第31話 エタナールの兄弟、竜太郎と幸平
2014年、2月1日、土曜日の正午。
モリカワとエターナル、この2社の
交流パーティーが、
青山 エリュシオン・ハウスで 始まるところである。
東京、青山の閑静な住宅街の、
正統派 イタリアン・レストラン、
青山エリュシオン・ハウスは、
季節の味覚の食材に こだわった、
上品な 一軒家である。
地下鉄、青山一丁目駅から歩いて 5分だった。
交流パーティーの主催は、
東証1部上場の会社、エターナル(eternal) である。
昨年(2013年)の12月の初めに
エターナルは、モリカワに対して、
丁重に、M&A(合併、買収)を
申し出ていた。
その交渉は、友好的に、
今年(2014年)の1月の 上旬までの
約1か月間 行われた。
しかし、結局、両社は、同意には 至らず、
M&A(合併、買収)は 成立しなかった。
エターナルは、事業の多角化や強化のために、
数多くの、同業他社や異業種の会社などを、
積極的に M&A(合併、買収)するという
経営戦略で、急成長を続けている
グローバル(世界的規模)な巨大 会社であった。
エターナルの、2013年の売り上げは およそ
3000億円で、日本 マクドナルドの 売り上げに 等しい。
モリカワの、2013年の売上高は、およそ365億円である。
そのエタナールの 社長、新井 俊平の
長男の竜太郎と次男の幸平が、
ここの店長との、パーティーの進行などの打ち合わせを
終えて、白いカウンターの脚の長い椅子に
腰をおろして、くつろいでいる。
長男の竜太郎は、1982年11月5日生まれ、
身長、178センチ。31歳の独身で、優れた頭脳と
スキル(技能)で、若くして、エタナールの副社長である。
竜太郎は、IT (情報技術)や、IT プロジェクト管理に
社内の誰よりも 精通して、IT に 関することなら、
常に 問題なく、解決する力量を持っている。
そんなわけで、エタナールの、IT システム 構築や、
IT プロジェクト 戦略の 陣頭指揮をとっている。
竜太郎は、経営戦略のリーダとして、
IT(情報技術)を駆使して、最も 効率よく働ける
働きやすい 職場の環境つくりもしている。
また、エタナールの組織が、競合他社に対しても、
常に有利となるための、他社に勝るための、
IT(情報技術)環境つくりやその準備もしている。
そんな竜太郎は、1982年11月5日生まれ、
弱冠、31歳ながら、エタナールの副社長であり、
最高情報責任者、CIOである。
弟の幸平は、1991年3月16日生まれで、
22歳。身長、176センチ。
エターナルの M&A事業部で、企業の合併や買収 を
おもな仕事としている。
エターナルは、1982年、いまの社長が21歳のころ、
小さな弁当屋から興した会社であったが、
数多くの M&A(合併や買収 )を繰り返すことによって、
急成長を続ける、グローバル(世界規模の)会社である。
「うちのおやじ、どうも、モリカワの社長に、感化
されっぱなしじゃないの?」 と 兄の竜太郎。
「おやじも、もともとは、正義感の強いタイプなんだろうけど。
モリカワの社長は、坂本龍馬を尊敬するくらいの、
正義の味方っぽい人ですからね。
モリカワはホワイトで、エタナールは、ブラック企業なんて、
さわがれもするけれど、
でも、エタナールだって、グローバル企業らしく、
社会貢献活動として、難民支援や災害支援も、
ちゃんとやっているわけだしね」 と弟の幸平。
「言いたいヤツには、言わしておけばいいのさ。
それにしても、
おやじ、モリカワの経営理念を見習って、
本気で、社員の待遇改善を
考えてゆくつもりなのかな?
モリカワのように、有給休暇の完全消化の体制や、
完全週休3日制なんてのを、目標にしたら、
経営の体制を、抜本的に変えないと無理だってば!
なあ、幸平。
おやじは、人が良すぎるよな。
モリカワなんて、エタナールの、10分の1(じゅうぶんのいち)
の 売り上げなんだぜ。
そんな小さな会社に、ペコペコするのは、どうかと思う」
「ははは。でも、おれさまは、大企業なんだって、
偉ぶって、独裁的な社長や、裸の王さまよりも、
ああして、腰が低い方が、おれは好きだけど。はははっ」
「まあな。はははっ。それはそうと、きょうのパーティーには、
最近、タレントを始めた、おれの好きな、
小川真央が来てくれるんだ。
おれ、彼女と、絶対に、つきあってみせるから・・・」
「兄さんは、ほんと、女好きで、プレイボーイだよね。ははっは」
「そう、あきれたように、笑うなって!
だって、幸平は、なんのために、仕事して、
がんばってるの?人生を楽しむためだろう?
