最後の魔女20(襲撃からの軟禁)

 事件が起こった。


 私とサーシャ、侍女のキャシーさん、護衛の2人と案内役のマルジオさんに連れられ、幼い子たちの通う学校の視察に訪れていた。

 その学校のグラウンドに足を踏み入れたまさにその時だった。

 イキナリ、取り囲むようにして黒いマスクを被った集団に囲まれてしまった。

 どうやら、私たちを襲うようだ。

 普通だったら「キャーこわいー」だとか「助けてー」だとか叫ぶのだろうけど。

 今回ばかりは、予め襲撃される事を把握していた為、少なくとも私とサーシャは落ち着いていた。

 しかし、そうとは知らない、護衛2人とキャシーさんが慌てふためている。


「な、なんだ貴様らは!」

「サーシャ様、お早く私の後ろに!」


 予めキャシーさんに教えておく事が出来なかったので、こうなる事は予想はしていたけど、私とサーシャ2人を抱きかかえるような形でキャシーさんが覆いかぶさっている。


 これじゃ、魔法が使えない。


 ジリジリと黒マスク集団は私たちとの距離を縮めてくる。

 隣のサーシャが(どうしよう⋯)と念話を送ってくる。

 私も(どうしよう⋯)と返そうと思った時だった。


 突如として、1人の人物が現れた。


「待たれいいい!」


 キャシーさんが、その声に反応して、身体を少しだけ動かしてくれた為、私もその声のする方を伺い知ることが出来た。

 声の主は、重厚な甲冑を身に纏った騎士だった。まごうことなき騎士だ。高そうな甲冑を身に纏った騎士の中の騎士。うん、騎士の姿がそこにあった。

 たった1人だけど、恐らく私たちを助けてくれるのだろう。

 いや、そう信じたい。

 私が魔法が使えない以上、相手の人数は8人。対してこちらの護衛は2人。焼け石に水かもしれないけど、2人が3人になれば、多少の戦力は増える。

 黒マスクの集団も驚いていたので、恐らく仲間ではないのだろう。このチャンスを逃さまいと、護衛の1人が黒マスクの集団へと斬りかかる。

 もう1人の護衛は、私たちの前に入り、守ってくれる体制をとっていた。

 少し頼りないと思っていたけど、いざってときは、ちゃんと動けるんだね、見直したよ。少しだけ。


 騎士さんも黒マスク退治に参戦している。

 というか、あの騎士さん強い。凄く強い。一瞬で移動したかと思えば、もうあそこに、え、今度はあっちに。

 バッタバッタと黒マスク共を切り裂いている。

 護衛の2人も聖地アグヌスの護衛隊では1、2を争う程の手練れだと聞いていたけど、格が全然違う。

 というか、あの騎士さんが強すぎなんだと思う。


 黒マスク共が「あいつヤバいぞ」とか「こんなの聞いてねえぞ!」とか言いだして、逃げ出していく。


 取り敢えずの危機は去ったようで、ようやく私とサーシャは、キャシーさんから解放された。


 騒ぎを聞きつけたこの国の衛兵と思われる人たちがこちらへ駆けつけてくる。

 当然、学校の視察も中止となり、すぐに安全らしい? 教会へと戻ることになった。


 教会の中が一番安全と言われたのだけど、教会が一番安全じゃないと思うのは私だけ?

 でもそんなことは今はまだ言えない為、黙って従うことになった。


 教会へ戻ると、当然会いたくない人に出会ってしまった。


「サーシャ様! 良かった。ご無事で何よりです。視察中に賊の襲撃を受けたと聞いた時は、心臓が止まるかと思いましたよ」


 きっと2人揃ってこう言うだろう。

 どの口が! とね。


 マリア様が今回の襲撃の主犯だろうに、よくもまぁ心にもない事を言えますね。

 でも当然、そんな事を知ってる訳はないと思われてるので、至極冷静に対処する。(サーシャがね)


「私たちもびっくりしました。治安が良いと思っていましたのに、まさかあんな場所で襲われるなんて⋯」


 流石サーシャ。チクリと嫌味を返している。


「恐らく、サーシャ様を狙っての犯行と思いますが、ろくな計画を立てていなかったのでしょう。あっさりと失敗してしまって、でも今回はそれが幸いしましたね。本当に良かったです」


 何だか残念そうな感じに聞こえるけど?


