最後の魔女29:真実
まさにトカゲの尻尾切りのような展開で、マリア様がその責を取らされようとしていた。
気になるのは、当初こそ否認し続けていたマリア様が、一転して罪を認めたこと。
そればかりか、確たる証拠がなかった診療所襲撃の件までも認めてしまった。
そう、まるで人が変わったように⋯そこには心がないまるで人形のように坦々と語られる言葉の数々。まるで誰かに操られているかのように。
「全て私が計画し、実行しました。全ては私が教皇となるが為です。この件に関して教会は一切関係していません。数名の協力者を除いては⋯」
マリア様は紙に数人の名前を書き上げると、グレイブ検察官へと手渡した。
「こちらの者たちです。彼等も私と同じで甘んじて罪を受けいれるでしょう」
その紙を受け取り、グレイブは部下に指示を飛ばす。
「教会は無関係だと本気で言っているのですか?」
「他ならぬ首謀者である本人が言っているのです。疑いの余地はないのでは?」
(何だか可笑しな展開になってきちゃったね。このまま教会は関係ないと逃げ切れると思っているんだろうか?)
(そんな事させない。教会の闇に関わった全ての人物に責任を取らせる)
「そうですか、ではここで証人を2人呼ばせて頂きます。どうぞ入って来て下さい」
ドアの前で待っていたのだろう、ドアが開くと、すぐに如何にでもいそうな平民風な2人が入って来る。
「彼等は教会の被害に遭っているこの国の国民を代表してお越し頂きました」
「被害などと⋯言葉を選んで頂きたいですな。それにそちらが一方的に用意した証人など私たちに不利な発言を言うのは目に見えている。そうは思いませんか? 聖女様」
何故だか今までだんまりを決めていたサーシャに話を振る大司祭様。でもそこは何も知らない風を装い持ち前の演技力で対応するサーシャ。
「ええ、確かに予め決めていた証人でしたら不公平さがおありでしょう」
「それはどう言う意味ですかな?」
グレイブが手を挙げる。
「それは私の方から説明しましょう。そちらの御二方は、先程この教会に治癒を求めてこられた群衆の中から、審問の協力を募ったのです。こちらとしては、証人は誰でも良かったのですよ。皆が同様の被害に遭われていたのですから。今の話の証明は、そちらの神官の方に尋ねると良いでしょう。私の動きは終始監視しておられましたからね。まぁ、そういう風に命じられていたのでしょうけどね」
「本当なのですか?」
質問を投げかけられた神官は、バツが悪そうに下を向き目を合わせないかのように応える。
「⋯⋯はい、事実で御座います」
「ありがとうございます。では確証も取れた事ですから、思う存分教会から受けた仕打ちを話していただけますか?」
「教会即ち神への冒涜は自らに災いとなって降り注ぐという事を忘れない事ですな」
「そのような脅し、真に受けることはありません。ただ事実を述べて頂ければそれで良いのです」
その後、証人の2人はそれこそ洗いざらい溜まりに溜まった鬱憤を晴らすが如くぶちまけていく。
治癒のお布施の強要、聖神体の購入強要など。
「絶対に病気にならない聖水だって、高いだけで全く効力を発揮しない紛い物だ」
「私は借金までして教会に捧げた資金のせいで、家を売っ払ったんだぞ」
「聖水が効かないのは、貴方方の信仰心が足らないからではないですか? お布施にしても強要した事実はありませんな。仮にあるとすれば、マリアの仕業でしょうな。全く教会の信用を落とそうなどと、困った事をしてくれましたね」
マリア様は既に自らが罪を認め、自ら兵と一緒に出て行ってしまった。
(どうあっても全ての罪をマリア様に押し付ける気ね)
「あくまでも教会側は関与していないと言うならば、こちらにも考えがありますよ」
ここで、青の教のフェミナさんが、紙束を机の上へと置く。
「これは?」
「我々が10年近い調査の元、調べ上げた真実がそこには記されています」
へぇ、ただ敵対しているだけじゃなくて、ちゃんと裏ではそういう証拠を集めていたんだね。
でも10年かぁ。もう少し前から動いてくれていれば、もしかしたらアンもあんな事にはならなかったかもしれない。
あぁ、過去を悔いるなんて私らしくないなぁ。
大司教様は、その紙の束を見ることもせず掃いて捨てる。
「ですから、先程も申し上げているはずです。こんな紙切れ、何の証拠にもならないのですと」
「そうですか、なればグレイブ検察官、ここでもう1人証人をこの場に呼びたいのですが、宜しいでしょうか?」
グレイブ検察官が許可を出すと、次なる証人が訪れた。
証人は仰々しく一礼すると、大司教様へと目を向けた。
「神官のサメルではないか。まさか証人と言うのは⋯」
「勿論私でございます」
大司祭様は、何を言ってるんだ? と言わんばかりに目を大きく見開いている。
「貴方が証人とは一体どう言う事なのだ?」
「はい、実は前々から隠していたことが御座います」
本来教会側に従事している神官サメルは、実は青の教より10年前から潜入しているスパイだった。
他でもない本人から語られる真実にさしもの大司教様も冷や汗を流す。
そうとは知らない教会側も彼を陰謀の一員として色々と協力を図っていたからだ。
「この紙の束の内容は、教会内部にいた私が直接確認した内容です。嘘偽りはありません」
真実が語られるにつれ、大司教様の顔がどんどんと青ざめていく。
やるじゃない青の教。
「こ、これが真実であるはずもない⋯教会を陥れようという工作に違いない! そもそもが、全ての者にとって平等を掲げている教会の理念に反した行い、神が許したもうはずがない! こうして、天罰が落ちない事こそが、嘘偽りだと言う確たる証拠ではないか!」
神様が罰を与えなかったら何をしてもいいの?