世のため人のためもいいけれど、
それは、仕事で決めればいいことだろう。
個人的には、迷惑かけない範囲で、楽しむべきなのさ」
「まあ、そうだね」
「幸平だって、美咲さんを諦めることはないぞ。
恋愛は、基本的にバトルのようなもの、
勝つか負けるかのゲームのようなものじゃん」
「ああ、そうだね」
周囲も、イケメンと認める、兄弟は、
ちらっと 眼を 見合わせた。
イタリアン・レストラン、青山エリュシオン・ハウスの、
メイン・ダイニングからは、緑の豊かな庭が 眺められる。
その広い窓からは陽光がふりそそいでいる。
天井には いくつもの シャンデリアが 煌く。
白いテーブルクロスの四角いテーブルには、
肘掛けのついた 紅い椅子が、
四脚の置かれてある。
モリカワとエターナルの社長や社員たちや、
グレイス・ガールズや クラッシュ・ビートのメンバーたち、
およそ 80名が、エレガントな ダイニングで 着席している。
「ただいまより、株式会社 モリカワさまと、
弊社 エターナルの、交流パーティー
を開催いたします。
司会の吉田知美と申します。
よろしく お願い致します」
さわやかな 明るい笑顔で、25歳になる
司会の女性が、開会の 挨拶を始めた。
くつろげるパーティーの雰囲気を
出すために、主催側のエターナルの社員は、
司会の女性など、ほとんどが、
アットホームな ラフな 服装をしている。
招待状にも 『ぜひ、ラフな服装で、どうぞ!』と
記されてあった。
「お店のシェフが 自信を持って作りました
本格 イタリア料理を 充分に
召しあがっていただきたいと
存じます。
お楽しみいただくために、
ゲームや生演奏なども ご用意しております!」
はっきりとした 口調で、
司会の女性が、おだやかに、そういうと、
会場から、拍手がわきおこる。
「主催者を 代表いたしまして、弊社エタナールの
新井 俊平社長から
ご挨拶がございます。
社長、よろしく お願いいたします」
「株式会社 モリカワのみなさま、そのほかの、
ご参加のみなさま、本日は、お集まりいただきまして、
誠に ありがとうございます。
モリカワさんとの、M&A(合併)は、
成立できなかったわけですが、
モリカワさんには、この交渉を、
検討させていただきながら、数多くの経営に関する
ノウハウ(know-how)を、弊社は学ばせていただきました」
スーツを きちんと 着こなしている
新井俊平社長が、そう語ると、
会場からは割れんばかりの拍手がおこった。
「弊社の沿革と申しますか、成り立ちは、もともと、
わたくしども家族がやっていた、小さな弁当屋が
始まりでした。
モリカワさんも、始まりが、洋菓子と喫茶のお店ということなので、
とても、親近感のようなものを感じているんです」
そういって、微笑む、
新井俊平社長に、拍手がわく。
新井俊平は、1961年5月2日生まれ、53歳である。
「今回のM&A(合併)のご相談をさせていただきながら、
つくづく感じたことを、簡単にお話しさせていただきますと、
モリカワさんでは、経営理念が、 従業員 思いなんですよね。
モリカワさんが 掲げる、経営理念では、
社員の幸福を追求しながら、仕事をしていこうという考え方が、
明記されているわけで、そんな理想に向かっていゆく、
勇気のある、積極性や行動に、
わたくしは、驚きとともに、いたく 感心させられているんです。
わたくしにも、若いころには、仕事は、世のため人のため、
そんな思いが強かったんですよね。
それが、忙しさのせいにはできないのですが、
会社を大きくすることばかりに、集中していって、
企業家としての精神の基本といいますか、
そんな初心や正義が薄れていていたわけなんです。
モリカワさんは、そんな、初心を 思い出させてくれたんです。
モリカワさんは、有給休暇の完全消化の体制があることや、
完全週休3日制を、目標にしているところなど、
やはり、モリカワという会社の、すごさを感じています。
正直なところ、弊社では、なかなか、そこまでの、
実現は 難しいのが 現実ですが。
しかし、弊社も、そういう、社員を大切にするの考え方を、
見習わないといけないなと、痛切に感じています。
まあ、会社の躍進は、社員の幸福と共にあることを、
モリカワさんに、あらためて教えられた感じがしています。
社員の幸福と共に、さらなる躍進と成長に向かって、
弊社も、全社をあげて取り組んでまいる所存であります。
本日の 交流パーティーは、そんな、わたくしの個人的な、
感謝をこめて、開催させていただきました。
ごゆっくりと、ご歓談などで、楽しいひとときを
過ごしていただければ、わたくしの歓びでございます」
エタナールの 新井 俊平社長の、
飾らない 挨拶に、
ダイニング会場のみんなから、熱い拍手がわいた。
モリカワ・ミュージック所属の人気 ピアニストの
松下陽斗や、ポップス・シンガーの
白石愛美も招待されている。
清原美樹 の父親で、清原法律事務所の清原和幸や
美樹の姉の美咲や岩田圭吾も
招かれている。
早瀬田大学のミュージック・ファン・クラブ(MFC)の
幹事長の矢野拓海や副幹事長の
谷村将也、会計の担当の
岡昇たちも来ている。
美樹の親友の 小川真央もいた。
小川真央は、アルバイト程度だが、
モリカワ・ミュージックに所属してテレビタレントの
仕事を始めている。
「では、株式会社モリカワの森川誠社長に、
乾杯の音頭を頂戴したいと思います。
みなさま、お手元のグラスに、
お飲物をご用意ください。それでは森川社長、
よろしくお願いします!」
愛くるしい笑顔で、司会の 吉田知美が、そういう。
「わたしと、新井社長とでは、7つくらい、
わたしのほうが 歳をとっているんですが、
このわれわれの外食産業の業界では、
新井社長は、大先輩なんです。
その新井社長からは、お褒めの言葉を
頂戴しまして、大変に、うれしく、
光栄に思っております。
では、みなさま、ご唱和 お願いいたします。
みなさまのますますのご繁栄、
ご健勝を祈念いたしまして、
カンパーイ!」
髭の似合う 森川 誠が、満面の笑顔でそういうと、
みんなも、笑顔で、「カンパーイ!」といって、
手に持ったグラスを 寄せたり、合わせた。
≪つづく≫ ーーー 31話 おわり ーーー
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