#16
強襲降下艦から離脱した57機の陸戦仕様『シデン』は、ECMパルス弾の効果もあって、地上からの迎撃に被弾する事無く、地表へと降下した。各『シデン』は着地寸前に、バックパックから反転重力子を放出して軟着陸を行う。腰を低くかがめた姿勢で砂塵を巻き上げながら着地した『シデン』は、生身の空挺兵が敵の只中に降下した場合と同様、即座に身を伏せて超電磁ライフルを構えた。
「目視照準で浮遊砲台を狙え!」
地上部隊指揮官のシルバータの命令で、BSI部隊は超電磁ライフルで浮遊砲台への狙撃を行う。皮肉な事に自動化された浮遊砲台は、ECMパルスの影響をより大きく受け、『シデン』部隊へ命中弾を全く与える事が出来ないのに対し、訓練を積んでいる人間の乗る『シデン』は、目視照準でも次々と浮遊砲台を撃破し始めた。ある砲台は中央部に大穴を空けられて重力子ジェネレーターを破壊され、力なく地上に落下し、別の砲台は直撃を受けた下部主砲塔が爆発、上部と左右の砲塔も吹っ飛び、そこから火柱を噴き出して砕け散る。
ナグヤ側の『シデン』も三機が撃破されたが、浮遊砲台はその倍以上の八基が破壊されて、後方へ下がりだす。不利な状況を鑑み後退命令が出たに違いない。
その命令を出したのがチェイロ=カージェスである。専用BSHOの『シンセイCC』に乗るチェイロは、キオ・スー家のBSI部隊総監の地位にあったが、今回の戦いでは地上部隊の司令官を命じられていた。
チェイロが実際にいるのは『シンセイCC』のコクピットであるが、その姿は等身大のホログラムとなって、野戦司令部の司令官席に座っている。参謀達からECMパルスによる電子障害があと二十分は継続するとの報告を受け、チェイロは浮遊砲台の後退を指示したのだった。
「残存する浮遊砲台は12キロ後退させ、第二火力支援ラインを組ませろ。機甲部隊、攻撃開始だ」
チェイロの命令で、今度は窪地に迷彩網を被って潜んでいた機甲部隊―――多脚戦車群が動き出す。折り畳んでいた六本の脚を僅かに伸ばし、なだらかな丘陵地帯の稜線を利用して、超電磁砲の砲塔だけを覗かせると、接近して来るナグヤのBSI部隊に対して射撃を開始した。その数は36輌でナグヤBSI部隊より少ないが、陸戦兵器としては、元が宇宙用兵器のBSIを陸戦仕様にしたものより有用である。
多脚戦車FMT27『ハヴァート』はウォーダ軍の主力戦車で、ノヴァルナが飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域で遭遇した、星大名アッシナ家の多脚戦車より、幾分角ばった印象がある。主砲もアッシナ家のビーム砲ではなく、182ミリ超電磁砲を装備していた。
稜線射撃で撃ち出された砲弾は、警戒しながら前進を開始していた『シデン』のうち、四機を撃破し、四機の腕、二機の頭部を破壊する。残った『シデン』は一斉に身を伏せ、ライフルを構えて反撃を開始した。二輌の『ハヴァート』が砲塔を撃ち抜かれて沈黙、しかしすぐに各『ハヴァート』は煙幕弾投射器を作動させる。一輌あたり六発の煙幕弾が扇状に発射され、『シデン』の前に濃密な暗赤色の煙の幕を展張した。
さらに『ハヴァート』は高熱を発するフレア球を、連続して煙幕の中に打ち込む。ECMパルスの影響をほとんど受けない、赤外線センサーによる射撃をナグヤ側の『シデン』が行うのを、阻止するためである。想定通り、この状況に『シデン』のパイロット達は、ギリリと歯噛みした。
「クソッ! どれが本物だ!?」
「照準が付けられんぞ!」
煙幕の中で照準スコープに映る、無数の赤い熱源反応。これではどれが多脚戦車で、どれがフレア球か判別出来ない。しかも多脚戦車『ハヴァート』は、砲塔だけを窪地から出しているため、適当な射撃で命中させる事はまず不可能だ。
キオ・スー家地上部隊司令官のチェイロ=カージェスは、味方の優勢を戦術状況ホログラムで確認し、次の指令を出す。
「後退させた浮遊砲台も加え、煙幕の中へ面制圧射撃を行わさせろ!」
その命令を受けた『ハヴァート』と残存する浮遊砲台は、煙幕の中に砲撃を開始した。照準は付けていない。大量の火力を投射し、ECMパルスの効果が失われるまで、ナグヤのBSI部隊を釘付けにしておくのが目的だ。キオ・スー家からすれば、先行して来たナグヤのBSI部隊を壊滅しさえすれば、後方に続く機械化歩兵部隊の上陸を断念させる事が可能となる。
「よし。ECMパルスが終わった時に備え、我等も出る。行くぞ」
チェイロはそう言うと、野戦司令部にいる自分の等身大ホログラムを終了し、実際に搭乗するBSHO『シンセイCC』を、膝をついた状態から立ち上がらせた。やや遅れてその左右にいる陸戦仕様の『シデン』六機も屹立する。
▶#17につづく
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