6月26日 ハーメルンの笛吹き男

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 本日、2017年6月26日は「ハーメルンの笛吹き男」である。


 ハーメルンの笛吹き男とは、グリム兄弟を含めた複数の人々により残された1284年に起こったとされる伝承である。

 場所はドイツ、ハーメルン。街ではネズミが大量発生し、町民は頭を抱えていた。

 そこにある日、笛を持ち、色とりどりの布を繋ぎ合わせた衣装を着た男が現れる。かれはその町で報酬を払えばネズミを退治して見せると持ちかけた。

 打つ手の無かったハーメルンの人々はこの条件を呑むと男が笛を吹く。するとなんと、街中のネズミがその音色に寄ってきて、そのまま男は近くを流れるヴェーザー川へとネズミを誘導していく。そのまま男はネズミを川へと進ませ、一匹残らず溺死させたのである。

 ネズミを退治した男は町民に報酬を要求するが、ハーメルンの人々はこれを支払わず約束を反故にした。男はそのまま町から去って行った。


 男が再びハーメルンを訪れたのは6月26日の午前中であった。町民の多くは教会を訪れ、朝の祈りを捧げていた中、男は町中で笛を吹く。その音色を聞いた家で留守をしていた子供たち130人は男についていき、町に残った子供は足が不自由で付いていけなかったもの、盲目だったもの、聴覚障害を持った子供だけであった。

 男は子供たちを連れて市街の山腹にあるほら穴に入って行った。内側から岩で出口を塞ぎ、結局男も子供たちも町に帰ってくることはなかった。


 この男は死神であったとか、魔法使いであったとか、精神異常の小児性愛者であったとか色々仮説は立てられているが、もしこの話が事実で、実際に起こった話だったとしたら、この男は今の科学でも解明されていない何らかの力を有していたと推測される。


 今の科学でも解明できていないのであれば、ならば未来の科学ではどうだろう。男の奇抜な服装、そして超常じみた力。すなわち彼が未来からきた人間であったとは考えられないだろうか。


 ネズミが大量発生すると伝染病が懸念される。今と違い流行り病は死に直結する恐ろしい病であった。町民がこれを排除したいと考えるのは至極当然である。未来人はこの現状を変えてやりたいと考えた。だから町民に協力した。

 結果、男の力に寄ってネズミの脅威は町から去った。だがしかし、病で死ぬはずだった多くの人間は未来の世界を大いに変えてしまった。故に、そのずれた世界を正す為、男は後日再び町を訪れ、死ぬはずの運命にあった子供たちを殺した。あるいは未来に連れ帰った。


 そして私は、この仮説を裏付ける参考書物を遂に発見してしまった。

 それは、藤子・F・不二雄の国民的漫画『ドラえもん』の41巻である。未来から来たドラえもんは片付けの出来ないのび太に秘密道具の一つ、ハメルンチャルメラを使わせる。その笛は吹けば吹かれた物がひとりでに山へと向かう恐ろしい兵器だった。


 果たしてハーメルンの笛吹き男の真の正体とはなんだったのか。日本でもライトノベル、小説、漫画、ゲームにて推測、あるいはモデルになっているが、死神だったのか、魔法使いだったのか、はたまた未来人だったのか、あるいは誰かが付いたほら吹きだったのか。この世にはまだまだ分からない事が満ち溢れている。




 今日はハーメルンの笛吹き男、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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