第441話宰相の中将斉信(10)

すると源の中将宣方様は、上得意な声となりまして

「これはこれは、素晴らしいことを教えてさしあげましょう」

「実は、とある事情によりまして、昨日のことですが、斉信の中将が陣の座におられる時に、教えを請うたので、それゆえに似てしまったようなのです」

「何よりも、清少納言様が、『どちらさまですか』と、お心のこもった様子で尋ねされたのですから」などと話しかけてきます。

私(清少納言)としても、宣方様はかなり練習をしたのだと思いましたし、そのような男性の物の考え方を、面白く感じます。

このような詩句だけでも、宣方様が吟じれば、私が端の近くまで出て、お話をします。

そのような様子を、宣方様は

「これは宰相の中将様のお力ゆえ、私こそ、彼に向かって拝まないといけません」

などとおっしゃります。

下局にいながら、私が「中宮様のおそばに」などと、下仕えの者に言わせた時に、源の中将宣方様がこの詩句を口ずさむと、私は「実はここにおります」などと返します。

中宮様には「このような事情がございまして」と申し上げるのですが、中宮様は、ただお笑いなされるのです。


宰相の中将斉信(11)に続く。

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