたまま、バルモアが小声で声を掛けると、その意を察した兄のシンモールは一度、口元を引き締めて応じる。


「ああ…そろそろ潮時かも知れんな」




 これまで小細工を弄してばかりいた者達の、ここに来ての性急な行動に迷いを見せる者、離脱を図り始める者が現れ…事態は当のカルツェ・ジュ=ウォーダを置き去りにして、混沌となりつつあった………






▶#01につづく

 

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