5月31日 世界禁煙デー

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 今、たばこを吸う物は度重なる値上げに耐えた歴戦の勇者の集まりである。たとえ今後一箱千円の時代が訪れようともその意思は揺るがないだろう。勘違いしないで欲しい。諸君らは意志が弱いから禁煙できないわけではないのだ。意志が強いからこそ禁煙しないのである。胸を張れ。そして煙を吹き出せ。本日、2017年5月31日は『世界禁煙デー』である。


 前述したとおり、世界禁煙デーにゆかりのある人間と言うのは大抵非喫煙者である。喫煙者にとって禁煙デーだろうと、嫌煙デーだろうと一切関係がない。1989年にWHOが定めたこの禁煙デーは、禁煙を推奨するTシャツなどを着てマラソンをしたりと活動を起こしているが、正直喫煙者からしてみればまるで関係がない。なぜならばマラソンなどと言う健康に気を使ったスポーツをするものはそもそもタバコなど吸わないからである。タバコを吸わない者がマラソンをしても喫煙者から見ればなにも心に響くわけがない。


 確かに喫煙は体に害であるという事実は明白である。たばこ税による益よりもがん治療の保険料にかかる損の方が大きいと言うのだから、国が国民から煙を取り上げたい気持ちもわかる。

 相次ぐ煙草の値上げ、そして近年ますます誇張される煙草は体に悪いと言う触れ込み。そこに一石を投じた『アイコス』。タールを含まず発がん性物質の低さをアピールしたこの商品は見る見る間に大ヒットを遂げ、今やどこの店にもおいてない程の品薄状態となった。


 値上げによる効果は確かにあっただろう。だが、体に悪いからやめろと言った理由はこの『アイコス』にぶち壊されてしまった。そこに続くかの様に現れた『グロー』と『プルーム・テック』。こちらもヒットを飛ばし品薄状態が続く。皮肉にも体に悪いからやめろと言い続けたことによりこれら加熱式煙草が爆発的に売れてしまっているのである。


 本気で国民から煙草を辞めさせたいなら、体に悪いと言う謳い文句は逆効果であるとそろそろ国は気付くべきである。さらに言うと、値上げもさほど意味がない。なぜならば真のニコチン中毒者共は値上げされれば何とかして、例えば手巻きたばこなど、安価な煙草に手を出すに決まっているからだ。一箱1万円になろうと辞めるわけがないのだ。少なくとも私はそうだ。


 今日は世界禁煙デーである。国はついに見かね、後の飲食店では全面禁煙が義務化されるそうだ。それも大して意味がない。

 例えば私は珈琲が好きだ。煙草との相性が抜群だからだ。なのでよく喫茶店に行く。しかし、喫茶店が完全禁煙となればその店に立ち寄る事はもうなくなるだろう。煙草が吸えないくらいなら喫煙所で缶コーヒーでもすすっていた方がましだ。食事もそうだ。コンビニで弁当を買って車で食べればそのままタバコが吸えるのだ。完全禁煙の飲食店には立ち寄らなくなるだろう。


 ならば世の喫煙中毒者共は一体どうすれば煙草を辞めるのか。その答えは一つしかない。その本人が辞めたいと思う事。それしかないのである。周りが何を言おうと、体に悪かろうと、お金がかかろうとも我々は喫煙を辞めない。本心から煙草を辞めたいと本人に思わせなければ絶対に禁煙は成功しないのである。


 と、言うわけで、私は喫煙者全員が煙草を辞める方法を考えてみた。と言うより、これだったら私でも辞めれそう、と言った政策を考えてみた。やはり答えは金であった。

「いやいや、値上げしても辞めないって言ったじゃない」そう思われる方もいるだろう。違う。それと真逆の考えだ。まず喫煙者は国に10万円を支払う。そして一月禁煙に成功するたびに国からそこに1万円が加算されていく。10か月後には倍額の20万円となり喫煙者の手元に戻る。10ヶ月も禁煙が出来たなら完全にタバコの依存は断ち切れているだろう。もちろんその10ヶ月以内に煙草を一本でも吸ったら、全額国が没収するといった仕組みである。


 もし身近に煙草を辞めさせたい人がいるのなら、10万円を用意しこの方法をやらせてみるといいだろう。人間とは不思議なもので、10万円を煙草に使う事には惜しいとは思わないが、手に入るはずの10万円を逃すのはなぜだか妙に惜しい気がするはずだ。少なくとも私は誰かがこれをやってくれたら10カ月間は耐え抜く自信がある。禁煙し手に入れた20万円を眺めながらの一服は、きっと格別な事だろう。




 今日は世界禁煙デー、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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