76 触覚、ビル、マフィン
都内某所、私はシェアハウスで友人と一緒に暮らしている。今日の家事当番は私でスパゲッティーを茹でているのだが、彼女ときたら夕食直前にさっき買ってきたマフィンを頬張っている。あれ明日の朝用だと思ってたのに。
「そんなに食べてると豚になっちゃうよ」
「ははは、モーモー」
どうやら「牛になるよ」と聞き間違えたらしい。外では風がびゅうびゅう唸っている。実際彼女はめちゃくちゃよく食べるくせに全然太らない。私は結構服でごまかしてるところもあるけど彼女はそのままでも充分いけてしまう。全く世界は不公平だ。
と、頭の中で愚痴っているとブツンと音がして電気が消えた。停電だ。外で雷でも落ちたんだろうか?
「うわー停電だね」
…………。返事がない。彼女はおしゃべりでこんなイベントがあるとすぐに騒ぎ立てそうなものなのに。さては隠れて脅かそうとしているな。
触覚を頼りに部屋を移動する。なにやら油っぽいパン生地の感触……これはさっきのマフィンだ。
「おーい、どこにいるんだー」
その時雷鳴が轟き部屋の中が映し出された。ソファーの上に彼女が着ていた服。その上にはマフィンが、服の乱れを打ち消そうとしているかのように上品に鎮座していた。
彼女はマフィンになってしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます