第655話関白殿、二月二十一日に(10)

清少納言先生:続きをお願いします。

舞夢    :了解しました。


中宮様の御座所近くにある軒端の桜が、露に濡れても濃い色とはならなくて、太陽の光を浴びて萎んでしまって、どうにも見栄えがしません。

それだけでもがっかりしてしまうのに、夜明けてすぐに見ると、まさに邪魔な状態。

本当に早起きをして、「涙にあふれて別れたと思われるような顔とされ、気落ちしてしまう」などと言っていると、中宮様がその言葉をお聞きになり、

中宮様

「そういえばその通り、雨の降る音がしていましたね、そうなると軒端の桜はどんな状態かしら」

などとおっしゃられます。

それでも、中宮様のお目覚めの頃には、関白殿の御許から侍の者や下仕えの者などが何人もやってきました。

その桜の木に、さっと近寄って引き倒し、手に担って音もなく去っていきました。


清少納言先生:はい、そこまで。

舞夢    :先生と中宮様、関白殿の桜を心配する気持ちが、同じだったようですね。

清少納言先生:はい、やはり心配で仕方がなかったのです。

舞夢    :桜花と涙の歌とは?

清少納言先生:「桜花 露に濡れたる 顔見れば 泣きて別れし 人ぞ恋しき」拾遺集からです。


※関白殿、二月二十一日に(11)に続く。

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