「賊の1人を私の護衛が捕まえていますので、そこから犯行の動機やら首謀者が割り出せれれば良いのですが」


 流石にマリア様の名前が出てくるとは思わないけど、仲介役の名前くらいは吐いて欲しい。

 私も拷問、いや、相手を素直にする魔法をいくつか心得ているので、手こずるようならこっそりと手を貸すつもりでいる。


「大事な聖女様であるサーシャ様を狙うなんて、他にも関係者がいるならば全員捕まえて相応の報いをさせるつもりでいます」


 マリア様は、いつもの慈愛に満ちた聖母様のような笑顔ではなく、何処か目が真剣で内面本気で憤りを覚えている感じだった。

 しかし、その怒りはきっとサーシャが襲われた事に対してではなく、サーシャを仕留めきれなかった事に対してなのだから、なんともやるせない話だなぁ。


 その後、犯人たちの全貌が解明されるまで、サーシャは、教会からの外出が禁止された。

 実質軟禁状態になってしまった。

 身動きが取れなくなるのはシャクだけど、これは同時にチャンスでもあった。

 奴らは、恐らくまたサーシャを狙ってくるはず。

 サーシャには、悪いけどこのまま囮役を演じてもらう必要がある。

 でも安心して、私がこの身に変えても全力でサーシャを守って見せるから。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(というような感じだと思う)


 私の推察とこれから起こり得そうな事をサーシャに話す。

 今、教会の部屋の一室にサーシャと2人っきりの状態。当然外には護衛と言う名の教会側の見張りがいるのだけど、中には私たち以外には誰もいない。

 普通に会話はできるだろうけど、何処で聴き耳を立てているのか分からないから、用心の為に念話を使用している。


(サーシャ、怖い?)

(怖いよ。でもね、リアが守ってくれるって信じてるから、大丈夫)


 やっぱり、サーシャは強いなぁ。

 普通、自分の命が狙われてるって時にこんなに落ち着いていられるのだろうか。

 もちろん、私の命に代えてもサーシャの事は守ってみせる。

 そんな事を考えている時だった。

 私の展開していた探知魔法に何かが引っかかった。

 詳しく探ってみると、どうやら天井裏からみたい。私はさりげなくサーシャのすぐ横に腰掛ける。

 私の違和感を感じ取ったのか、サーシャが身構えていた。


(サーシャ落ち着いて聞いてね)


 サーシャはコクリと頷いた。


(天井裏に何かがいる)


 サーシャは顔を向けずに視線だけを天井裏に送る。


(たぶんだけど、殺気は感じられないから偵察だけだと思う)

(だったら、私に考えがあるわ。リアは適当に口をパクパクして頷いてて)


 何をするつもりなのだろう。


(分かった)


「それにしても、なんでサーシャ様は命を狙われたんでしょうね?」

「あ、やっぱり私が聖女だからかな? 昔お母様に聞いたのだけど、お母様の前の聖女は、この教会内で殺されてしまったらしいの」

「だとしたら、この中も危険ですよ! すぐにマリア様に相談して場所を変えてもらいましょう!」


 うわぁ、

 もちろんこれ、1人2役で全部サーシャが喋ってる。何処と無く、私の声色に似せていたのは、ある意味才能なんじゃないだろうか。


(あ、天井裏の反応が遠ざかっていく)

(ふふふ。これでここから出られるかな?)

(暗殺のタイミングが早まっただけかも)

(え! それ笑えないんだけど!)


 結局その日は何事もなく終わり、朝を迎えた。私はサーシャの頼みと言うこともあり、同じ部屋で夜を過ごした。

 過ごしたと言っても、ベッドが1つしかない為、仲良く同じベッド、同じ布団で朝を迎えた。

 朝一、私は昨日レイランの元を訪れていた駄猫に話を聞く。

 こちらが新しく知り得た情報をレイランに話すとレイランはある驚くべき仮説を話し出した。


 公には出てこない教会のトップがいるらしいと。

 教皇と言う名のその人物は、常に裏側に潜んでいて表には顔を出してこない。

 以前、一度だけシオン様が聖女就任の時に見た事があるそうで、その姿は少年のように若々しい存在だったと言う。


 あの方と聞いてレイランが思い描いたのがその教皇様だった。

 ちなみにサーシャにもこの話をしたけど、知らないらしい。

 アンの記憶の中にも出てこなかったし、もしかしたらもう居ないのかも。

 シオン様の聖女就任の時って、40年以上前の話だから。

 でも、仮にその人物は既に居なくても教皇様と呼ばれている人はいるかもしれないと言うので、怪しまれないようにサーシャが聞いてみることになった。

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