3月10日 カーネル・サンダースの呪い

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 今日は知る人ぞ知る現代の怪談を語ろうかと思う。古来より、人の形を模した人形や像にはいわくつきの話が付き物である。二宮金次郎、髪の伸びる日本人形などやはり、その姿から人の魂が宿りやすいという事なのだろうか。本日、2017年3月10日に語るは『カーネル・サンダースの呪い』である。


 カーネルサンダースは、ライバル、マクドナルドのドナルドと対を為すケンタッキー・フライドチキンのイメージキャラクターであるが、ドナルドとの違いは実在した人物であると言う事である。1890年生まれ、本名ハーランド・デーヴィッド・サンダースはアメリカの実業家であり、ケンタッキーフライドチキンの創業者であり、カーネルサンダースのモデルである。


 最近では店頭にカーネルサンダースを見かけない所も増えたが、それでも我々にはこの顔を忘れる事は中々できないだろう。

 時は1985年、阪神タイガースのセントラルリーグ優勝が決まった日。半ば暴徒と化した阪神ファンは、今は無きケンタッキー・フライドチキン道頓堀の店頭に置いてあったカーネルサンダースを外国人選手、ランディ・バースに見立て胴上げをする。その後に店員が制止するも興奮した阪神ファンは収まらず、カーネルサンダースは道頓堀へと投げ出される事になる。


 関西人への阪神タイガースへの情熱は凄まじいものではあるが、どう考えても度を過ぎた行動である。投げ捨てられたカーネルサンダースは浮上せず、後の川底清掃作業でも見つかる事は無かったと言う。


 投げ捨てられたカーネルサンダースの恨みか、翌年から阪神タイガースは17年連続でリーグ優勝を逃し、急激な弱体化を辿る事になる。その事件から23年後、2009年の3月10日、大阪市建設局の水辺整備事業の一環として障害物調査を行っていた作業員がカーネルサンダースを発見。無事にクレーンで救出される事になる。


 引き上げられた像はヘドロまみれで変色しており、メガネと手首がなかったが、23年前と同じくにっこりとしたその笑顔は健在であった。まるで、自らを投げ飛ばした阪神ファンへの復讐を済ませ、心の底から満足しているように。


 諸君らも、是非ケンタッキーフライドチキンを訪れるときは、店頭のカーネルサンダースに失礼の無い様心がけたまえ。普段笑顔を絶やさぬ人ほど、怒らせたら怖いものなのである。




 今日はカーネル・サンダースの呪い、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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