1月20日 アメリカ大統領就任式

 やあやあ諸君。

 私の名はいずく。いずくかけると申す者だ。


 諸君らは今日と言う日を如何にお過ごしだろうか。日々は刻一刻と進む二十四時間の連鎖であるが、それは円環ではなく螺旋であり、繰り返しではなく積み重ねである。だがしかし、中にはどうもそれを理解していない者が多い。

 私の話を聞き入れ、今日と呼ばれる日が先人達が積み重ねた如何なる日なのかを知らば、諸君らの過ごす毎日にも色が付くのやも知れぬ。




 連日、テレビや新聞、またはネットで報道され続けていたおかげで、嫌でも諸君らもその結果をご存じだろう。四年に一度のアメリカ大統領選挙。もはや、勝利は確実かと囁かれていたヒラリー・クリントン氏を、不動産王、ドナルド・トランプ氏が2016年の11月10日に下した世紀の大逆転は記憶に新しい。そして遂に、本日2017年1月20日は、『アメリカ大統領就任式』、つまりは、現オバマ大統領からトランプ氏へと、その責務が移される日である。


 諸君らはこの就任式が前回いつ行われたか、または次はいつ行われるかご存じだろうか。実はワールドカップやオリンピックと同じく4年に1度の周期で行われている。正確には西暦を4で割り切れる年の翌年。つまりは今回であれば2016と言う数字は4で割り切れるだろう? その翌年である今年、2017年に就任式が行われると言った具合だ。


 今日の正午に大統領が移り変わるわけだが、我々が住むこの日本のトップ、首相と大統領の大きな違いを諸君らはご存じだろうか。どちらも一国の代表である事には違いはない。注目してもらいたいのは、その選定方法である。


 首相と言う立場は議席によって、つまりは議員が決める。対して、大統領と言う立場は国民全員の投票によって決定される。そう、分かりやすく言えば多数決だ。

 多数決は一見公平に見え、誰もが納得しやすいだろうと、私も義務教育時代に幾度もやらされてきた。だが今こそ言おう。多数決ほど愚かな決定方法は無いと。


 愚か、と言うのは言い過ぎか。確かに多数決は大多数の人間が納得し、結果がすぐに出るので時間を取らせない。そう言う利点がある事も確かだ。だがしかし、常に少数派であった私は多数決の問題について声を荒げたい。


 例えばの話。

 十人の人間が昼食をどこで食べようかと話し合っていたとしよう。それぞれが自分の食べたいものを述べ、多数決によって行く店を決めたとする。

 その結果は6票入った高級フレンチである。残りの4人はラーメン屋に票を入れていた。なぜなら4人は、給料日前で財布の中身が心もとなかったからだ。


 十人はちゃんと話し合えば安いフレンチに行く事になったかもしれないし、2グループに別れると言う選択も出来たかもしれない。だが、多数決後にそれは通らない。なぜなら投票によりすでに答えは出てしまっているのだから。文句を言いながらも4人はフレンチを食すだろう。その不満が口に出さずとも感じ取れ、勝利をもぎ取った6人も気まづくなるに違いない。


 結果を急がず話し合えば、せめて10人中7,8人は納得する答えが出たかもしれない。だが多数決は、時として大多数の不満を残す結果を導き出すことがあるのだ。昼食の話ならば多少仲が悪くなる程度で済むだろうが、これがアメリカ大統領を決定するものであったのなら、10人ではなく、それが100万人であったのなら、下手をすれば死人が出ると考えるのは早計だろうか。


 今回の結果はやはりすでになにをしても覆らないだろうが、やはり不満を唱える者が世界中に大勢出た。次期アメリカ大統領を決定する際には、なるべく多くの国民が納得する結果が出せるよう、選定方法から選ぶ必要があると、私は考える。




 今日はアメリカ大統領就任式の日、特別な一日である。

 我々は本日を祝福し過ごさねばならないだろう。

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