最後の魔女25(狙われた診療所)
サーシャが風邪から復帰してから3日が経過していた。
現状までで知り得た情報を整理しておく。
まず、私たちを襲った賊は何処ぞの一組織で、匿名希望の情報提供者から私たちのスケジュールを知ったらしい。
他国の聖女を人質に出来ると踏んだ彼等は犯行に至った。
まぁそれは熊騎士に阻止されてしまったけど。生き残った者も、口封じの為に殺されてしまい、結局誰の指図だったのかは解らずじまい。暗殺者を追っていた駄猫も何の証拠も掴めずに帰ってきた。
全く使えないったらありゃしない。
帰ってきたその晩、みっちりこってりとお仕置きしておいたからいいけど。
ミーアに調査してもらっていた国王様の件だけど、結果は白だね。いい人だね。
まぁ、最初にその在籍年数を聞いた時から白だとは思っていたけど。
だって国王就任50年だよ?
それだけ長く続けれてるってことは、国民は国王様に不満が無いってことだと思うから。
それにこの国は民主主義を採用している国家で、国政を担ってる国王の周りの側近は国民の投票によって選ばれた人たち。自分たちが選んだ人が国の統治をしてるんだもん。そりゃぁ不満もないことはないんだろうけど、少ないはず。
で、ここからが本題なんだけど、ミーアの報告によると、国王様の側近の1人に教会の運営を任されている人物がいて、どうやらそいつが黒らしい。教皇様とグルになって、今の教会の悪行をやらせてるみたい。
当然国王様はそれを知らない。
教会の悪行を知ったら、きっと噂通りの国王様なら止めてくれるはず。
そして、マリア様の言っていたあの方と言うのは、やっぱり教皇様のことで間違いない。常に教会の奥にある最奥神殿という場所にいて、その中から全く出てこない。何度かトライしたけど、結局私も中には入れなかった。
だから、顔すら見ていない。これは噂だけど、教皇様は王国建国以来からいるみたいで、もしそうならば建国80年だったから相当なお爺ちゃん? もしかしたら私よりも歳上かもね。
で、もう一つのシークレットだった、教会が秘密裏に進めていたとか言うあの計画。
それは、この王国に点在している診療所を一斉閉鎖することだった。
診療所には、聖女様程の力はないにしても、治癒を使える者がいて、治癒で商売していた。
実はこれ、教会側からしたら美味しくない話で。簡単に言えば同業者に該当する。
治癒に関しては無償と称してしている教会だけど、実際は多額のお布施を参列者に要求していた。
額で比べるなら、診療所に支払う金額の方が何倍も安い。
最近、資金繰りが厳しくなった教会の幹部たちは、その理由として、お布施の量が年々減っていることを問題に上げ、同業者である診療所に治癒を求める人が増えつつある事をよく思わなかった。
あたりまえだよね。誰だって安い方がいいに決まってる。それをよく思わない教会の連中が、この度適当な理由をつけて全ての診療所を閉鎖に追い込もうと画策したわけ。
そして、その決行日がまさに今日!
「にゃぁ⋯にゃぁ⋯にゃんとか全員配置に着いたにゃ、はぁ、、」
駄猫ことにゃもさんが、息を荒げている。
「ご苦労。休んでよし」
「猫使いが荒いと猫に祟られても知らないにゃ!」
「その時は全員屈服させるだけ」
この王国に診療所は全部で6箇所ある。
駄猫が王国中を走り回って見つけてくれたんだけどね。
私の眷属たちをそれぞれの診療所に配置して、襲撃に備えることになった。
過剰戦力と言えなくはないけど、この襲撃に関わった者は全員捕縛する必要がある。
さて、こちらの準備は整った。
いつでも来い。
え、私?
私は高みの見物中。レイランと一緒にね。
レイランには全てを記憶、保存して貰わないといけないからね。私の見聞きしたもの、言動全てを記録してもらう。
でも何もしない訳じゃないから。
有事に備えてすぐに動けるようにはしてるよ?
サーシャには、熊騎士とシャルちゃんがついてるからまず危険が及ぶことはない。
正直シャルちゃんがいれば、熊騎士レベルが10人来ようが問題なく対処してくれるはず。
おっと、診療所3号店で何やら動きがあったみたい。
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※診療所3号店を守る者
闇王ベテルギウス
闇の司るリアの眷属の一人
我を召喚するのだから、一体どんなツワモノが相手かと思えば、ただの人の雑兵とはな。最大限に加減せねば殺してしまいそうだ。
(ベテルギウス。もう一度言っておく。相手は殺さないこと。無力化してくれればそれでいいから)
(御意)
「おいお前ら、目的はあの場所だ。逆らう奴は殺していい。だが、治癒師だけは生きて捕らえろ!」
武器を手にした6人の男たちが診療所の前へとやってきた。
「この騒ぎは何ですか?」
外の騒ぎを聞き付けて中から出て来たのは、この診療所で働く受付の人。
「ここの関係者か?」
「ええ、そうですけど」
「悪いがな、ここは今日で店仕舞いだ! お前らやっちまえ!」
これがこの男の最後の言葉となった。
男たちが最後に見たのは、身の毛もよだつ悪魔の姿。
全員が口から泡を出して失神してしまった。
野次馬が集まってくる。
「ちょっとどいてくれー」
民集を掻き分け、やって来たのは強面の男たち。
そのまま倒れた奴らを担ぎ上げて何処かへと連れて行ってしまった。
我の出番はもう終わりか⋯
(主人よ。次は戦場で呼んで欲しいものだな)
(うん、お疲れ様。考えとく)
さてさて、お次は診療所4号店の番かな。
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診療所4号店を守る者
剣鬼リヴェル
剣技を司るリアの眷属の1人
どんな任務であろうと、リア様のご期待に添えなけば。
「あの、貴女は一体⋯?」
「気にしないで下さい。慈善で護衛しているだけです」
自分でも変な言い訳だとは思いますが、これから襲撃があります。とか魔女であるリア様の眷属です。なんて言えるはずも無く。
「は、はぁ」
診療所の前に佇んでいたのは銀色の鎧を身に纏い、見事までの銀色に輝く銀髪を靡かせながら1人の美女だった。
通行人や治癒を求めてやってきた民集とで、ごった返す中、程なくして診療所裏で火の手が上がった。
「火事だぁぁ、火事だぞっ!」
誰かが叫ぶ。
その声に逸早く反応したのは、他でもないリヴェルだった。
まさに疾風の如く、診療所の屋根に飛び移ると、1秒としない間に裏手へと到達した。
現場から立ち去ろうとする2人の人物を一瞬の内に行動不能にすると、今度は燃え上がっている火の手を斬撃一太刀の風圧により鎮火した。
あの2人から感じた微かな油の匂いから放火の犯人とリヴェルは断定した。
2人を担ぎ上げると、何事も無かったかのようにその場から消えた。
(相変わらずの早業ね)
(ありがとうございます)
そんな感じで残りの4箇所の診療所においても、滞りなく閉鎖は全て未遂に終わった。
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(リア、今大丈夫?)
念話でサーシャから連絡が入る。
(うん、大丈夫)
(えっとね、この国の王様から謁見の要望が来たの。どうしようかなって⋯)
(大丈夫。私が仕組んだ)
(えー! それなら事前に言って欲しかったよ! 私、心臓バクバクだったんだから!)
(ごめん)
何とも絶妙なタイミングで国王様からの謁見の申し出が来た。でも全ては計画通りなんだけどね。
さて、この集まった証拠で納得させる事が出来ればいいんだけどね。
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