いい加減、殴りたくなってくるわね。神様に変わって一瞬にして灰と化してあげてもいいよ?
「ここまでくると見苦しいですね。これだけの証拠が揃っていると言うのに」
グレイブ検察官が罪状を読み上げる。
「国王様は仰られた。この件に携わった全ての者を10年の労働の刑に処すと。打ち首や国外追放させられないだけ、寛大な処置に感謝して下さい」
塞ぎ込む大司教様。さっきから小声でブツブツと何かを喋っている。
徐に顔を上げる。
あれ、何だか目付きが変わった?
「ハハハハッ、いやー参りましたなー」
!?
突然、大司教様が笑い出した。
「そうですよ。全てが何10年も前から教会がしてきた行いですよ」
「ならば、罪を認めると言う事ですね?」
「認めましょう。これで満足か?」
「ええ、詰所までご同行願いますよ。そちらでゆっくり話を聞かせて貰います」
(終わったのかな⋯)
(うん、そうだね。でも何だろう。急に豹変した態度、何か怪しい気がする)
「無事に教会から出られればね」
「どう言う意味でしょうか?」
先程から、外が騒がしい。
物音がすると言うわけではなくて、複数の人が集まって来ている。
僅かに聞こえる足音から察するに恐らく訓練を積んだ兵士たちかな。真実を知る私たち全員を亡き者にしようとかまさかそんな事を考えているのだろうか?
その時、部屋のドアが乱暴に開け放たれた。
「全員動くな!」
中に入って来たのは、武装した騎士だった。
王国の警備を司っている騎士隊ではなく、教会専属の武装集団。
彼等は自らを聖堂騎士と名乗り、主に教会内の警備や関係者の遠征時の護衛などを務めていた。
実力は毎日たゆまぬ訓練をしている王国騎士隊に比べて遥かに劣る。
「これは一体どういう事ですか?」
グレイブ検察官が慌てて席から立ち上がる。
サーシャを後ろ手に隠す。
同じような形で、フェミナさんの前に護衛のイケメン騎士が陣取る。
「見たままの通りですよ。全てを知る貴方方にはここで退場して頂きます」
何笑顔でサラッと怖い事を言ってるのですかねこの人は。そんな事、私がいるんだからさせる訳ないじゃない。
(リアちゃん、例の扉の奥に変化があったわぁ)
教会内を極秘に調査をさせていたミーアからの連絡だった。
(さっきから微かだけど中から話し声が聞こえるのよぉ。声門は1人だけのようだから独り言かしらねぇ)
(うん、分かった。後こっちにも動きがあった。ミーアはそのまま待機で)
さて、どうしたものかな。
「聖女以外は全員殺して構わん、掛かれ!」
2人の聖騎士が、1番入り口近くに居たグレイブ検察官へと斬りかかる。
しかし、それはフェミナの護衛によって阻まれた。
「聖堂騎士風情が何人集まろうと俺に勝てると思うなよ!」
この人、見た目イケメンなんだけど、いう事もいちいちかっこいい。
だけど、この聖堂騎士? どうやら何かの術か薬で大幅に強化されてるみたい。
現に、2vs1ではあるが、イケメン騎士が押されてる。
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